Bye Bye Blackbird

Bye Bye Blackbird #

基本データ #

  • 作曲年:1926年
  • 作曲:Ray Henderson (1896-1970)
  • 作詞:Mort Dixon (1892-1956)

参考音源 #

Pete Kelly’s Blues (1955)
映画Pete Kelly’s Bluesのサウンドトラック。Peggy Leeがスローテンポで歌い上げる。キーはA。
Miles Davis/’Round Midnight (1956)
ミュート・トランペットに先立つレッド・ガーランドの有名なイントロはとても印象的である。キーはF。
Miles Davis/In Person Friday Nights at the Blackhawk (1960)
‘Round Midnightの5年後の実況録音。マイルス・デイヴィス・クインテットはこの間この曲を主要なレパートリーの1曲としてきた。こちらのウィントン・ケリーのピアノのイントロも有名。キーはF。

曲目解説 #

こんにちジャズのスタンダードナンバーとしてよく知られているが、私の関心をひいたのは、この曲が作曲されてからジャズ・ミュージシャンが取り上げるようになるまで約30年間のブランクがあるということだ。

この曲が作られた1926年に、Gene AustinとNick Lucasが録音し、ともにヒット・チャート入りしている。しかし、当時ジャズ・ミュージシャンがこの曲を取り上げた形跡はない(なお、AustinはのちにFats Wallerのよき理解者となるが、これはまた別の物語)。

この曲がジャズミュージシャンが取り上げ、ジャズのスタンダード・ナンバーになるのは、1955年の映画Pete Kelly’s Blues(邦題『皆殺しのトランペット』)以降である。この映画のサウンドトラックでは、監督・主演のJack Webb以下、スタッフの熱意によって見事に1920年代の音楽が再現され、多くのジャズ・ミュージシャンが注目するところになったという。Bye Bye Blackbirdは、Peggy Leeがスローで歌い上げている。

実際にこの曲をMiles Davisがアルバム’Round About Midnightで取り上げたのは翌1956年。その後、1957年のジミー・スミス、1959年のオスカー・ピーターソンとベン・ウェブスター、ビル・ヘンダーソンと続く。

Verseと歌詞と構成 #

この曲にはよく知られている32小節のChorusに先立って、32小節のVerse(AABA形式)がある。Chorusにつけられた歌詞はひとつであるのに対し、Verseには2つの歌詞がついており、またキーは平行調(マイナー・キー)である。

Gene Austinの1926年の録音を聴くと、短いイントロに続いてVerseの1番、続いてコーラス、ほんのわずかな間奏ののち、Verseの2番、コーラスと歌っている。

こんにちジャズにおいて、Verseは冒頭に1回だけ、たいていテンポ・ルバートで演奏され、その後Chorus部分を何回か繰り返し、そのうち初回と最後をテーマに、中間のコーラスをアドリブにあてる、というのが標準的な演奏方法である。

ところが、VerseとChorusという用法はジャンルや時代によってまちまちである。そもそもVerseとは韻文というような意味であり、ジャンルによってはいわゆるAメロをVerse、Bメロ(ブリッジ)をリフレインという。これらは特に音楽用語というわけではなく、慣用的にそう呼んでいるに過ぎないと考えたほうがよいだろう。

当初の作曲者の意図としては、VerseとChorusを含めて、こんにちわれわれがいうところの「1コーラス」として書いたのかもしれない。Austinは曲中ずっとインテンポで演奏している。

メロディとコード #

以下、特に断りがない限り、Chorusについて記すこととし、キーはFとする。

たいへんシンプルなメロディである。

曲集や演奏によって、つけられるコードはまちまちである。 録音によってはコーラスごとに変幻自在である。

例えばマイルス・デイビス・クインテットは50年代後半から60年代初頭にかけてこの曲を主要なレパートリーにしたが、56年の’Round About Midnightからこの曲を聴き比べてみると様々なことが分かる。

冒頭の4小節を例に見ると、譜面上コードはFmaj7だけが書かれてあることが多い。しかし、実際には、Gm7-C7などが挿入されることがある。

コーラス1234
1,2(テーマ,tp1)Fmaj7Fmaj7Fmaj7Fmaj7
3,9(tp2,p1)Fmaj7Gm7/CFmaj7Gm7/C
4(tp3/ts1)F7(♯11)F7(♯11)F7(♯11)F7(♯11)
5,6(ts2,3)Fmaj7Gm7/CFmaj7Gm7-C7
7,11(ts4,p3/テーマ)Fmaj7Gm7-C7Fmaj7Gm7/C-C7
8(ts5)Fmaj7Gm7-G♯dimFmaj7Gm7-C7
10(p2)Fmaj7Gm7/C-C7Fmaj7Gm7-C7

1960年のBlackhawkでのライブ盤の例でみると、冒頭の4小節のうち、1,3小節目はFmaj7であるのに対し、2,4小節目は、Fmaj7の他に、Gm7/C、C7、Gm7-C7などがチョイスされている。いずれもドミナントC7またはそれから派生したコードである。ソロがシンプルなときにはシンプルに、また少し展開があったときにはその動きに合わせて適宜リズム・セクションのプレイが変化していることが手に取るようにわかる

そして、マイルス・デイビスのソロの3コーラス目(モブレーの1コーラス目)では、Bの音を中心に演奏してソロを終えている。これはこの頃のクインテットで頻繁に行われているアイディア(25-27小節目にも行われる)で、このBの音はメロディの全音上にあたり、面白い効果を与えているのに対し、ウィントン・ケリーがすかさず、F7#11のコードで応じている。

また、ハンク・モブレーのソロの5コーラス目の2小節目では、Gm7-G#dimに基づいたアイディアでソロを展開している。残念ながらこのテイクではケリーはコンピングせず、またチェンバースも完璧なフォローには失敗しているが(サウンドはしている)、柔軟なハーモニー解釈をしながらソロイストとリズム・セクションが対話しているのをききとることができる。

このように、この曲はメロディもハーモニーもそれほど難しいものではないが、きちんとジャズとしてアンサンブルするにはメンバー全員の柔軟なハーモニーに対するセンスや理解力・判断力と、演奏上のコミュニケーション能力が非常に問われるように思われる。

そういう意味で、マイルス・デイビス・クインテットが残した多くの録音は、ジャズのアンサンブルを学ぶ上でもたいへん参考になるといえる。

1-4小節目 #

すでに述べたように、Fmaj7を基本に適宜ドミナントから派生したコード(C7,Gm7/C,Gm7など)がチョイスされる。

Davis(1960)のように50年代以降の演奏スタイルでは1,3小節目をFmaj7に固定することが多いけれども、本来メロディに対しては、3小節目に対してドミナントがフィットする。実際Austin(1926)や映画サントラ(1955)ではそのようになっている。

どれが適切であるかは、テンポや演奏スタイルによって結論が変わってくる。場合によってはクリシェなども有効だろう。

5小節目 #

機能的にはトニック。ベースにAをしてする場合、Am7と書きたくなるところだが、メロディが主音Fなので厳密にはF/Aとすべきだろう。

6小節目 #

原曲はおそらくG7と思われるが、こんにちでは比較的A♭dimが好まれる。

さらに、ソロのコーラスでは、A♭m7(-D♭7)に変更されることが多い。

このように♭IIIdimがソロ中に♭IIIm7(-♭VI7)に置き換えることは、1950年代頃には確立していたと考えられる(例えばAll The Things You Areの32小節目やBody And Soulの4小節目後半など)。

ただし、このハーモニーの置き換えは多くの場合ストレート・メロディには合わないので注意が必要だ。この曲の場合、A♭m7はメロディ(G音)にフィットしない。

Davis(1956)では5-6小節目をFmaj7-(B♭7)|Am7-D7|のように演奏している。もし、6小節目がD7だけであればメロディGと衝突するが、Am7が入っているので、よほど潔癖を決め込まない限り許容範囲だろう。

7-8小節目 #

大きく、Gm7|C7|としてもよいが、9小節目がGm7なので、リズム・セクションには譜面に何も書かれていなくても直前にD7を入れるという選択肢は常に頭のどこかにおいて置くのがよい(演奏するかしないかはその時の判断でよい)。

または、はじめからGm7|Am7-D7|かGm7-C|Am7-D7|にしてしまうという手もあるだろう。

9-12小節目 #

1-4小節同様、スタイルによっては、たとえGm7しか書いていなくても適宜D7,Am7(♭5)-D7,Am7(♭5)/Dなどを挿入する可能性を念頭に置く。

また演奏スタイルによってはクリシェも有効。

17-20小節目 #

Davis(1956)ではAm7(♭5)を3小節、残り1小節をD7としているが、1960年の録音ではF7|E7|E♭7|D7|を基本にしているようだ。もちろんストレートメロディには衝突する部分もある。これはCm7-F7|Bm7-E7|B♭m7-E♭7|Am7-D7|と変化させることができる。

23-24小節目 #

メロディが全音符でF-Eなので、Gm7|C7|でも少なくとも理論的には誤りではない。

しかし、この曲をよく研究すると23小節目はサブドミナント・マイナー的なサウンド(具体的にはD♭の響き)が欲しくなる。

Austin(1926)は、Gm7(♭5)|C7|としている。ほかに、B♭m7|C7|やそれを変化させたB♭m7-E♭7|Gm7-C7|も可能だ。また、D♭7|C7|も可能であり、Davis(1960)の演奏はそれを発展させたA♭m7-D♭7|Gm7-C7|で落ち着いている。

25-28小節目 #

考え方としては1-4小節目に準じるがドミナント系のコードをはさまず27小節目までFmaj7だけで演奏されることが多い。Davis(1960)ではF7(♯11)も聞かれる。

ただし29小節目がGm7へ進行させるために、28小節目をAm7(♭5)-D7とする。さらに27小節目をFmaj7-B♭7のようにしてもよい。

ちょっと興味をそそられるのは、28小節目前半をAm7ではなくAm7(♭5)としている録音が圧倒的に多いという点だ。少なくとも理論的にはどちらでも構わないが、文化とか芸術の伝統というものはこのようなディテールに息づいているものなのかもしれない。

事例研究 #

いずれもChorusのみをFに移調した。

Gene Austin(1926)のコード進行 #

Gene Austin(1926)のコード進行
Fmaj7B♭maj7-Fmaj7(Gm7-)C7C7-Fmaj7
Fmaj7G7C7C7
C7C7C7C7
Gm7C7Fmaj7Fmaj7
Fmaj7-F/EF/E♭Am7(♭5)D7
Gm7Gm7Gm7(♭5)C7
Fmaj7B♭maj7-Fmaj7(Gm7-)C7E♭7-D7
Gm7C7Fmaj7-

Pete Kelly’s Blues(1955)のコード進行 #

F-F(♯5)F6-Fmaj7Gm7-C7Fmaj7 / Bm7(♭5) B♭m7
F/AA♭dimGm7-C7Am7-D7
Gm7-Gm(♯5)Gm6-Gm7E♭7-D7D♭7-C7
Gm7(♭5)-C7Gm7(♭5)-C7Fdim-Fmaj7F7alt-C7
F7-Cm7F7Am7(♭5)D7-A♭7
Gm7-Gm(♯5)Gm6-Gm7E♭7-A♭7G7-G♭7
A/F-Dm7/FB♭dim/F-Fmaj7Gm7(♭5)-C7Am7(♭5)-D7
Gm6 / Am7 D7Gmmaj7 Gm7 G♭7 /Fmaj7B♭7(♯11)