2004/7/5掛け軸

子供の頃、我が家の床の間の掛け軸は「人生とは重き荷物を背負いて、遠き道を歩くごときもの」という 一文で始まるものだった。どうやら徳川家康の言葉らしい。

私は子供心にこの掛け軸が嫌いだった。平和に幸せな子供時代を送っていた私にとって これから先の人生を「苦しいもの」と規定されるなんて、「縁起でもない!」という感じで(笑)。

しかし、今、この年齢になって、実家にあるその全文を読むとなかなかに胸打つものがある。

若い頃は苦しいこととは遭遇しないで生きていきたかった。大人になれば自力ではどうしようもなく 辛いことに遭遇することがある。嵐が過ぎ去るのを待つようにじっと頭を下げてその試練に耐えているうちに その試練が結果として自分のためになったと思える日が来る。

それは大波小波でやってきて、小さなことは一日もすれば気分転換できることもあるし、そういう小さい波が 延々と続いてやってきなかがら更に大きな波を作り出すこともある。

「大きな波を乗り越えた」と自分では思っていても、それは実はたいしたことのない波かもしれない・・

先週の中学の同窓会では31年ぶりに級友たちと再会した。平均寿命を考えても充分に人生の後半戦に 突入しているはずだ。三年間という短い時間を共有したあと、それぞれの人生は全くそれぞれで、 きっと語りつくせないドラマがどの人にもあったに違いない。

最近、習字を習い始めたという父が、くだんの掛け軸の言葉で練習し、それがリビングの壁に貼ってあった。 それをみながら、なつかしい仲間の近況を母に話しつつ、そんなことを考えていた。