Whisper Not

Whisper Not #

基本データ #

  • 作曲年:1956年
  • 作曲:Benny Golson (1929- )
  • 作詞:Leonard Feather (1914-1994)

参考音源 #

Lee Morgan Sextet (1956)
ガレスピー楽団に所属していたリー・モーガンによる3管セクステット。テナーは、ハンク・モブレー。キーはDm。
Dizzy Gillespie / Birks’ Works (1957)
1956年の初録音があるらしいのだが確認できなかった。これは1957年の録音でリリースは翌年。テンポは少しゆったりめ。キーはDm。
Benny Golson / New York Scene (1957)
ゴルソン自身による録音。参加しているピアノのウィントン・ケリーはさらに翌年自己のグループでこの曲を録音している。キーはDm。
このほか、1963年頃(Peggy Lee、Anita O’Day)よりボーカルの録音がある。

曲目解説 #

サクソフォン奏者で作編曲家のベニー・ゴルソンがディジー・ガレスピー楽団在籍中に作曲した。以来、多くのミュージシャンが取り入れてスタンダード・ナンバー入り。

ジャズ評論家のレオナード・フェザーが歌詞をつけたことで歌手も取り上げるようになる。

コードとメロディ #

キーをDmとして説明する。

冒頭のCm7は機能的にどう説明するか #

これは、実際にワークショップで議論になった。以下、私なりの解釈として説明したい。

ヒントは3-5小節目にあると思う。まずそこからみていこう。

3-5小節目のコード進行は、Gm7 Gm7/F | Em7(♭5) A7 | Dm … | となっている。これを単純化すれば、Gm7 | A7 | Dm となり、Dマイナー・キーにおける、IV-V-I、すなわちサブドミナント(マイナー)-ドミナント-トニック(マイナー)という進行である。

このGm7は、Dm7キーのサブドミナントであるが、仮にこれをGm7キーのトニックでもある(すなわち、Gm7をピボットとして転調している)とみなして、1-3小節目を解釈してみてはどうだろう。

1-3小節目は、Cm7 Cm7/B♭ | Am7(♭5) D7 | Gm7.. | で、これをGマイナー・キーのコンテクスト(文脈)で解釈するとサブドミナント・マイナーからトニック・マイナーへ進行していることに気づく。(ついでに、1-3小節目は、3-5小節目同様、Cm7 | D7 | Gmと単純化でき、これはGマイナー・キーにおける、IV-V-Iである)

これをまとめると、1小節目のCm7はGマイナー・キーのサブドミナント・マイナーで、ドミナントを経て3小節目のGm7(トニック・マイナー)に進行している。ところが、このGm7は一時的な転調であるGマイナー・キーのトニックであると同時に原調(Dマイナー・キー)のサブドミナントでもある(すなわちピボット=同じコードが転調前後においてそれぞれ和声的機能をもっていること。転調の技法のひとつ)。

そして、Gm7から5小節目のDm7への進行は、原調におけるサブドミナント・マイナーからドミナントを経てトニック・マイナーへの進行である。5小節目-7小節目もDマイナー・キーのままである(後術するが、いわゆる循環コードの変形)。

結論として、Cm7は、一時的な転調先であるGマイナー・キーのサブドミナント・マイナーという説明でよいだろう。もちろん、3小節目のGm7が、転調先のトニック・マイナーであると同時に、原調のサブドミナント・マイナーであるのと同様に、1小節目のCm7は実はCマイナー・キーにおけるトニック・マイナーとして機能し、同時に次の転調先であるGマイナー・キーのサブドミナントとしても機能すると考えることもできる。このあたりは感じ方の問題なので一概にいえる問題ではないかもしれない。

20小節目 #

細かいが、C7、Gm7/Fなどのバリエーションがある。

31-32小節目 #

ターンアラウンドの箇所で、録音によってDm7 Em7(♭5) | A♭7 G7 ||、Dm7 Em7(♭5) | Fm7 G7 ||、Dm7 Dm7/C | A♭7 G7 || などバリエーションがある。

リズム #

大きく捉えると、E♭maj7なのだが、オリジナルのようにE♭dim7 ♭maj7とすることもできる。 また、次の小節Gm7に進行するために、E♭maj7 A♭7とすることも多い。

冒頭のキック #

冒頭4小節に1拍目ウラと3拍目オモテにキック(キメ)を入れることがあるが、実際にどのように演奏しているかいろいろな音源を聴き比べて、その効果を検討してみたい。

シャウト・コーラス #

この曲は、[A][A][B][A]形式であるが、後テーマにおいて前半の16小節([A][A])をシャウト・コーラスとして別のリフで演奏することが多い。

このとき、マーチ風に演奏される(録音にもよるが若干のキックもある)。このとき、リフは3連音符が強調されているが、例えば1小節目の2~4拍目などは、いわゆる3連音符の中抜き(音符・休符・音符による3連符)として記譜されているようである。

Brubeck(1957)のようにFm7 | B♭7 | のようにしてももちろん間違いではないけれども、Fm7(♭5) | B♭7 | という選択肢はなかったのだろうか。