【母の愛】

子供を産むときに、衰弱しすぎて麻酔がかけられず、 執刀する先生は「99パーセントは助からないだろう」と 思いながら麻酔なしで帝王切開の手術をしたという。 魚を開くときと同じように人間のからだもメスを一回いれただけではひらかない。 すーすーっと2度、3度、メスが入り、カンシの重さで腹部がひらかれ 赤ちゃんがとりだされて、お腹の上におかれたところまで 覚えているという。両手、両足を6人の看護婦さんがおさえ メスが入るたびに吐いた。そのとき、お母さんは頭を両手で はさんで「仏様、私の命はいりません。どうぞこの子をお助けください。」と ずっと声に出して、祈っていたそうだ。その声を聞いたとき 「お母さんのためにも私は絶対に死ねない!この人を悲しませるわけにはいかない!」 と心の中で強く誓ったという。 彼女はその後、20日間意識不明だったが、奇跡的に助かった。 現在60歳のその人は 「あのときのことを思い出したら、私はなんでも耐えられると思って あらゆることをがまんしてきたのよ。 でもね、この年になると、その生き方が本当に良かったかどうか わからないわ。がまんしすぎるのも良くないのよ。 言いたいことも、きちんと伝えないとね。」と話してくれた。

年配の方とじっくり話すと、どの人にも隠されたドラマがあるのに 驚かされる。人は何十年も生きると、その間に実にいろんな経験を しているのだ。どの人も。

悲しい話も楽しい話も、聞いてためにならない話はないなあと、いつも思う。