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ジャズ研究 | 吉岡直樹

お知らせ
ここは、名古屋市在住のジャズ・ベーシスト吉岡直樹のジャズ研究について一部を公開したものです。 演奏スケジュール等については、 http://www.cam.hi-ho.ne.jp/n-yoshioka/をご参照ください。

ジャズを学ぶことの必要性

ジャズ・ベーシストにとって、ベースという楽器の習得に加えて、ジャズそのものを学ぶことが重要です。それはすなわち、アンサンブルにおけるベースの役割(拍とコードのアウトラインを示すこと)を学ぶこと、そしてソロの表現の充実につながります。

もちろん、ベーシストに限らず、管楽器奏者、歌手、ギタリスト、ピアニスト、ドラマーなど、すべてのジャズ・プレイヤーにとっても同様のことがいえます。すなわち、それぞれの楽器のスキルの習得に加えて、ジャズそのもの(さらには音楽や表現そのもの)を深く知ることが必要です。

ジャズの何を学ぶのか

それでは、ジャズを学ぶとはどういうことなのでしょうか。

楽器店や大型書店に行くと、ジャズの理論書が並んでいます。中をみると、多くはコードやスケールのような和声的なものが多く並んでいます。

理論が苦手だという方も少なくないでしょう。そのようなかたが漠然と抱く「ジャズ理論」とは、ジャズのコードやスケールについてのイメージでしょう。

私は、ジャズの「理論」がコード偏重であることに疑問を抱いています。すなわち、アンサンブルの作法、メロディやリズムについての知識や実践的スキルも求められると考えるからです。

しかし、ほかの音楽と同様、ジャズにおいてハーモニーは、メロディやリズムなどと並んでとても重要な要素であることは疑いようもないことも事実です。

ジャズをどう学ぶか

それでは、ジャズをどう学ぶのでしょうか。ここでは、漠然と、ジャズ理論を学ぶことを考えてみましょう。

ジャズの理論書を買ってきて読めば、ジャズが演奏できるようになるのでしょうか。あるいは、少しはましな演奏ができるのでしょうか。

ジャズそのものを学ぶこと、あるいは、ジャズ理論を学ぶことは、それ自体が目的ではなく、より表現を充実させるための手段であるはずです。ジャズ理論書を学ぶことで、そのような表現手段、あるいはスキルを獲得できるのでしょうか。

私もこのことについては長いあいだ試行錯誤してきました。振り返ってみると、ずいぶん無駄な時間も使ってきたように思います。

しかし、今までもっとも役に立ったジャズの学習法は何かというと、それは理論書を読むことではありませんでした。ジャズのレコードを聞き、自分なりに聞き取ったことを記録するという作業でした。

20代の頃、あるベテランのサクソフォン・プレイヤーから次のようなアドバイスをいただきました。1時間楽器を練習したら、1時間座学をせよ、と。

私は、当時その意味がさっぱりわかりませんでした。楽器の練習の重要性はわかります。しかし、座学とは何か。一日4時間楽器を練習したとして、残りの4時間を机に向かっていったいどのように過ごせというのかと、疑問に思ったのです。

聴くことの重要性

今なら、少しだけ、その先輩プレイヤーのおっしゃる意味が分かるようになりました。

簡単にいうと、ジャズ理論書を隅から隅まで読んで理解したとしても、ジャズを聴いたことがない人にジャズは演奏できないですが、ジャズのレコードをたくさん広く深く聴き込んだ人は、ジャズ理論書をまったく読んだことがなくても、ジャズが演奏できる可能性がはるかに高いということです(ただし、必ず演奏できるとは限りませんが)。

確かにジャズ理論は大切です。しかし、そのジャズ理論は、ケース・スタディ(事例研究)を積み重ねた結果、その内容を整理したものといえます。ジャズ草創期の頃は、試行錯誤の結果で、ケーススタディもそれほど重要ではなかったかもしれません。しかし、21世紀になってからずいぶんたった現在、ジャズの誕生から100年以上経過しました。ビバップの革命から数えても約80年が経とうとしています。歴史的な演奏から同時代のものまで、多くの演奏が録音され、CDやインターネットを通じて聴くことができます。

ジャズ理論書は、ケーススタディをする上で、ちょっとした手助けになることはあるでしょう。しかし、ジャズを自分の表現として実践に生かしていくためには、頭で理解するだけでは不十分です。耳で聴いて分かること、それを頭でしっかり理解と判断ができること、そして、自分の楽器で表現できることがセットになっている必要があります。

私はなかでも、「耳で聴いて分かる」ということが極めて重要だと考えています。このスキルは、残念ながらどんなに理論書繰り返し読んでも身につきません。しかし、録音を繰り返し深く聴くことで、「耳で聴いて分かる」というスキルが驚くほど身につくと考えます。これは、コードやメロディの聞き取りだけではありません。リズム、アーティキュレーション、ダイナミクス、他の楽器とのアンサンブルなど、極めて様々なことを今まで以上に深く捉えることができるでしょう。