今月の【喜・怒・哀・楽】  曽我なぎさ

一国二制度


香港が英国の統治から開放され中国に返還された時、この言葉、よく使われましたよ。

社会主義国の中国の一角に、香港に限って資本主義国の体制が時限的に残されたんです。便宜的なものでしたが、やがて香港の統治に中国政府が強く関与していき、当初予定より早く香港も中国的統治に変貌していきました。“一国二制度”なんて今や誰も言いません。水と油みたいなものが一国内に並存すること自体、異常なんですし・・・。“正常化”したと言うべきか、民主主義の芽が摘まれた、と言うべきかは別にして。

今回は、野球のおける“一国二制度”のお話。
日本のプロ野球がこれなんです。パリーグとセリーグでは制度(基本ルール)が違うんです。パリーグではDH制の野球をやり、セリーグでは非DH制の野球をやっている。

最近、これって別の競技ほども違うんだなぁ、と思い始めました。単に、ピッチャーが打席に入るか入らないかだけの違いじゃない、と私も昔は思っていましたよ。

でも、野球のやり方を根底から変えるほどの違いなんです。高校野球で注目された投手が、パリーグチームかセリーグチームかのどちらにドラフト籤をひかれるかで運命はまるで違ってきますよ。たった一回のくじ引きの結果で、です。

投手だけじゃなく野手も影響を受ける。得点の好機となれば投手に変えて代打が送られるのがセリーグの野球。もっと投げたいと思っている投手は力を延ばせず、代打専用の野手が生まれやすく、起用が安定せず力を出しきれないままにオシマイにされることだってある。DH制のパリーグでは、そんなことに関係なく投げられるだけ投げるし、守備を免れた野手は打撃だけに集中して、自分の能力を延ばしていける面がある。

その結果、パリーグの方が優れた投手や大型スラッガーが育ちやすい。当然、監督の作戦の仕方もセリーグでは“その場その場の選手起用”に陥りがちで、大きな戦略構想力が育ちにくい。ほんとに影響は大きいですよ。

最近そのことを考えさせられたのは、ソフトバンクから移籍した巨人の甲斐捕手を見て・・・。

日本のプロ野球界を代表するキャッチャーだけれど、あんなに打てる人だとは驚きました。パリーグでそんなに打てなかった人が、セリーグに来た途端にバンバン打つなんて、セリーグのピッチャーって、やはりパリーグのピッチャーより劣る?。

一方、あれだけ盗塁を刺してきた人が、セリーグに来た途端にまるで刺せなくなった。ああぁ・・・セリーグの野手ってパリーグより脚が早いのかなぁ・・・。

両リーグでは野球の“感覚”が全く違うからなんでしょうね。捕手として投手のリードにもテキメンに影響する。巨人では従来から、投手との相性で複数の捕手を使い分けてきました。でも、“天下の正捕手、甲斐”が入ったことで、ほとんどキャッチャーは甲斐に限定されてしまった。小林捕手なんか、菅野投手の“名女房”と言われていたのに、菅野がメジャーに行ってしまって仕事がなくなっちゃった。DH制のない野球では、打者は8人しかいないようなものだから、ついつい打てる捕手を使いたくもなるし・・・。

“戸郷ショック”にしてもね、セリーグ野球に慣れ、従来からコンビを組んできた捕手を起用していたなら・・・なんて言いたくなるし。“マー君”にいたっては、パリーグの野球しかしてこなかったバッテリーコンビになってしまって結果はボロボロ・・・。

少し言い過ぎたかも知れませんが、いよいよ交流戦が始まりますんでね。これって、DHに慣れたチームと慣れていないチームとの戦い。だから、“噛み合わないゲーム”や“一方的なゲーム”が多くなるのかも。それが、ペナントの行方を大きく左右するとなるとチョットね。“一国二制度”の日本野球。交流戦を観戦しながら、今年も問題意識を新たにするとしましょう・・・。


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