I Thought About You

I Thought About You #

基本データ #

  • 作曲年:1939年
  • 作曲:Jimmy Van Heusen (1913-1990)
  • 作詞:Johnny Mercer (1906-1976)

参考音源 #

Billy Holiday (1954)
Verveレーベルへの録音。キーはF。
Miles Davis / Someday My Prince Will Come (1961)
この録音以降、ブラックホークでのライブ盤やFour And Moreなど、しばらくの間、マイルス・デイヴィスの主要なレパートリーになる。キーはF。

曲目解説 #

ヴァンヒューゼンとマーサーによる作品。

メロディとコード #

あるベーシストの教則本に「マイルス・デイヴィスのチェンジ(コード進行)に気をつけろ!」というようなことが書いてあった。

マイルス・デイヴィスは、スタンダード・ナンバーのコード進行をリハーモナイズして演奏・録音しているが、べつにこれはほかのジャズ・ミュージシャンも同様のことをしている。

ところが、マイルス・デイヴィスは偉大なミュージシャンで当時から影響力が強すぎた。したがって、彼の録音を境に、「標準的とされるコード進行」が改変される傾向がある。

この曲もその例外ではない。したがって、マイルス・デイヴィスの録音前後のコード進行の変化にも注目して解説したい。キーはFとする。

1-2小節目 #

Davis(1961)はBm7(♭5) B♭7 | A7 D7 | としているが、もちろんこれはリハーモナイズであって、もともとはトニックFmaj7から始まっている。

2小節目のA7は理論的にはAm7やAm7(♭5)でもよいのであるが、ジャズのイディオムとして、ルートがIIIでかつメロディがルートのときは(ほかにもIIやVIも。ただし例外もある)、ドミナント・セブンス・コードが好まれるようである。これはもう少しまとめたいと考えているが、ほかの例では、It Could Happen To Youの7小節目などがある。

3-4小節目 #

大きくG7である。ただし、仮に1-2小節目を2拍ずつ演奏したような場合、ここでハーモニック・リズムがやや停滞する。 Holiday(1954)G7 | Dm7 G7 | などとしているが、Miles(1961)はG7 A♭7 | G7 | としている。

ただし、Shirly Hornはその前年の録音で同様の演奏をしているので、このアイディアはマイルス・デイヴィス独自のものではないかもしれない(ただし、マイルスの初録音以前のライブ演奏をHornが直接間接に知っていた可能性は否定できないが)。

5-8小節目 #

Davis(1961)は概ねGm7/C / C7 B♭7 | Em7/A A7 | Dm D♭7 | Cm7 F7 | のように演奏している。ここで7小節目がDm7であることに注目されたい。

ところが、Holiday(1954)は、Gm7(B♭maj7にも聞こえるが) | C7 | F7 | F7 | のように、Dm7には行かずに大きくF7に進行していることである。これは、1960年のShirly Hornやそれ以前のJohnny Hartman(1958)も同じ、あるいは似たような進行になっている(Hartmanの7小節目はFmaj7)ので、むしろ、このほうがオリジナルに近いと推測できる。

私個人的には、Davisの演奏により親しんできた経緯があるので、あらためて様々な演奏を聞き返して再発見したところである。もし譜面なしでセッションするような場合には、まずはDm7に進行するコード・チェンジを選んでしまうかもしれない。ところが、なかにはそうでないプレイヤーやシンガーもいるはずであるし、これ以外の選択肢も可能性としてはありうる。自分の知っている知識がすべてではないということをあらためて思い知らされた。

28小節目 #

様々な録音を聴いたが、この箇所は概ねG7 G♯dim7 | と演奏している。 ただし、Bm7(♭5) B♭7という演奏もあって(たとえばDave BrubeckやKeith Jarrett)、これは、Gm7へのいわゆる「トゥ・ファイブ」のうち、E7をトライトーン代理にしたものである。しかし、G79のルートを省略するとBm7(♭5)であり、また、E7(♭9)のルートを省略するとG♯dim7になるため、これらのコードは非常に関係が深い。同様のことは、例えばThere Will Never Be Another Youの28小節目にもいえる。

29-30小節目 #

Gm7 C7 | Fm7 B♭7 | と演奏することができる。この場合31小節目のトニックを含めて、いわゆる「サン・ロク・ニ・ゴ・イチ」の進行である。

いっぽうDavis(1961)はGm7 | C7 | (E♭maj7) としている。28小節目のGm7 G♯dim7 からまたGm7に戻っている。これはこれで奥ゆかしい。