Garôta de Ipanema #
基本データ #
- 作曲年:1962年
- 作曲:Antônio Carlos Jobim (1927-1994)
- 作詞:Vinícius de Moraes (1913-1980)
- 英詞:Norman Gimbel (1927- )
- 英題:The Girl From Ipanema
参考音源 #
- Getz/Gilberto (1963年)
- このレコードが大ヒットしこの曲が一躍有名になる。キーはD♭。1コーラス目がJoaõがポルトガル語で、2コーラス目と4コーラス目後半をAstrudが英語で歌っている。
- Oscar Peterson/We Get Requests (1964)
- Petersonのトリオは、Getz/Gilbertoが発表された年にさっそくこの曲を演奏している。この素早さはすごい。リズムは、ボサノバというよりはスウィングと融合した独自のものになっている。これをご機嫌なピーターソン節と好意的に受け止めるか、ブラジル音楽へのリスペクトが足りないとみなすかは意見が分かれるところだろう。キーはD♭。
- Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim (1967)
- シナトラがジョビンと共演したアルバム。編曲はClaus Ogermanで、キーはF。
曲目解説 #
キーとコード進行 #
ジャム・セッションの場や、急なリクエストに応えてインストゥルメンタルで譜面を見ずに演奏するとき、この曲はFで演奏することが多い。
また、例えば、5-8小節目のコード進行は、Gm7 | G♭7 | Fmaj7 | G♭7 |のようにルートが半音で進行するものが標準となっている。ほとんどの曲集がこのコード進行を採用している。
これは、1967年、フランク・シナトラが作者アントニオ・カルロス・ジョビンと共演した録音の影響であると考えられる。
まず、キーがFである。
また、コード進行に注目すると、アレンジの都合で必ずしも上に述べた通りではないけれども、1コーラス目から2コーラス目のつなぎ目などをうまく利用して簡略化すると、われわれがふつう演奏する標準的なコード進行に近くなる。
Getz/Gilbertoのレコードもヒットしたが、シナトラ-ジョビンの影響力も絶大だったともいえそうである。
ちなみにGetz/GilbertoのキーはD♭、5-8小節はギターのみによる1コーラス目は半音進行っぽくも聞こえるが(ただしベースの役割であるギターの最低音は音域の都合とボサノバのスタイルによりルートを弾いていない)、ベースが入る2コーラス目以降に注目すると、E♭m7/A♭ | A♭7 | D♭maj7 | D♭maj7 |と解釈できる。その翌年録音のピーターソン・トリオもこの解釈にならっている。
歌詞とメロディの関係 #
この曲は、ブラジルの公用語であるポルトガル語の歌詞のほかに英語の歌詞もつけられている。Getz/Gilbertoの米国での大ヒットはAstrudが歌った英詞の果たした役割を看過することはできない。
私は、この曲のポルトガル語と英語の歌を聴き比べ、さらには譜面を見比べることにより、言語とメロディの関係性についてあらためて再認識した。
これは、冒頭4小節目の英語の歌詞に対するストレートメロディである(高島慶司編『スタンダードジャズのすべて2』全音楽譜出版社、1988年、46ページ)。
同じ箇所をポルトガル語の歌詞に対するメロディと比べてみる(吉野幸子著『ボサノヴァ・ハンドブック2すぐに使える91曲Vol. 44-91』中央アート出版社、2010年、6ページ)とずいぶんと異なることに気づくだろう。
いずれの楽譜も、原典にあたるという編集方針を貫いていると思われ、引用したもの以外にもまったく同じメロディ符割を掲載している曲集がそれぞれ存在することから、いずれも信頼性は高いと思われる。
西洋音楽では、原則として音符の数(タイのなったものは1つと数える)とシラブル(音節)の数は一致する。したがって、英訳するにあたりポルトガル語の歌詞のシラブルと一致させることをしなかったというのが原因である。加えて、英詞に対するメロディのシンコペーションは英語そのもののリズムにも由来しているように思われるし、またポルトガル語版の、英語版より控えめなシンコペーションの符割は、実際に楽譜を見ながら聴くとポルトガル語のもつ固有のリズムにも由来しているようも思われる。
ブリッジのコード進行 #
この曲のブリッジ(サビ)は少し変わっていて、特徴的なコード進行はメロディや歌詞とともにこの曲を印象深いものにしている。
ブリッジのコード進行は一般に1963年のGetz/Gilbertoの録音のコード進行が定着している。特に17-28小節目(ブリッジの1-12小節目)の少し不思議なこの進行の解釈をするには、その前年のPery Ribeiroの録音が手がかりになる(かも知れない)。
小節番号 | 17-18 | 19-20 | 21-22 | 23-24 | 25-26 | 27-28 |
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一般的な進行 | G♭maj7 | C♭7 | F♯m7 | D7 | Gm7 | E♭7 |
Pery Ribeiroによる初録音(1962) | G♭maj7 | G♭m7 | C♭7 | Amaj7 | Am7 | D7 | B♭maj7 | B♭m7 | E♭7 |
アナライズ(的なもの) | キーD♭のIV(SD) | 同iv(SDm) | キーEのIV(SD) | 同iv(SDm) | キーFのIV(SD) | 同iv(SDm) |
上の表は、一般的なコード進行とRibeiroの録音(この曲の初録音とされる)を比較したものである。比較しやすいように、どちらもFに移調した。
メロディは、最初の4小節を、次の4小節で増2度(短3度)上に、そして続く4小節でさらに半音上に転調している。
Ribeiroの録音では、コードもメロディとまったく同様に転調させていることに気づくだろう。4小節ごとに現れる♭VII7はサブドミナントマイナーivの代理コードであるから、2小節ごとにサブドミナント(メジャー)(SD)-サブドミナントマイナー(SDm)が転調しながら3回繰り返されている。
一方、Getz/Gilberto以降一般的な進行では、2回目と3回目のIVmaj7が、ほぼ同様の機能であるIIm7に置き換わっているのが特徴である。
また、Getz/GilbertoではVIm7も省略されて、同じ機能を持つ♭VII7で統一されているが、今日でもここの処理の仕方の多少好みが別れるところかもしれない。たとえば、Sinatra-Jobimの録音では27-28小節目だけB♭m7としている。