この人にエールを!

井端弘和 氏
貧乏くじをひいてしまったな、という人がある。今年のWBSで侍ジャパんを率いる井端監督への同情というか悲観というか・・・。
前回のWBSがとにかく出来すぎだった。まさに野球の神様がシナリオを書いたようなドラマチックな展開だった。この時の監督は栗山英樹氏。シナリオは神様の仕業としても、演出したのは栗山監督に他ならない。そして主演は言うまでもなく大谷翔平だった。投打に活躍し、最終戦の9回には抑え投手としてマウンドに立った。勝利の瞬間にグラブを放り投げ雄たけびを上げた姿を多くの人が記憶にとどめているだろう。
豊富な投手陣を“コーチングプレーヤー”なみの包容力でまとめたダルビッシュ有。大谷&ダルの二枚看板を軸に据えた投手起用が栗山監督の基本戦略だった。そしてこの二人を日本ハム時代から育て上げたのは他でもない栗山監督だった。
このトライアングルは促成ではなかった。年季が入っていたのだ。ダルのメジャー挑戦も大谷の二刀流志願も、“選手の夢に賭ける”監督哲学があったればこそ、と云えないこともない。そして、前回のWBSの勝利は、ダル&大谷が“恩師”への感謝の思いで参戦した結果だった。
そんな栄光を引き継ぐ今回のWBSの監督など、引き受けるのを躊躇するのが普通の野球人の感覚だろうが、この人は引き受けた。まず、そのことだけでも評価に値する。
しかし懸念が大きいのも事実だ。そもそも井端氏には、まともな監督経験がない。野球の軸は選手と監督との信頼関係である。内外から集められた一流選手たちとの関係は悪くもないだろうが、特別の強さがあるわけでもない。
現場で初めて出合った選手たちの起用が、はたして上手くいくものだろうか。人間同士である以上、結果が裏目に出た時などは、感情的な負荷も生じる。しかし、遠慮していたのでは監督は勤まらない。そんなことは百も承知の上での監督就任であったろうが。
井端氏は選手としても順風満帆のキャリアを重ねてきた人ではない。1997年ドラフトで中日ドラゴンズに入団してから、レギュラーを掴むまで苦労の連続だった。今やショートの守備の名手としてレジェンド扱いだが、入団間もない頃は、後輩の福留孝介にショートのレギュラーをとられ、ベンチ待機を長く強いられた。“出番があったら絶対にものにする”というスピリッツが今回の監督就任にも作用したのかもしれない。
才能が花開いたのは2001年になってからだった。2番ショートとしてレギュラー定着。苦労人らしく他の選手への気遣いも半端ではなく、2004年には選手会長に推され、リーグ優勝の牽引車となった。その後、2013年には選手としてWBCにも参加し活躍している。このWBCの実戦経験が、今回の監督オファーの鍵になったと思われる。
2015年に現役引退。2000本安打まで、あと88本という悔いの残るリタイアだった。決して、“ツキのある”方ではない。
今回の侍ジャパンのメンバーを見ても、ダルビッシュは投げられず“コーチ”役に選任し、大谷もまた二刀流が封じられ打撃専任となれば、投手のコマは前回大会より明らかに落ちる。さらに、西武の平良海馬や阪神の石井大智が負傷で辞退というアクシデントが生じた。既に井端監督の計算は狂いが生じている。
それでもこの人は諦めまい。少々、投手が撃たれても、野手が好守備で投手を助け、ここ一番での巨弾炸裂でゲームをものにする。そんな野球を期待するファンは多いのではないか。
但し、間違っても自分の“野球哲学”に固執しないでほしい。一流プレーヤー揃いのチームでは、彼らの個性や考え方を優先する方が良い。監督はアドバイザーぐらいで良いのではないか。
バスケットボールの世界では、男子日本代表のトム・ホーバス監督が事実上の解任になった。スタープレーヤーの八村塁選手との考え方(バスケ観)の違いが直接的な原因ではないというが、中心選手との折り合いの悪さが懸念されたことは否めまい。実質的に“選手が監督人事を左右”するとなれば、チームは内側から崩れていくだろうに。
井端氏に限って、そんなことはないだろうが、優勝にこだわりすぎれば、チーム内外で采配への疑問や批判が出てこないとも限らない。優勝など二の次で良いのだ。選手一人ひとりが、“らしさ”を存分に発揮するWBCにしてくれることを心から期待したい。
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