Everything Happens To Me

Everything Happens To Me

基本データ

  • 作曲年:1941年
  • 作曲:Matt Dennis (1914-2002)
  • 作詞:Thomas Adair (1913-1988)

参考音源

Bud Powell Trio (1947)
演奏は1コーラスのみで、キーはB♭。
Charlie Parker / With Strings Complete Mastertakes (1949)
ストリングス入りのため敬遠する方もあるが、私は名盤だと思う。キーはG。
Thelonious Monk / Alone In San Francisco (1959)
ソロでの演奏。キーはB♭。
Bill Evans / Trio ’64 (1963)
録音が1963年で、リリースが翌年。キーはB♭。

曲目解説

当時トミー・ドーシー楽団の作編曲を担当していたDennisと、電力会社に勤務しながら創作活動をしていたAdairのコンビによる1曲。1941年、ドーシー楽団によって初演された。そのときにフィーチャーされたのは歌手のフランク・シナトラである。ヴァースから演奏された。

メロディとコード

キーはB♭として解説する。

2小節目

原曲は、Dm7 D♭dim7 が正しいし、このように演奏されるケースがほとんど。

よく、アマチュアのセッションなどで、Dm7 G7のように演奏しているのを耳にするが、No! と叫びたくなる。まず、第一にメロディB♭と衝突する。

もっとも、次のコードがCm7なので、G7にしたい気持ちも分からないではない(そのほうが簡単である)。しかし、D♭dim7でソロを演奏しようとしているのに、勝手にG7を弾かれようものならサウンドは崩壊してしまう。勝手にそのようなことをされては、ソロイストにとって迷惑この上ない。伴奏者は、自分の無知と無神経さを自覚するべきだ。

と、なぜここまで過激な表現をするかというと、このようなケースがとても多いからである。念のため強調しておくが、G7はD♭dim7の代理コードでもなんでもない。だから、どんな理由があろうとも絶対に弾いてはいけない(なお、Powel(1947)はB♭maj7 Gm7と演奏している。曲全体にリハーモナイズしていて意図は明確でもちろんサウンドしている。このように自覚的にリハーモナイズしていて、それが美しければ構わない)。

自分も過去に通ってきた道であるから、アマチュアのプレイヤーなら発達段階ということで大目に見るくらいの余裕はさすがの私にもある。しかし、プロを自称したり、アマチュアであってもセッションで大きな顔して偉そうな(しかも心ない)ことをいうセッション奉行(?)にははっきり物申したくなる。

この曲、ジャム・セッションの入門曲のように思われているけれども、ここのB♭dimをきちんと演奏するのは、実は結構むずかしい。

この曲、知っているようで実はよく知られていない代表のようなものである。試しに、セッションで偉そうにしているセッション奉行に「ちなみにこの曲、誰の演奏がお好きですか?」ときいてみよう。そして、その人の譜面を指さして「このコードチェンジって、誰が演奏していますかね?」なんて尋ねてみるのもよい。

この機会に、ぜひ音源とじっくり向き合って欲しい。そうそう、次の項で取り上げる5小節目のコードは、この曲をどこまで知っているか、試金石になるのではないか。

5小節目

ジャム・セッションなのでよく参照されている曲集にはCm7 / E♭m7 A♭7 などと書かれている。そもそも、誰がこの進行で演奏しているのか、編集者ならともかくジャム・セッションのプレイヤーで、知っている人は少ないのではないだろうか。

私も確かなことは言えない。しかしB♭メジャーでの録音を探してみると比較的古い録音としてPowell(1947)が見つかる。きいてみると、確かにベースはCを弾いているが、ピアノはBdimのようにも聴こえ、3-4拍目は、E♭m7 A♭7のように演奏しているようだ。

Monk(1959)もB♭で演奏しているが、この進行では演奏していない(後術するオリジナルの進行に近い)。

Evans(1963)もキーはB♭である。全体的にリハーモナイズしてあるが、Powell(1947)も参考にした形跡がある。ここの進行に関していえば、曲集によくあるコード進行である(ただし、E♭m7を省略して3-4拍目を通してA♭7としている)。

それでは、オリジナルがどうなっているかといえば、Bdim Cm7(♭5)である。これは1941年のドーシー楽団の初演はもちろん、Parker(1949)や1950年代のBillie HolidayやElla Fitzgeraldの録音などもこのコード進行を採用しているし、ちょっとかいつまんで探してみても、Duke Jordan(Flight To Denmark,1973年)やChet Baker(Let’s Get Lost, 1987年)、さらには21世紀になったこんにちでもこのオリジナル・チェンジが生きている。

確かにこのオリジナル・チェンジは、少しイレギュラーなコード進行で敬遠されがちなのかもしれない。曲集に載っているチェンジのほうがビバップ以降の合理的解釈にふさわしいという考えもあろう。しかし、オリジナルのコード進行の美しさが古臭いかといえばそんなことはないように私には思われる。

どちらで演奏するのも誤りではないし、これは好みの問題だ。好みとはすなわち選択の問題だと思う。もし、「曲集に書いてあるから」とか、「その方法しか知らない」というのは、選択の問題とはいえない。最初からすぐに気づくのは難しいかもしれないが、「あれ、この響きは、譜面と少し違うのかもしれない」という気づきなら、誰にでもじゅうぶん可能性がある。感性を磨いて、ぜひ疑問に思ったことはぜひワークショップで質問して解決して欲しいと願う。

6小節目

オリジナル通り、Dm7 G7が多い。理論的にはDm7 D♭dimも可能である。

17-20小節目

ブリッジの部分である。

原曲は、Fm7 B♭7alt | E♭maj7 | Fm7 B♭7alt | E♭maj7 | であり、特別なリハーモナイズしない限り、このように演奏される。もちろん、18小節目後半はしばしはCm7またはC7とすることがある。

注意しておきたいのは、メロディの関係でB♭7がオルタードテンションになることである。オルタード・スケールを学ぶにはたいへんいい機会であるが、この曲を気軽なセッション曲のように気楽に考えることがいかに浅はかかということがよく分かる。

なお、Evans(1963)は、Fm7(♭5) B♭7alt |Gm7 C7 | A♭m7 D♭7 | G♭maj7 C♭maj7(Bmaj7) | のようにリハーモナイズしている。

21-22小節目

ここも、Em7 A7alt | Dmaj7 | のように、メロディのためにA7がオルタードテンションになる。