Couplet
1994年のアルバムなのに、今のコンサートのメインの曲がたくさん詰まっているアルバムである。前年のカーネギーホールに続いて、7/1にロンドンのロイヤルアルバートホールでの公演を終え、あのどんよりとした欧州の空の色に心打たれて帰国した真梨子さんの心境。
「浪漫詩人」が、カーネギーなのかロイヤルアルバートなのか、また日本の地方の会場なのか。コンサートシンガーとしての孤独を表現するこの名曲が、17年前の曲であることを思うと、毎年真梨子さんはその使命的な存在と向き合って生きてきているわけである。当時はまだ、コンサートを一緒に愉しむという感覚はない。
もしかしたら、「遥かな人へ」が、およそ失恋のストライクゾーンからはずれ、友愛を表現していることからも感じられる。
客観的に歌うことにかなり神経を使っていたのだろうか。リレハンメル・オリンピックの曲をというNHKからのオーダーに対して、実はかなり硬いテーマで書いている。結果として中学校の卒業式で歌われる世界が、高橋真梨子の世界の中にあるという評価は、私には考えられなかった。
むしろ、オリンピックの総集編で、「素足のボレロ」が、文字通りラストシーンで流れ、スロー再生された名シーンのバックで真梨子さんのヴォーカルが流れたことのほうが、その刹那的な一瞬に燃える恋を凝縮させ、連想させるのであった。
貴方はビロードのシンフォニー 私はずっとそばにいる
貴方は待ちわびたオーロラ 私はずっとここにいる
これが、二行連句という押韻のフレーズを表す意味としてのクープレを象徴する部分である。心がやまない熱い想い、真梨子さんが表現したかったのはこの想いである。だから、ふと振り返ると「浪漫詩人」のフレーズ、あのときの浪漫は歌えないという辛い哀しい気持ちにとらわれてしまうのであろう。
貴方のそばを歩いているのに いつも一人ぼっち
と真梨子さんに語らせる「そして愛は」永遠の名曲である。
同時に、ロイヤルアルバートでは歌っていないのにコンサートで歌っているかの錯覚を起こさせる素晴らしい仕上がりである。
「そっとLovin' you 」「Moon Tree」
「泣かせないでよ」と名曲が続く。昔、「合言葉は音楽気分」というTV番組のインタビュー中で、どういう男性が好みですかの問いに「女性を泣かせない人がいいんじゃないですかねぇ・・・」と言っていたので、思わず録音現場でのいろいろなエピソードが詰まっていると思ってしまった。そんな風に聴いているのは私だけなのであろうか。
1994/10/2の東京厚生年金会館のコンサートでは、
「Brown Joe」で幕が下り、アンコールの一曲目が「Sincerely」
メンバー紹介のあと、「 for you 」
ラストに 「 そして愛は 」であった。ぞくぞくする選曲と並びである。
大変申し訳ないが、カバー曲を歌う時間と必要性を感じない。
ストレートに高橋真梨子の世界がそこにある。
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