「WATARIDORI」映画製作裏話

「WATARIDORI」映画パンフレット★映画基礎データー★
「WATARIDORI」
2001年 フランス映画
監督 ジャック・ペラン
撮影 ミッシェル・ベンジャミン
脚本 ステファン・デュラン

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世界20ヵ国以上で3年に及ぶ撮影を実施したドキュメンタリー「WATARIDORI」です。
100種類以上の“渡り鳥”が北極を目ざし、
また元の場所へ戻っていく旅の模様を克明に映し出します。
大自然をバックに群れを成して飛ぶ鳥たちの美しさが感動を呼ぶ労作です。

見た人の評価ははっきり二つに分かれていて、
絶賛する人と退屈だったという人のどちらか。
一体これはどういうことかというと、
映画は特定の鳥の群れを追いかけるのではなく、
次々と100種類以上の“渡り鳥”が登場し、
若干のナレーションと世界地図上を移動する群れのCGが二場面ほど出てくるだけ
で、
あとは音楽と飛ぶ鳥の映像が延々と続くからです。

鳥の擬人化はもちろん、生態の解説というものもほとんどない。
ディズニーの動物ものや、TVの動物ドキュメンタリーのような判り易さはまったく
無いため、
拒絶反応を起こしてしまう人と、
余分な解説無しのシンプルさに感じ入った人の二つに観客が別れてしまったからで
す。

ジャック・ペランの前作、昆虫のドキュメンタリー「ミクロコスモス」は不勉強にし
て未見なので、
同じような構成がとられているのかどうかは不明です。
ご覧になられた方のご意見を伺いたいです。

荒れ狂う高波に飲み込まれるアホウドリや36,000キロという最も長い距離を泳いで渡
るキョクアジサシを撮影するため、スタッフは6チームに分かれて世界の極地へと赴
いたそうです。
 訪ねた国は40カ国以上。スタッフとしては撮影のために特別に造られた超軽量
航空機のパイロット17人、14人の写真監督、5人のアニメ映画監督、9人のフィクショ
ン映画監督、そして鳥類の専門家も参加しているそうです。

特製軽飛行機で鳥を追うという手法は、
あちこちの万博のパビリオンなどに先例があり、
特にオリジナリティがあるものではありませんが、
ここまで広範に長期に渡ってロケーション敢行された例は
ありませんし、恐らく同様の手法による作品が再び作られることも無いと思います。

カメラは険しい山々を一気に飛び越えようと凄まじい風に立ち向かうが叶わず
落下していく鳥や
また人間の出した重油交じりの泥に足を取られて、
飛び立つことが出来なくなる鳥の姿をあるがままに描き出しています。

一方、物語の主軸を成す鳥たちに関しては、
フランス郊外に約40種類1,000羽を集めてトレーニングを行ったそうです。
いわゆるスタントのための調教ではなく、スタッフたちが、
鳥たちがより自然に動けるように、
卵の頃から人の声や機器の音に慣れさせるという事をやったそうです。
鳥たちは、撮影の超軽量航空機が群れの真ん中を飛んでも、
平然と飛行できるようになっています。

本当のところ、人間に警戒心を抱かなくなってしまった鳥を空に放った時、
天然の鳥とまったく同じに”渡り”をするものかどうか、私には判断が付きません。
作為ではないにしろ、何かしら人工的な影響が出ているのではないか?

その疑念に明瞭に答えるに足る”渡り”の学術裏づけを用意することは無理のようで
す。
だれも本当の”渡り”の姿を自分の目で見た人間なぞいないからです。
ともあれ3年間の撮影で述べ300時間のフィルムが出来上がり、
製作費は20億円に及びました。
これはドキュメンタリーの総製作費としては世界一だそうです。

自然そのものを写し取ることは望めませんが、
より近いものをもとめて多大な労力と忍耐がかつて無い規模で投入されたことに
対しては、それを疑っては製作者達に失礼というものでしょう。

この映画に、ステファン・デュランという脚本家がいてちゃんと仕事をしています。
安易な擬人化を排するというのも映画として演出された部分でしょうし、
特定の群れを追うのでなく、見た目の華やかな明瞭な渡りの特徴の違いをもった百種
ほどを
選んで追いかけるというのも、構成上の決断でしょう。

渡りは、基本的に南北の軸にそって行われるのだそうです。
北欧の温暖な気候の中で過ごす鳥たちは、
秋の訪れと共に、熱帯地方やエクアドルなどの、より穏やかな気候を求めて移動す
る。
渡り鳥は主に四つの移動軸にそって移動することが判っています。

北アメリカに生息する鳥は(ハクガン、シジュウカラガン、カナダヅルetc)
アメリカ合衆国の南方、中央アメリカ、あるいは南アメリカに移動します。
 ヨーロッパやアジアに生息する鳥は(クロヅル、コウノトリ、ツバメ、ダイシャク
シギetc)
アフリカの方向へ飛び地中海を越えるか、
あるいは迂回してスペインや中近東を目指しています。
アジアの鳥たちは(ガン、シベリアヅルetc)はインドへ向かい、
ヒマラヤ山脈を迂回して、西か東を目指すか、
あるいは直接エベレストの峠や頂上を越えていきます。
また、コオバシギなど、アジアの南東方向に飛び、オーストラリアやオセアニ
アを目指す鳥もいます。

一見ランダムに登場する渡り鳥達は、
実はこの四つのグループに分かれて紹介されていきます。
全体の構成はあらかじめ観客に明らかにされているわけではなく、
環境破壊や弱肉強食の掟などのメッセージが横横断的に出てくるので、
何がどのように語られているのか、判然としにくくしています。
私はこれを構成の洗練と捕らえています。

海洋学者ジャック・イブ・クストー船長が記録映画「沈黙の世界」を発表したのが56
年。
今日までに多くの記録映画が作られ劇場で、博物館で、博覧会で、テレビで発表され
続けてきました。
鳥の交尾の儀式や、巣篭もりの様子、子育ての悪戦苦闘など、
個別の情報はかなりのところ、私達のもとに既に提供済みです。
見れば判る部分だけを残して画面として登場させ、
音楽で理解させる。
このため音楽はほとんど切れ目無しに流れ続け、
恐ろしく饒舌な内容になっています。
製作者達は、これで必要なメッセージは伝わると考え、
劇場公開時には事実多くの観客が満足して劇場をあとにし、
あるいはリピーターとなって劇場に戻ってきています。

大人は無論、中学生以上ならこれで十分堪能できるはずですが、
小学生以下の児童にはいささか不親切ですので、
ナレーションや字幕をもっと増やしたバージョンというのを作っても良いのかもしれ
ませんが、
それは良くある「日本語版」以上に気配りをしないと、製作者の意図を裏切る作品と
なる可能性が高いです。

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