今月の【喜・怒・哀・楽】 曽我なぎさ
ジャッジ
スポーツ競技はプレイヤーがいれば成立する訳ではありません。ジャッジ役が必要なんですね。審判がいなければ、プロレスだってボクシングだって、喧嘩になってしまう。でも、このジャッジが簡単じゃない。プロ野球なんかでも「別のアンパイアだったら、あれはストライクでしょ」なんて話が結構あるようです。どの審判に当たるかで投手の好不調が左右されるとなれば問題ですよ。そこが“野球の味”だ、という見方もあるようですが。
それにしても、7月2日の巨人阪神戦ほど、ジャッジの怖さを痛感させたゲームはないんじゃないかしら。本塁上でのクロスプレーのセーフかアウトかの判定。0対0の緊迫の試合展開。8回2死での阪神の攻撃場面。二塁走者は阪神の森下。ここで打者の大山が放った強烈な遊撃手前への安打のこぼれ球を猛烈にダッシュして吉川が本塁に必死の送球。2類走者の森下を3塁に止めて本塁生還だけは許さないという対応です。ごく当然な判断だと誰もが思ったことでしょう。
しかし驚いたことに、三塁コーチは腕をぐるぐる回して森下に本塁突入を指示したのです。どう考えてもギャンブルですよ。タイミング的には森下の本塁ベース上での憤死は避けられない。しかし、吉川の本塁送球が一塁側にそれてしまったのです。森下が生きるわずかの隙が生じた。でも判定は、“やっぱり”アウト。ここで藤川阪神監督はリクエストを要求したんです。
微妙なプレーに対して映像(ビデオ録画)での確認を求める藤川監督の胸の内は“ダメモト”だったと思います。しかし、このジャッジが凄かった。映像確認の結果、この生還プレーは“セーフ”と判定された。舞台が甲子園球場でしたから良かったものの東京ドームならどうなっていたことでしょう。
巨人の阿部監督はボールを片手に持って投手交代を告げるポーズをとりながら主審に近づき、何やら話し始めたのです。すると、主審は右手を振り上げ阿部監督に退場を求めた。リクエストによるジャッジに対して“異議を告げる”ことは出来ないらしく、ルール違反だという訳ですね。阿部監督には10万円の罰金まで申し渡されましたよ。
このリクエストによる“再ジャッジ”には、原則があって、ビデオ録画映像において“明らかに主審者の判定が誤りであったことが認められた場合に主審者の判定と異なる判定を下すことが出来る”んです。
“明らかに判定が誤り”と言えるだけの録画映像があったんでしょうか。検証録画映像は場内の大型画面で何度も流され、角度の違う映像によって、両軍の応援団がそれぞれ歓声を上げることがよくありますが、クロスプレーの判定を平面映像で行うのは困難なんです。
しかも、この日の試合展開上、このジャッジは試合の勝敗を決めるほどの大きな意味を持っている。
司法の場なら、“疑わしきは罰せず”の大原則が持ち出されるところです。あのビデオ判定なら、“主審の判断を覆すにたるまでの証拠は認められない”というところでしょう。阿部監督はそこを確認にいったと思うんですね。“異議を表明する”感じじゃなかったですよ。
テレビ放送で解説をしていた前阪神監督の岡田さんも、「審判はちゃんと説明せなアカン! 観客の皆さんだって腑に落ちんですよ、通常のプレーのように両手を広げるか、コブシを突き上げるかで済ませられる場面と違うんや! 審判はそんなことも分からんのか。ホンマ情けないわ・・・」。
さすがは日本一監督。自分の出身チームに有利なジャッジだったからOK、とは言わなかったですね。むしろ、巨人の阿部監督への同情が滲む言い方でした・・・。
いっそのこと相撲のように取り直しをしたら良いのに、と思いました。もう一度、吉川がボールをキャッチし、森下が走り出すところから再実技(リアル・リプレイ)したらどうですか。場内のお客さんも大喜びだったと思うけれど。(これは冗談です、念のため)。
最近、競技のジャッジに様々なハイテックが導入されていますが、プロ野球は遅れていますね。サッカーなんかボールがインしたかどうか、中継放送レベルではない判定専用設備を入れています。あの有名な“三苫の1ミリ”は、だからこそ生まれたんです。
メジャーの方はいろいろなシステムを試行しているようですが、プロ野球も負けずにやりましょうよ。例えば、ボールにセンサーを入れタッチした瞬間の時刻(何百分の1秒レベル)がメモリーされ、ベースにもセンサーがあって選手の身体がタッチした瞬間の時刻がメモリーされるようになれば、今回のクロスプレーの超際どいプレーの判定も多少は科学的になったはず。際どいクロスプレイのジャッジなど、人間には不可能なんですから。
陸上競技の順位判定のような既成技術もあるんですから大いに活用しましょうよ。プロ野球はあらゆる競技の要素を持つ総合競技なんですから、ジャッジのハイテク化でも最先端を行ってほしいんですけれど。