Satin Doll

Satin Doll

基本データ

  • 作曲年:1953年
  • 作曲:Duke Ellington (1899-1974)、Billy Strayhorn (1915-1967)
  • 作詞:Johnny Mercer (1909-1976)

参考音源

Duke Ellington (1953)
Capitol盤への吹込みがおそらく初吹き込みのものと思われる。キーはC。
Barney Kessel / The Poll Winners (1957)
ギターといえばこれだろうか。キーはG。
Ella Fitzgerald-Count Basie / Ella And Basie! (1963)
これも名盤。キーはG。
The Oscar Peterson Trio Plays (1964)
コーナーポケットから借用したようなシャウト・コーラスも印象的なテイク。キーはB♭。
Carmen McRae / The Great American Songbook (1972)
ライブ盤。ベースのチャック・ドメニコとデュオで始まる。キーはE♭。

曲目解説

JazzStandards.comの記事などを総合すれば、Satin Dollとは誰のことか、また作曲者と作詞者が誰かということについてはさまざまな見解があるようだ。

一説によればSatin Dollとはストレイホーンの母親のニックネームだといい、また、エリントンの内縁の妻Beatrice “Evie” Ellisであるという見解もある。

これは、作曲者が誰かという論争とも関わる問題かもしれない。エリントンが書いたメロディのスケッチにストレイホーンがハーモニーなどをつけて完成させたというのが有力な説のようである。実は、作曲者の権利関係については出版社およびエリントンとストレイホーンのそれぞれの財団による訴訟があり、判決ではストレイホーンの作曲上の寄与を認めた。以来、双方の名前がクレジットされるようになったようである。

一方で、作詞者はJohnny Mercerということになっている。エリントンがコロンビア・レコードからキャピトル・レコードに移籍したのが1953年初頭。ご存知のようにマーサーはキャピトルの設立者の一人であり、プロデューサーでもある(もちろん作詞家であり歌手でもあった)。最初、Satin Dollにはストレイホーンの歌詞がついていたとされているが、この曲を売り出すにあたり、その歌詞では商業的価値がないとされ、マーサーが付け直したということになっている。

これはある程度正しいのであろうが、果たして、マーサーが歌詞を全面的に書き換え、ストレイホーンの歌詞の痕跡は跡形もなく消えてしまったのか、あるいはある程度参考にされたにもかかわらず、作詞者としてはまったくクレジットされなかったのか、このあたりはさまざまな見方があるようだ。

コードとメロディ

以下、キーをCとして解説する。

1-4小節目

Dm7 G7 | Dm7 G7 | Em7 A7 | Em7 A7 | であり、あまり議論の余地はないが、若干解説を要する。

Dm7 と Em7 は、それぞれ、G7とA7のリレイテッド・マイナー・コードで、いわば、ドミナントセブンスコードから派生して前置されたものだと考えることができる。だから、Dm7とG7、Em7とA7は和声的には同根で「機能が似ている」とみなすことができる。

だから、ソロが転回すると、2拍ずつのこのシーケンスが少々鬱陶しく感じられることもあろう。なので、Dm7 | G7 | Em7 | A7 |と大きく捉えたり、さらに、Dm7/G | G7 | Em7/A | A7 |のようにペダルポイントにしたりとさまざまなアプローチが可能である(17-18小節目、21-22小節目についても同様のことが言える)。

次にEm7-A7 についてである。

一般的には、Em7はCのキーのダイアトニックコード(IIIm7)であるから、ふつう(ダイアトニックの)フリジアンが想定される。また、A7については、スケールの第6音(13度のテンション)が、Cメジャースケール由来のF音(♭13th)が想定され、さらに、第2音(9度のテンション)も♭13に親和性のある♭9が選択される傾向にある。

ところが、この曲においてはこの原則が当てはまらず、Em7はドリアン、A7はミクソリディアンが好まれる傾向にある。つまりDm7 G7をそのまま全音上げたように演奏される場合がほとんどなのである(あえて書けば3-4小節目はDメジャーキーに基づく)。

これについて、メロディには理論的な手がかりはなく、これは伝統的に、あるいは作曲者の意図に鑑みて、別の言い方をすれば美学上の問題というほかはないのかもしれない。

5-6小節目

D7 | D♭7 | としている譜面も多いが、エリントンの演奏ではD7 | A♭m7 D♭7 |としている。もちろん、Am7 D7 | A♭m7 D♭7 | としてもよい。

機能的には、D7はダブルドミナント、D♭7はドミナント(G7)のトライトーン代理である。ただし、G7で演奏してしまうとなんとなく雰囲気台なしである。トライトーン代理とはあくまでも理論上のモデルであり、実際には無条件に代理可能という意味ではないということに注意が必要である。

ゆえに、5-6小節目のコード進行は初心者にとっては実は案外難しいものである。