Summertime #
基本データ #
- 作曲年:1935年
- 作曲:George Gershwin (1898-1937)
- 作詞:DuBose Heyward (1885-1940)
参考音源 #
- Ella Fitzgerald-Louis Armstrong / Porgy And Bess(1957)
- ストリングスも入って、比較的オリジナルに近いアイディアで演奏している。キーはBマイナー。
- Miles Davis / Porgy And Bess(1958)
- モーダルな演奏。キーはB♭マイナー。
- John Coltrane / My Favorite Things (1961)
- ホールトーン・スケールを活かしたリハーモナイズをしたうえにヴァンプをつけるなど、たいへん印象深い演奏になっている。キーはDマイナー。
- Bill Evans / How My Heart Sings! (1962)
- チャック・イスラエルズ、ポール・モチアンとのトリオ。キーはAマイナー。
- Sonny Rollins-Coleman Hawkins / Sonny Meets Hawk(1963)
- ちょっときくところ激しくはないが、メンバーが色々なことやっていてアイディアやアプローチに結構アグレッシブなところもある。ピアノはポール・ブレイ、このテイクのベースはヘンリー・グライムスだったんですね。キーはDマイナー。
- Albert Ayler / My Name Is Albert Ayler(1963)
- アルバート・アイラーの代表作から。キーはDマイナー。
曲目解説 #
935年のアメリカのフォーク・オペラ、『ポーギーとベス』のなかの1曲で、作詞のデュボーズ・ヘイワードは原作の『ポーギー』の著者。
ジャズにかぎらず、さまざまなアーティストによって演奏されている。
メロディとコード #
ほぼすべてのキーで録音されているが、ここではキーをAmとして説明する。
1-8小節目 #
1-4小節目
ジャズ・バンドでの演奏を前提としたリード・シートを多数集めた曲集が国内外で発売されているが、それらは概ね、Am | Bm7(♭5) E7 | Am | (A7) | のようなコードがついている。実際、ジャム・セッションやライブでそのように演奏しているのを聴いたことがあるし、私自身そのような譜面を演奏した経験がある。
実際、ワークショップの参加者の譜面も概ねそのようなものであった。しかし、参加者に対して「誰がこのようなコード進行で演奏していましたか?」と質問したところ、即答できたかたはひとりもいらっしゃらなかった。
事前に私が調べた録音のうち、このようなコード進行で演奏していたのは、Charles Mingus / Mingus Three (1957)(ソロ部分)、Art Blaykey Quartet / Jazz Message (1963)など、いくつかに限られており、多くは、ガーシュウィンのオリジナルスコアに近い進行か、それにもとにリハーモナイズしたものであった。
また、ジャニス・ジョプリンの演奏のように曲全体のハーモニーを(さらに歌詞までも)大きく作りかえているものも少なからずあった。そのさきがけとなったのは、Davis(1958)かもしれない。
具体的にみてみよう。ガーシュウィンによるオリジナルのハーモニーによるバッキングを模式的に示すと、このようになるだろう。
ビリー・ホリデイもチャーリー・パーカーもエラ&ルイもサラ・ヴォーンはもちろん、どちらかといえばフリージャズに分類されるアルバート・アイラーに至るまで、このコードを下敷きにして演奏している。みなさんのよくご存知のSummertimeはどうなっているだろうか。
このふたつのコードの繰り返しはイントロやヴァンプでも使われるが、これら2つのコード・トーンを並び替えてスケールをつくると、次のようにAメロディック・マイナー・スケールが導かれる。
このアイディアで演奏する場合、この箇所でソロをするならば、Aメロディックマイナー・スケールを下敷きとしてソロを組み立てるとよい。
一方で、Davis(1958)の演奏を聴いてみよう。これはモード・ジャズの金字塔ともいえるべきアルバムKind Of Blueの前年の録音であるが、やはりここでもモーダルなアプローチをしていて、使われているのはドリアンである。実際のキーはB♭マイナーだが、キーをAマイナーに統一して説明しているので、以下にAドリアンを示す。あえてコード・ネームをつけるとAm7ということでよかろう。
Evans(1962)もドリアンで演奏しているのだが、Davis(1958)とは少しやり方が異なる。Am7 と D7を交互に配置したヴァンプを演奏している。ベースラインは次の譜例のようになっていて、3拍目が半拍前へシンコペーションしている。
Am7とD7のコードトーンをAから始まる方に並び替えるとDドリアン・スケールなる。
伝統的なマイナー・スケールには、ナチュラル・マイナー・スケール、ハーモニック・マイナー・スケール、メロディック・マイナー・スケールの3種があるが、現代では加えて、ドリアン・スケールが使われることがある。
これらの4つのスケールの違いは、主音の6度と7度の音が、それぞれ長6(7)度になるか短6(7)度になるかの違いである。
この箇所におけるSummertimeのメロディには、6度と7度の音が含まれないため、あとはバンドとしての選択の問題になる。また、ドリアンを選択する場合であってもマイルス・デイビスのように動きの抑制されたよりモーダルなドリアンと、ビル・エヴァンスのように、2つのコードを繰り返して一定のリズムを生み出すかという方法がある。
単に曲集に書いてあるアイディアを無批判に受け入れるのではなく、さまざまなレコードから学び、さらに自分に合うものを選択したり、場合によっては自分なりの工夫を加えていくのがよいと思う。
このほかのアイディアとして、Coltrane(1961)や歌手のジャニス・ジョプリンの演奏は非常に創造的で面白い。ぜひ採譜してみることをおすすめする。
5-8小節目 #
長くなってしまったので、おおまかなハーモニーの基本的な機能だけを記すにとどめる。
5-6小節目がマイナー・キーのサブドミナント(Dm7)で、スケール的にはナチュラル・マイナー・スケールの第4モードにあたるドリアン。ただし、B♭7に代えることがあり、これはマイナー・キーのサブドミナント・マイナーのリハーモナイズの定番で、マイナー・ブルースに対してもよくおこなわれる。
7-8小節目はドミナント(E7)。
12-14小節目 #
13小節目は平行調のトニックでCmaj7。そのため、12小節目はCmaj7のドミナントであるG7(Dm7 G7)となる場合が多い。ところが、オリジナルは、D7となっており、これはAmを4度下行進行させたもの。
私はドミナント・セブンス・コードから、その4度下をルートとするマイナー・セブンス・コードやハーフディミニッシュ・コードがリレイティブ・コードとして派生するように、マイナー・コードからもその4度「上」をルートとするドミナント・セブンス・コードが派生することがあり、これもリレイティブ・コードと呼んだらどうかと機会があるたびに提案しているのだが、もしこれが認められるとすれば、このD7はトニック・マイナーAmのリレイティブ・コードということになる。したがってドミナント機能なないし、もともとトニックはどこへも進行できるので、Cmaj7に直接進行しても差し支えない理屈になる。
14小節目をBm7(♭5) E7 とする場合、13小節目後半にFmaj7を挿入することがある。これで、4度下行進行(B->Fは完全4度ではないけれども)ができる。これは、Autumn Leavesの4小節目の処理と同じ理屈である。