Strollin’

Strollin’ #

基本データ #

  • 作曲年:1960年頃
  • 作曲:Horace Silver (1928-2014)

参考音源 #

Horace Silver / Horace-scope (1960)
ホレス・シルバーのクインテットによる録音。キーはD♭。

曲目解説 #

ミディアム・テンポで、ホレス・シルバーの代表曲ともいえる。

メロディ #

管楽器やピアノのアーティキュレーションをしっかり自覚して演奏することが重要である。そのためには、レコードからアーティキュレーションを聞き取れることが肝要である。なぜなら、聞き取れないことは表現できないからである。

実際にアーティキュレーションをきちんと取り組むと、想像以上に楽器をコントロールするスキルが必要であることに気づくだろう。Strollin’ は、ゆったりしたテンポであるが、多くの場合、さらにテンポを落として、ワン・フレーズずつ(つまり2小節や4小節といった単位で)繰り返し練習することが大切である。ソロであれ、メロディであれ、ジャズらしいフィーリングを持つラインは、このような地道な練習の積み重ね以外に身につける方法はないのではないか。

アンサンブル #

ホレス・シルバーのアンサンブルは非常に緻密に組み立てられている。これは、シルバーの録音を10テイクも研究すれば十分に理解できることであろう。曲にもよるが、ピアノ、ベース、ドラムのフィルの有無まで指示されていると判断できる箇所が少なくない。

ピアノ #

ABAC形式と考えたときのセクションAの8小節において、ピアノは、管楽器と同じの3度でハモるメロディライン2小節とオクターブ・ユニゾンによる対旋律2小節が繰り返されていて、いわゆるコード弾きをしていないことがわかる。

また、ベースラインは原則としてすべてベーシストに任せているが、セクションCの4小節目(冒頭から28小節目)後半の3つの8分音符だけは、ベースとユニゾンしてバンドのサウンド全体をしっかり補強している。こうすることで、テーマを締めくくる重要な最後の4小節へしっかり導びいている。

ベース #

セクションAの1小節目と5小節目1拍目に対する半拍前からシンコペーションとそれに先立つ2つの8分音符は、原則としてベースだけのキックになっている。ドラムも合わせそうなものであるが、基本的に合わせていない。このベースの動きは、2拍目ウラから始まるメロディラインを引き出す上でとても重要な役割を持つ。

それ以外、セクションBとDの1小節目の1拍目、3拍目、4拍目をメロディに合わせる以外、いわゆるキメ(アクセントを合わせること)もなく淡々と2フィールのラインを演奏する。

ただし、例外として最後の4小節目だけはリズムセクション全員でメロディラインのリズムの輪郭をなぞっている。ピアノの項でも説明した通り、それに先立つ2拍(28小節目後半)の3つの8分音符は、直後のメロディラインを導く上でも重要な役割を担う。

ドラムス #

ホレス・シルバーのレコードのドラムを採譜していると、ある程度ドラマーに任せているところと、ホレス・シルバー自身が指示している内容が区別できるようになってくる。ビッグ・バンドにも共通していることであるが、小編成のコンボにおいてもアレンジされたセクションにおいて、ドラムが、メロディライン、対旋律、ピアノのコンピング、ベースラインとの関係を学ぶ上で非常に重要である。

セクションAおけるベースのシンコペーションについて、ドラムは原則として合わせていない(後テーマで合わせている箇所もあるが)。また、メロディーラインのシンコペーション(例えば1小節目の4拍目ウラや2小節目の1拍目ウラなど)についても、これも原則としてなぞるようなことはしていない。

一方で、セクションBの5-6小節目の似た動き(5小節目4拍目ウラ、6小節目1拍目ウラ)は、しっかり合わせている。

これは、前テーマ、後テーマに都合4回でてくるセクションAと、2回出てくるセクションBをしっかり聞くと、明らかに自覚して演奏していることが分かる。このように、合わせる/合わせないはテキトーにやっているのではなく、場合によってはかなり緻密に計画されていることがあるということに気づけば儲けものである。

ピアノやベースのところでも指摘したが、コーラスの最後の4小節はリズム・セクション全体がメロディ・ラインのリズムのモチーフをなぞっている。これは、テーマのクライマックスを演出すると同時に、ソロ・コーラスへの受け渡しをスムーズにしている。

また、コーダ(エンディング)は、全体的にシンコペーションのモチーフであるが、8分音符のタムによって演奏者はもちろん聞き手にとってもちょっとしたリズムのガイドあるいはサポートになっている。