河合メンタルクリニック


美の代償 〜四季の始まり〜

 「三日見ぬ間に」慌ただしく桜が咲き、そして散り早くも若葉の季節となりました。星空の方もすっかり主役が交代してしまいました。2月に「冬のダイヤモンド」をご紹介しましたが、今月は「春のダイヤモンド」です。オリオン座などが作る「冬の大三角」、七夕の星たちの作る「夏の大三角」ほど有名ではありませんが「春の大三角」もきれいな正三角形で、星占いにも出てくるしし座のデネボラ、おとめ座のスピカとうしかい座のアルクトゥールスが作っています。 

 

春の大三角から

北極星をみつける方法

 このデネボラとアルクトゥールスを結ぶ線に垂直二等分線をひくと、その線は何とスピカから北斗七星の柄の付け根を通り北極星に届きます。その同じ線上で北斗七星の下に有る星をコ−ル カロリといい、これと春の大三角をつないでできる四角形が、「春のダイヤモンド」と呼ばれているのです。

 さて私たち一家、久しぶりに五月の連休3日ほどを谷川岳の残雪を仰いで過ごしました。あたりはちょうど桜も八重に替わって木々の様々なやさしい色合いの芽吹きに華やかさを添え、雪解け水を集めた豊かな利根水系の岸辺を黄色いスイセンがうめつくし、沼田のりんご畑も真っ白な花ざかりでした。昼は地の花、そして3日の夜はみごとな天の星。何度も来ていても星空に恵まれたことはあまりなく、昔東京でも見えた北斗七星の柄の2番目の二重星ミザールも、ここでなら息子は見えたと喜んでいました。筆者にはどうもよく見えず、ふと老いを感じてしまいましたが、それでも三等星コ−ル カロリを初めて見ることができたのです。コ−ル カロリはうしかい座を熊(北斗七星)を追っている狩人に見立てたときのおともの「猟犬座」の主星で「チャールズの心臓」という意味です。1660年5月にイギリスのチャールズ2世が亡命先のフランスから帰国して王位に復帰したときに輝きを増したので、ハレー(彗星の発見者)がこの名をつけたと言われています。

 山の雪がとけて花が咲き乱れ、やがて青葉が茂る、そんな毎年の季節の移りかわりはなぜ始まったのでしょうか。おとめ座のスピカとは「麦の穂」という意味。英語のスパイクも同じ語源でとがった穂の形になる穀物や花もスパイクと呼ばれるようですが、バビロニアではこの星がのぼる頃に麦刈りが行われ、農作業のめやすになっていたようです。ギリシアではこの「おとめ」は農業の女神デーメーテールが麦の穂を持った姿とされています。デーメーテールはいつも野山を見回っていたのでこの世は常に春だったのですが、あるとき娘のペルセフォネーが地下にあるよみの国の王プルートーンにさらわれてお妃にされてしまいました。母の女神は兄の大神ゼウスに頼んでプルートーンを説得してやっと娘を返してもらったのですが、帰り際にペルセフォネーがよみの国のざくろを4つぶ食べさせられたので、1年のうち4か月はよみの国に戻らなければならなくなりました。その間女神は悲しんで洞穴にこもっているので、草木も枯れて冬となり、このときから四季の変化が始まったということです。別の神話では美の女神アフロディテでさえペルセフォネーに頼んで「美しさ」を分けてもらったというのですが、その「美しさ」には地下での眠りと悲しみという代償を払わなければならないのでしょう。近頃更年期の女性の間で、ざくろのジュースが流行していますが、この神話を思い出してみるとざくろの効用は古代ギリシアから知られていたのかもしれません。フランスでは美容のためには「少なく食べ、たくさん眠る」というそうです。たしかにフライドポテトを食べて深夜のテレビを見ていたのでは。すべて「休息」によって自然の美も、女性の美も再生されるのでしょう。「少なく食べ」という課題もなかなか厳しい「美の代償」と言えましょうか。

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