河合メンタルクリニック


王者の驕り 〜オリオン〜

 冬の夜空は1年中でいちばんにぎやかで美しく、中でも「冬のダイヤモンド」をはじめいくつもの1等星が冷たく澄んだ空に輝きを競うさまは、豪華絢爛の一言に尽きます。因みに、「冬のダイヤモンド」とは、リゲル「オリオン」、シリウス「大いぬ」、プロキオン「小いぬ」、ポルックス「ふたご」、カペラ「ぎょしゃ」、アルデバラン「おうし」の6つの1等星が六角形をつくっているようすを表わしています。大三角とよばれる1等星のつくる三角は春、夏、冬の3つがありますが、オリオン座のベテルギウス、シリウス、プロキオンのつくる冬のそれはみごとというほかはない正三角形です。ベテルギウスの赤、そして中国で「蒼き狼」にたとえられるシリウスのエネルギッシュな青白さを見ていると冬のきびしさが一層身に沁みます。    

  冬の星座                

1 木枯途絶えて冴ゆる空より

  地上にふりしくくすしき光よ          

  ものみな憩えるしじまの中に

  きらめきゆれつつ星座はめぐる   

2 ほのぼのあかりて流るる銀河       

  オリオン舞いたちすばるはさざめく

  無窮を指差す北斗の針と

  きらめきゆれつつ星座はめぐる     

 昔は中学校の音楽の教科書にありました。朝のNHK「まんてん」でヒロインの両親の思い出の歌として久し振りに聞くことができました。ある詩人が「空にオリオン座のある限り私は幸せだ」と言ったそうですが、形といい、輝きといいオリオンは全天の王者といってもいいでしょう。人々が星をながめるのはおおよそ家路につく夕方から8時ころまでですから、その季節の星とはその時間帯に天頂から南にかけて見える星ということになります。それでオリオンは師走の空ではその腰帯である三ツ星が東に縦に並び、頭を北に寝ている形ですが、お正月明けあたりからちょうど襲ってきた「おうし」に立ち向かうように起き上がり、右手のこん棒をふり上げてくるのです。「冬の星座」では「オリオン舞いたち」と歌われ、宮沢賢治も「星めぐりのうた」の中で「オリオンは高く謳い 露と霜とを落とす」とうたっていますが、これらはすっくと立ち上がるオリオンの姿を何とよく表わしていることでしょうか。

 さて、モデルになったオリオンはギリシアの海の神ポセイドンの息子で背の高い美丈夫、天下に並びなき狩人でありました。しかし自分の腕前を自慢して「天下に自分より強い者はない。」と豪語していたため神の怒りにふれ、大地の女神の放ったさそりに刺されてあっけなく死んでしまいました。それ以来さそり座が沈まないとオリオン座は昇って来られなくなりました。大男も小さな毒虫にかなわなかったのです。王者の驕りを人は裁くことができなくても、神は裁くことができます。もし周囲の驕れる人に腹が立ったとき、ふとオリオンを思い出してみては如何でしょう。

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