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(鹿児島県)紫尾(しび)温泉 強アルカリ泉「紫尾区営大衆浴場」

     通称・・・紫尾温泉神ノ湯(しびおんせんかみのゆ)
  男女別内風呂 各1(pH:
9.4 当日の実測値)。
  泉質・・・単純硫黄泉(低調性、アルカリ性、高温泉) 
  入湯日・・・02年12月30日  電話取材協力・・・鶴田町紫尾区長 中野孝喜氏(03.1.27)

鹿児島県薩摩郡鶴田町紫尾2165−3



「新装の紫尾区営浴場男子浴室」

 


”温泉教授”で売り出し中の松田忠徳氏がその著「日本全国温泉ガイド」(光文社新書、02.6.20発行)の中で「(浴室が古く、きれいでないがそれでもその事が)まったく苦にならないのは」「極めつきの感触の湯(が持つ)」「温泉力の賜物(による)」と山間部のあまり知られていないこの温泉を絶賛しているのが目にとまった。それにその温泉の泉質が、私の好きなアルカリ泉であったので、今回巡回する九州の注目温泉のひとつに加え大阪から遠路訪ねてみた。そうしたら行ってびっくり、ちょうど訪れた1週間前に建替新築オープンされたばかりで、上質の温泉を”真新(まっさら)な”清潔な浴場で体感できるというラッキーに遭遇した。だが後日の電話取材で、マスコミ人気のためか入浴客が極端に増え地元では困っている状況を区長さんから聞かされるのである・・・。(その後松田氏はまたこの区営浴場の事を全国紙に載せてしまった。区長さんがテレビ局の取材を断っているほど困っているにもかかわらず。日本経済新聞 土曜特集プラス1「新・日本百名湯 紫尾」03.2.1 

■上記松田氏の著書には次のように記述されている。「紫尾温泉は紫尾山の麓、地元では秋の風物詩「あおし柿」で知られる紫尾神社(下右写真参照、同書より抜粋)の拝殿の下から自然湧出する名湯で、昔から「神の湯」と崇められてきた。」「pH値9.6、50.8度の単純硫黄泉は超名湯と断言してもいい。素っ気のない薄暗い風呂場であっても、まったく苦にならないのは温泉力の賜物だろう」(この時は建替えないと危険なくらい<区長談>の古い浴室だった)「東北や関東ではなかなか味わえない極めつきの感触の湯である」と。

■水素イオン濃度(pH)による温泉分類。  資料:「温泉のはなし」白水晴雄 技術堂出版 94.8.15
       pH:3未満・・・強酸性泉、pH:3〜6・・・弱酸性泉、pH:6〜7.5・・・中性泉、pH:7.5〜8.5・・・弱アルカリ性泉、pH:8.5以上・・・      強 アルカリ性泉。

■「アルカリの湯」   資料:「温泉で健康になる」飯島裕一 岩波書店 02.4.5
   肌の脂(皮脂)を溶かし、角質層を軟化させるため、肌がすべすべする。(しかし)アルカリが強いと肌がカサカサになる。pH11   以上なら上がる時に真湯などで流した方がよい。 参考:「強酸性の湯」・・・刺激が強く、飲むと酸っぱく、小さな傷口がしみ   る。目に入ると痛い。石鹸の泡もたたない。


■ 九州自動車道「えびのJCT」から鹿児島より2つ目の「横川IC」からR504で約20kmの宮之城温泉のある宮之城町へ、そこから左の標識にあるように県道で6km山手に入ったところにある。左の道路標識は、宮之城市街の3差路のもの。

■右は紫尾神社の拝殿(上記松田氏著温泉ガイドより転載)



■平成14年12月24日建替オープン。訪れたのはその6日後の12月30日。

建物の外観は泉源のある紫尾神社の拝殿を模した造りとなっている。(区長:中野孝喜氏談)

■正面が玄関、その右が温泉棟。右の写真がその側面。



■左の写真は建替え前の建物。やはり神社を模した造りとなっていた。(HPより転載)

■右が”素っ気のない薄暗い風呂場”と書かれた旧浴室(松田氏著の同書より転載)
前は熱めと普通の温度の2槽式だった。
 


■新浴槽は、(男女共)3つに仕切られており、奥から「熱め」当日実測:43℃、「普通」、「ぬるめ」:39℃となっている。浴槽は比較的小さめで1槽に大人3〜6人くらい用である。

■温度の調節は右写真にある混合栓でする。3つの浴槽それぞれに設置され、左の栓が常時開けられている源泉用、右の栓は町営水道水で、温度を下げる為のもの。「源泉温度が元々50℃と高くないため、水道水の混入はわずかで、各槽特に何度と決めているわけではない。前は2槽だったが、子供が熱いというので3槽目を設けた(区長談)。」



 

■脱衣室に掲げてある成分分析表によると、「単純硫黄温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」
水素イオン濃度(pH)9.4。「無色透明、弱硫化水素臭」。泉温・・・50.3℃。(平成13年9月14日、鹿児島県薬剤師会 分析)

■当日のpH実測によると、熱めの浴槽・・・pH 9.4 で分析表にぴったり。ぬるめの浴槽で・・・pH 9.3 。区長の言葉通り、水道水の入っているぬるめの浴槽でもpH値はほとんど落ちていない。

■温泉に入った感触は、ぬるぬる、すべすべ、肌にまとわりつくようで気持ちが良い。その感触は大阪府泉佐野市にある犬鳴山温泉の「湯元温泉荘」の濃い重曹泉(pH 8.6)によく似ている。微かに硫黄の臭いがする。さすがに評判どおりのいい泉質だ。

■入湯した12月30日午後1:00〜2:00に浴室等で話を交わした3組の人達の住所は、宮崎県えびの市、熊本県南部(町名を言われたが有名でなかったので失念した)、佐賀市といずれも遠方からだった。客数は年末という季節がらか少なく男子浴室で5〜10人程度だった。

 

  男子浴室。採光窓がたくさんある上、照明も昼間から灯り明るい。しかし浴室内の湯煙りで
レンズがくもり写真ではよく写っていない。

■当日この浴場の管理者である紫尾区長の中野氏にインタビューできなかったので、TEL番号を番台を管理する娘さんのIさんに尋ねて、翌1月下旬電話取材した。

■「今年のお正月、1日の入浴料金を計算してみると、約18万円、1人:200円だが紫尾区内の人は100円なので(それに半額の子供もおり)、1日、勇に1000人以上は入っていることになる。あまりの多さにお湯の量が足りなくなり、水道水を多めに足すものだからお湯の温度が下がり、ぬるいとの苦情が出た。それで入口でお湯の温度が低くなっています、がそれでもよければお入りくださいと説明するのにたいへんだった。そこへ持ってきてテレビ局が取材させて欲しいと頼みこんできた。もうこれ以上評判になって欲しくないので断りました。」温泉ブームの昨今、マスコミ等で紹介されあまり有名になり過ぎるのも問題があるようだ。
 

 

新装の浴室には男女それぞれ12基ずつの混合水栓とシャワーが完備されているが、「そのカランのお湯にも(ここでは)温泉を使っている」という。しかし上記のように「お湯が足りなくなっているので、(満員の正月以降)男女共半分の6基のお湯は止めている」そうだ。上記のIさんに尋ねると、建替え前から紫尾区外のお客さんが増えていたが、昨年末の建替え後はより一層増加している、という。

■営業時間:5:00-21:30。入浴料:紫尾区内 100円、区外 200円、小人半額。

■毎晩お湯を落として浴槽を洗っているとの事。「(22時に営業が終わって)24時すぎまでかかる。毎日よく掃除しないと、硫黄分のぬるぬるがあつくなって滑って危ない。宮崎のレジオネラ菌騒動で泉質検査もありましたが、大丈夫との事。(区長談)」

 

■左は3月下旬の完成をめざして紫尾温泉のすぐ隣に建設中の「紫尾温泉交流棟」。こちらは区営ではなく鶴田町が事業主体。その企画部署、町役場企画開発課によると、ロビー、集会室、観光用の情報スペース、地場物産品の販売コーナーを予定している、という。運営は紫尾区に委託するのでこれから相談するらしい。
これ以上入浴客が増えると収容能力の小さい区営浴場がますます困るのではないかと、心配になってくる。一集落の先祖伝来の財産である上質の温泉を他地区の人に乗っ取られ地元民の利用が不便になるのは目に見えている。素朴で朴訥な語り口調の区長中野さんの困惑ぶりが気の毒だ。(03年1月28日作成)

 

 

                                                                                                                以上                

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