2004/6/2何かに似ている・・

 修善寺の駅に降りた時には小雨がぱらついていた。宿までバスにするかタクシーにするか 少し迷ったが、愛想のよいタクシーの運ちゃんと話ししているうちに、まあ、ではタクシーにしましょうと いうことになった。

 タクシーはバス通りではなく、途中、信号が2箇所しかないという裏道を、宿まで走りだした。 清流の流れる川をまたぐ小さな橋の上を走るとき、友人が「ここはすれ違えないですねえ?」と 尋ねた。

「そうなんですよ。ここと、もう一箇所、すれ違えない細い道がありましてね。  今日みたいにウイークデイなら、いいんですよ。お互いに分かってますから。日曜はねえ。  他県のナンバーは知らないからどんどん入ってきて、『おまえさがれ』『いや、おまえが』に なって、結構、大変なんですよ」

タクシーが軽快にいくつかのカーブを曲がった後、その小道は突然、現れる。 「ほらね、あそこまで。すれ違えない細い道なんですよ。でも、ここから良く見えるでしょう・・  だから、地元の人は上と下でお互いの姿を確認して、適当にどちらかが待ってるんですよ。  あうんの呼吸というやつですねえ。」

おもしろいことに、数十メートルのそのすれ違い不能の小道はくねくねの坂になっているのだが、 どうやら、山肌を削って出来た道らしく、その上と下で、道の途中も全てお互い見晴らしよく 確認できるのだ。これなら、確かに事情さえ知っていれば、お互いになんの問題もなく道を 譲り合うことが可能だ。

 知ると知らぬでは大違い。いったんつっこんでしまえば、片方がそのくねくねの 細い坂道をバックで戻るしかない。

 なにかに似ている・・この状況は、人生のなにかに似ている・・お互い事情を分かっていれば なにごともなくクリアできることが、知らないがために窮地に陥り、しかも、そこで人間が デキテいなくて、自分の都合だけをお互い主張すればみっともない喧嘩にならざるをえない状況・・

 なにかに似ているが、はっきりしない・・仕方ない。湯に浸かってゆっくり考えよう・・ タクシーはほどなく温泉宿の前に到着した。