Blue Minor

Blue Minor

基本データ

  • 作曲年:1958年
  • 作曲:Sonny Clark (1931-1961)

参考音源

Sonny Clark / Cool Struttin’ (1958年)
ピアニストSonny Clarkの名盤の2曲目。トランペットはアート・ファーマー、アルト・サックスがジャッキー・マクリーン、ベースはポール・チェンバース、ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズという最高のメンバー。キーはFm。

曲目解説

同名異曲がいくつかあり、ご迷惑をおかけしました。

ハイヒールで歩く女性のジャケットで有名なアルバム Cool Struttin’。タイトル曲とともに収められたソニー・クラークのオリジナルで、演奏する機会も比較的多いのではないだろうか。

AABA形式で、テーマ部分のブリッジ(B)がラテン(ビギン)風になっているのが印象深い。また、セクションAにもリズム・セクションによるキック(いわゆる「キメ」)があり、各パートとも演奏しがいのある内容になっている。

コードとメロディ

キーはオリジナルのFmとして書く。

1-2小節目

アウフタクトの8分音符7つから始まるメロディは3つあるマイナー・スケールのうち、メロディック・マイナー・スケールに基いている(2小節目も同様)。

そして、1小節目(アウフタクトを数えない)の冒頭と3拍目のオモテに、B(厳密にはC♭)の音がでてくる。これは、コードGm7(♭5)、C7に矛盾しているが、正体はブルー・ノートである。

メジャー・キーのブルー・ノートは、階名のミ♭・ソ♭・シ♭が知られており、これらはメジャー・スケールから外れた音なのでコードとも矛盾し(というか、コードそのものがブルーノートに引きずられてI7、IV7に変化してしまう)、たいへん目立つ存在である。

一方、マイナー・キーにおいて、主音を仮にドとすると(伝統的に短調の主音は「ラ」を使うことが多いが、ここでは比較しやすいようにあえて「ド」とする)、階名のミ♭・シ♭のブルーノートがマイナー・スケール上の音に位置し、唯一ソ♭が外れた音となる。

この曲のこの個所、C♭が、ソ♭(Fmの主音Fを階名「ド」として)のブルーノートにあたり、全体的に短調においてブルージーな響きとなっている。ついでに、この曲のタイトルをもう一度見なおしてみよう。Blue Minorという。

3-6小節目、11-16小節目

シンプルなメロディは、いわゆる「ブルースペンタトニック」に基いている。Fブルース・ペンタトニックは、F・A♭・B♭・C・E♭による5音音階で一般的にFのブルースや、ブルースでなくてもブルージーな演奏場面で想定することができるが、マイナー・キーでも同様にブルージーな効果を与えることができる。

また、5-6(13-14)小節目のD♭7は、ダブルドミナントII7(G7)のトライトーン代理と考えることができる。いずれにせよ、コード・トーンC♭が、前項で述べた「階名ソ♭」のブルーノートとなっており、ブルージーな雰囲気に一役買っている。

17-24小節目

ブリッジ。

全体として平行調のA♭,メジャーに転調している。23-24小節目でFマイナーに戻ることを暗示している。

リズム

基本的にはスウィングであるが、テーマの時だけブリッジ(17-24小節目)がラテン(ビギン)風に演奏される。また、Aセクションにもキックがある。

1-4小節目

「2分音符、付点4分音符、8分音符、全休符」というキックが2度繰り返されている。

全休符の個所、とくに4小節目は、1拍目ウラから始めるメロディにドラムが合わせる傾向があることを見逃してはいけない(2小節目の2小節目も同様に1ウラ・2オモテを演奏しているが、これは録音では前テーマのブリッジ前の2回だけ)。

また、前テーマブリッジ後のキックをドラムが、1(3)小節目の1拍目の打点を半拍後ろにずらして演奏しているが意図は不明。

いずれにせよ、このキックは曲全体を通して6回でてくる。各パートともよく聴き比べて、どこまで決めていて、どの程度はずれている(裁量で遊んでいる)か推測するのも楽しい作業だし、自分の演奏にもどんどん活かしていきたいものである。

5-6小節目

原則的に、キックはメロディーに合わせている。ドラムは全体的にメロディーをなぞり、ピアノは、メロディノートが♭の個所でコンピングしている。

ただ、よく聴くと、ベースは合わせているようで実は微妙にずれていることがわかる(しかも毎回微妙に違う)。これは、単にリハーサルが十分でないなどの理由で譜面が読めずにあわせられなかったか、それともあえて効果を狙ったのか、このあたりの意図はまったく不明である。

ただ、かなり意地悪な聴き方をしない限り気づかないことであり、また、この曲そのものが比較的ルーズな(もちろんよい意味で)ノリなので、また全員がピタッと揃っているよりもむしろ効果的なことから、意図的にそうしたとも考えられなくもない。

7-8、15-16小節目

5-6小節目の延長でドラムはほぼメロディをなぞっている。

ピアノ・ベースのキックの位置はほぼ同時で、7-8小節目は、7小節目の半拍前(アンティシペーション)と、4拍目ウラであり、また、15-16小節目では15小節目の半拍前と4拍目のオモテおよびウラである。

16小節目で、ドラムが次の小節目から始まるラテン風のリズムのきっかけを演奏している。譜面上は全休符になっているような場合であっても、ドラマーは(ときにベーシストも)このようにいわゆる呼び込みのアウフタクトを演奏することが一般に行われる。

ただし、曲や場面によってはあえてそれをしないほうがよい場合もある。このあたりはその人のセンス、さらにいえば音楽性によるところも少なくない。適切な判断や機転がきくようになるために、日頃からさまざまな曲を聴くときにこのような個所をチェックする習慣をつけるとよいだろう。