Autumn In New York

Autumn In New York

基本データ

  • 作曲年:1934年
  • 作曲・作詞:Vernon Duke (1903-1969)

参考音源

Charlie Parker with Strings (1950)
ジャズのインストゥルメンタルでは比較的早い時期の録音。キーはE♭。
Billy Holiday / Lady Sings The Blues (1952)
この曲にはコーラスに対して2番まで歌詞があり続けて歌っている。キーはB♭。
Bud Powell / The Amazing Vol. 2 (1953)
バド・パウエル・ワールド全開でよくアレンジされている(1小節カットされている)。特にエンディングが個人的には好き。キーはF。
Hampton Hawes Trio / Vol. 2 (1955)
この曲は印象的なイントロで始まるテイクが多いがこれもそのひとつ。キーはE♭。
Kenny Dorham / ‘Round About Midnight Live At Cafe Bohemia(1956)
キーはF。
Mel Torme / Sunday In New York And Other Songs About New York
Verseから歌っている。キーはFだがヴァースは半音低い。

曲目解説

ヴァースもコーラスもひたすら転調を繰り返す難解な曲は、ロシアに生まれキエフの音楽学校に学び、ロシア革命の影響でアメリカに移住したVladimir Dukelskyの作品。Vernon Dukeというペンネームはジョージ・ガーシュウィンの提案だったとか。

1934年に書かれたにもかかわらず、流行り始めたのは1940年代になってからで、その後スタンダード・ナンバー入りしている。

メロディとコード

以下、キーをFとして解説する。

ヴァース

録音資料が豊富に準備できなかったので、手元の譜面資料も参考に解き明かしていきたい。

手元の資料はいわゆる曲集で、これは、一次資料(すなわち版元から出版されたもの)である歌+ピアノ2段譜、すなわち計3段譜のうち、ピアノパート部分のハーモニーをコードネーム化して、リードシートのような体裁にしたものであるが、コードネーム化の作業が著しく的確さを欠いている部分があり、残念ながらそのままうのみにすることはできない。ただし、うまく(考古学的に?)読み解くことで、原曲がどうだったのかということがある程度復元できる。これはこれで楽しい作業であるので、ヴァースの間だけでもしばらくお付き合いいただきたい。

(歌が入るところから数えて)4小節目

手元の資料によれば、Fmと書いてある。一瞬F(maj7)の誤植かと思ったけれども、きちんと出版された歌+ピアノ2段譜のようなものを入手して調べたところ、Fmでよいことがわかった。

7-8小節目

手元の資料では7小節目の冒頭の音がEになっているがこれは誤植でE♭が正しい(同じ資料を持っているかもしれないのでいちおう指摘しておきます)。

ここのコードの解釈は、A♭maj7 G7 | A♭maj7。ただし、オリジナルは、A♭/E♭ G/E♭ | A♭/E♭ | と、ドミナント・ペダル・ポイントになっています。G/E♭は、より機能的にA♭dim/E♭と書くこともできるでしょう。

ふつうにA♭maj7 E♭7 | A♭maj7でも構わないが、これではあまりおもしろくないので、A♭maj7 A7 | A♭maj7 でもよい(例えばPowell(1953))。いずれにしてもここからしばらくA♭メジャーに転調していて、G7はA♭dimの代理です。

10小節目

資料にはFm7とあるが、A♭6を誤って解釈したものと思われる(この手の誤りがこの資料には大変多い)。ただし、A♭maj7 Fm7もしくはCm7 Fm7のようにしてもよいだろう。

11-12小節目

オリジナル資料にあたると、B♭7 E♭7 | Cm7(♭5) / C7sus4 C7 |。調性的にはここまでA♭メジャーで、次の小節でFメジャーに戻ります。

B♭7は、メロディだけを根拠にすると理論的にはB♭m7でも構わないのだが、この小節後半のちょっと劇的な動き(音使い)を考えると、B♭7のほうが適当だと思う。この小節のメロディは、2拍フレーズが半音進行して対を成し、かつ歌詞は4分音符のところで、(pre-)pareとshareで韻を踏んでいる。なお、聴衆の反応をみるため、休暇で滞在していた社交の場所でVernon Dukeがみずから演奏したときに、この小節あたりで、聴衆が明らかに後ずさりしたのだとか。ちょっと響きが時代を先取りしていたのかもしれない。

12小節目のCm7(♭5)は、一見あまり機能的でないようにも思えます。ジャズ和声寄りに解釈するならA♭79のルート省略と考えることもできるでしょう。いっそうのことA♭maj7でもよいという声も聞こえてきそうです。機能的に謎のように見えますが、作曲者の意図としては、メロディ(あるいはピアノの右手)に注目すると、Fm/B♭7 Em/E♭7 | E♭m/C というように、上部構造のマイナートライアドが半音下行しているということが味噌のようです。

もちろん、こんにち実際に演奏する場合はリハーモナイズといって、コードは変えてもよいので気に入ったものを選択すれば良い。

13-14小節目

オリジナルは Fmaj7 Gm7(♭5) | Fmaj7だが、Fmaj7 G♭maj7 | Fmaj7、Fmaj7 Cm7 | Fmaj7 、Fmaj7 C7(♯9) | Fmaj7、Fmaj7 C7sus4(♭9) | Fmaj7 のようにしてもよいかもしれない。

なお、ここから調性はFメジャーのままだが、使われる音階がFメロディック・メジャー・スケールになる。メロディック・メジャー・スケールはメジャー・スケールの第6音と第7音を半音下げたもの。

17-18小節目

資料から無理やりコード表記するならば、Gaug/F G♭aug/C | Faug Eaug/C | のようになっていました。Eaug/Cは、要するにC7(♯5)ということになります。

これは、ベースがそのキーのトニックとドミナントを行ったり来たりしながら、上部の和声が、オーグメンッテド・トライアドで半音下行しながら、ドミナント・セブンス・コード(C7(♯5))に落ち着くということでしょう。

17小節目は、無理矢理に、F7(♯11) C7(♯11) と書くこともできるかもしれませんが、あまり本質的な表現ではないと思います。もともとジャズのイディオムで書かれているわけではないので、このように無理にコード記号であらわすのも無駄な努力ということがわかります。

巨視的に見ればFmaj7ということであり、コーラス(リフレイン)に続くようなコード進行が挟まればよい。ヴァースをテンポ・ルバートで演奏する場合はここからイン・テンポする方法もあるでしょう(もちろんフェルマータしてもよい)。

コーラス

1-2小節目

オリジナルはGm7 Am7 | B♭maj7 C7 | だが、Dorham(1956)のように2小節目2拍目にBdimを挿入することもできる。

しかし、やや古い録音では、Gm7 Am7 A♭7 | Gm C7 | としたりA♭7の代わりにA♭dim7としている演奏も少なくない。前者はHoliday(1952)が、また後者はHawes(1955)などがあてはまる。後者の場合、厳密にはメロディと衝突するが、メロディとコードが同時に発音されるわけではなく、かつ自覚的に演奏されるときには問題にならないことから、ビバップ以降では許容される場合が多い。もちろん、A♭m7という選択肢もあるだろう。

3-4小節目

巨視的にはFmaj7のままで、実際の演奏でもこれでも構わない。ただし、Hawes(1955)のようにFmaj7 Gmj7 | Am7 D7 | としても美しいし、4小節目の3-4拍目をA♭m7 D♭7 とするアプローチ(例えばDorham(1956))はビバップ-ハード・バップ的だといえる(Dorhamはこのアイディアを16小節目でも使っている)。

7-8小節目

古い録音ではAm7(♭5) D7 | Am7(♭5) D7 | であり、このような繰り返しは40年代、あるいは50年代頃のジャズの演奏スタイルによく見られる。ただし、オリジナルは、単にAm7(♭5) | D7 | で、今日もこのスタイルで演奏されることが多いだろう。またHawes(1955)のように、Am7 | D7(♭9)とするとまた違った趣になる。

好みの選択の問題で、譜面をつくるときには自分の求めたいサウンドをきちんと意識し、また、演奏する側は書かれたコードの意図するところをきちんとくみとり、それを尊重して演奏することが重要である。

11-12小節目

前の小節あたりから、A♭メジャーに転調している。

一般的にA♭maj7 | A♭maj7 / Dm7(♭5) G7 | であり、11小節目の後半にE♭7(もしくは、B♭m7/E♭ E♭7)などを入れてもよいが、11小節目後半をD♭7とする場合もある(例えばDorham(1956))。

オリジナルのコードは、12小節目後半が、Dm7(♭5)となっています。これは、13小節目のコードが、Cm/Gとなっていることに関係があります。こんにちのジャズ・ハーモニーの観点からみると、機能的に4小節目にG7が隠れていると考えればよいと思いますし、もし、13小節目にドミナント・ペダル・ポイント(転調先のCマイナー・キーで考える)のアイディアを採用せずにCmとするならば、一般的なジャズ・プレイヤーであれば解説のようにG7を補うことになるでしょう。

13-16小節目

Cマイナーに転調し、その同主調で原調の属調にあたるCメジャーにすぐに転調する。

16小節目は、3拍目までCmaj7を維持して、4拍目、メロディとともにA♭7に行く方法もある。もちろん、素直に16小節目をAm7 D7としてもよい。ここはほかにもいろいろ創造的なアイディアがありそう。

21-22小節目

1940年代のTommy Dorsyの録音が Cm7 Dm7 | E♭m7 F7 | になっており、ほぼこれが標準といってよさそう。調性的には21小節目がB♭メジャー、22小節目がB♭マイナーのコンテクストで考える。もちろん、ソロのときなどにはDm7に9thのエクステンションを加えて、ドリアンにするとちょっと意外な響きになって面白い。

23-24小節目

B♭m B♭m(♯5) | B♭m6 のようなクリシェにする。24小節後半は、B♭m(♯5)に戻ってもよいし、コードをC7にし、クリシェのラインをさらに半音上行させてC7の♭13にするアイディアもあるだろう。

24小節目をGm7(♭5) C7 とすると輪郭がはっきりする(悪くいえばやや説明的)し、D♭7という選択肢もある。いずれにしても好みの問題で、意図があればどれでも構わない。

25-28小節目

メロディが2小節の対になっている(歌詞も脚韻になっている)。そこで、ハーモニーも、Fm C7 | Fm A♭7 | D♭maj7 E♭7 | D♭maj7 | と対にするのだが、しかし、27小節目の3拍目をD♭7とする録音も少なくなかった。たしかに、メロディGに対するD♭7の面白さには説得力があるし、対の表現をむしろ高める効果もあるともいえそうだ。

結局は好みだが、この選択肢は私にはなかったので大変勉強になった。つまり対にして満足してしまって、思考停止してはいけないということだ。

29-32小節目

冒頭4小節と対をなしている。

冒頭をGm7 Am7 | B♭maj7 C7 | で始めたら、ここはGm7 Am7 | B♭m7 C7 | とすべきだし、オリジナルのように Gm7 Am7 | Gm7 C7 | のようにするならこの29-30小節目は Gm7 Am7 | Gm7(♭5) C7 | とするほうが説得力をもつ。後者の場合で、もし1小節目4拍目に何らかのコードを挿入した場合も同様にするほうがよいことはもちろんである。

ただし、何でも対にすればよいというわけでもなく、たとえばDorham(1956)は、B♭maj7 Am7 Gm7 Gm7/F (以上8分音符) E♭7 D7 | D♭7 C7 | としている。これは曲の終わりにとても効果的なアレンジである。

なお、31-32小節目は原曲ではFm であるが、Fmaj7としている演奏もあった。