| 2004/5/28 | わくわく |
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私が子供の頃に住んでいた家は、神戸の西のはずれの新興住宅地であった。
ちまちまとした建売住宅が神戸特有の坂をめぐる道に沿って建っている。
その家には、小学校1年の終わりに引っ越してきた。西隣はキャベツやトマト、 きゅうりなどを育てている「畑」だった。 子供の体は、大人の想像以上に身軽で、大人にとっては危険なことも、子供にとっては さほど危険でなかったりする。私は2階の子供部屋のベランダの鉄柵をのりこえ、のきづたいに 東から西へ移動をし、一回の窓の上についているひさしに足をかけ、コンクリート塀の上に 降り立ち、畑に飛び降りる遊びがお気に入りだった。 さすがにきゅうりやなすやトマトをもぐことはしなかったけれど、学校の理科で習った アブラナが咲いているのを見つけた時は、こっそり失敬した。後で、自分の勉強机の上に 飾って、悦に浸っていた私は、ふと、その緑色の茎にうごめくあぶらむしの大群に気づき、 結局窓から畑へお返しするという情けないことにはなるのだが・・ それにしても、あの、のきを伝って歩くときのわくわく感はいったいなんだったのだろう。 あの頃愛読書だった「十五少年漂流記」だとか「ロビンソン・クルーソー」だとか・・ なんだかそれにもかかわりがあるような、漠然としたわくわく感。 一人で過ごすその時間は、孤独でもなく、ただただ楽しかった。無意識に行っていた 登山でいうところの「三点確保」。母親に見つかると青ざめて顔で叱られたが、私は その遊びをやめなかった。ただただ本能がよろこぶあの頃の「わくわく感」を、私は久しく味わっていない。
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