Nice Work If You Can Get It

Nice Work If You Can Get It #

基本データ #

  • 作曲年:1937年
  • 作曲:George Gershwin (1898-1937)
  • 作詞:Ira Gershwin (1896-1883)

参考音源 #

Thelonious Monk / The Genius Of Modern Music, Vol. 1 (1947)
ミディアム・アップ・テンポでの演奏。キーはA♭。
Sarah Vaughan / In Hi-Fi (1950)
コンピレーション・アルバムで、このテイクはマイルス・デイヴィスなど管楽器を加えた録音。進行がやや混乱している。キーはE♭。
Bud Powell Trio Plays (1953)
パウエルらしくアップテンポで演奏する。キーはA♭。
Frank Sinatra / A Swingin’ Affair (1956)
軽快なスウィング。キーはFからGに転調している。

曲目解説 #

1937年の映画 A Damsel in Distress(邦題『踊る騎士』)で使われ、フレッド・アステアが歌った。 なお、作詞家アイラはこの曲の歌詞を自作のI Got Rhythmから引用している。興味があれば探してみよう。

構成 #

AABA形式だが、冒頭の2回のセクションAと比べて最後のセクションAがやや長いので32小節ではない。

したがって、1コーラス34小節で演奏されることがあり、実際、曲集もそのように編まれていることがある。ところが、1コーラス33小節で演奏されるケースも少なからずある(例えば、Monk, 1947やPowell, 1953)。Fitzgerald(1950)の演奏もマイルス・デイヴィスのソロの入りの位置がかなり怪しく、リズム・セクションが演奏するコードを聞いてもメンバーの慌てぶりが伝わってくる(実際歌の戻るタイミングも収拾をつけるために仕方なく入ったように思える)ことからも、この曲をジャズで演奏するときに1コーラス何小節であるか綿密に打ち合わせておく必要があろう。

実際のワークショップでは、当初34小節で演奏する予定の参加者が、面白そうなので33小節でやってみようということを言い出して、試みた。結果とてもうまく行ったが、このような姿勢はたとえうまくいかなかったとしてもとても前向きで、ジャズの精神にかなっていると思う。

メロディとコード #

A♭でも演奏されるが、出版されたキーであるGのキーで説明する。

1-2小節目 #

演奏者によって若干のバリエーションがあるものの、この曲はたくさんのドミナント・セブンス・コードが登場する。ソロをする上でも、コンピングする上でも、メロディとコードの関係をしっかり捉えることが演奏の上で重要である。

冒頭2小節では4つのドミナント・セブンス・コードが連続するが、これをメロディとの関係で整理すると次のようになる。

  • B7に対して、メロディはルート-♭9と動く。
  • E7に対して、メロディは♭13-5と動く。
  • A7に対して、メロディはルート-9と動く。
  • D7に対して、メロディは13で保持されている。

したがって、少なくともテーマ中は2小節目をA7altやD7altでコンピングしてはいけないことがわかる。また、一般に♭13は♭9との組み合わせで使われるので(ホールトーンの♯5の場合を除く)、E7は♭9や♭13を含むスケールを基本に考えたらよいことが導くことができる。

3-5小節目 #

まず、3小節目前半のコードはGmaj7でもよさそうなものだが、実際はG7としているケースが多い。これはガーシュウィン流のブルージーなトニックと考えてもよいだろう。

3小節目後半から4小節目前半にかけては、C7 | A7 としているケース(例えばPowell, 1953)もある(この場合3小節目前半G7はC7へのドミナントともみなすこともできる)し、Em7 | A7とするケース(例えば Monk, 1947)とする場合もある。後者の場合のEm7は、A7をスムーズに引き出す役割を果たす。

4小節目のA7(II7)はダブル・ドミナントで、ドミナントに進行すると考えがちだが、特にクラシックの和声ではI/Vすなわちトニックのドミナント・ベース・ペダル・ポイントもドミナントとみなされることもある。ジャズではベースのドミナント指定は必ずしも行われず、直接トニックに進行している演奏もある(例えばMonk, 1947)。

また、後年では、4小節目から5小節目前半をA7 A♯dim | Bm7…のように演奏するケースが多く見られるようになる(例えばSinatra, 1956)。Bm7はトニック・メジャー代理、A♯dimはいわゆるパッシング・ディミニッシュであるが、A7ともよくコード・トーンがよく似ている(ただし、ここでA7はふつう♭9にしないけれども)。

なお、5小節目後半をうっかりE7としないこと。絶対に誤りとまでは断じることができないが、原則としてEm7である。

17-20小節目 #

若干のバリエーションはあるかと思うが、大まかにEm | C7 | Em7 | A7 | となっている。つまり平行調に転調している。

ここで注意したいのがC7であろう。これは、本来サブドミナント・マイナーAm7であったと考えることができよう。ところが、このコードのままではメロディがブルー・ノートのB♭をうまく受け入れることができない。したがって、C7に変化した(やや屁理屈の感もあるが、Am7のルートをオミットしB♭を補うとC7になる)と考えることができる。

実際、マイナー・キーの文脈におけるブルージーな場面においてサブドミナント・マイナーVIm7を♭VI7に置き換えるケースはマイナー・ブルースを始めほかの曲においても見られる(例えば「ゲゲゲの鬼太郎」のテーマ曲2小節目)。

なお、このC7にはドミナント機能がそれほどない(B7への進行を匂わせるのでダブル・ドミナントのトライトーン代理だという解釈をすることもできるかもしれないが)。