2004/12/8献立ノート

私は大学時代、毎日、母が作ってくれる夕食を「献立ノート」なるものに記録していた。 母が作ってくれる料理だけではなく、外食したときは、それも記録する。 普通の大学ノートに3年分が記録できるように枠を引き、献立名と、色鉛筆で彩色した絵で 記録していた。それは22歳で結婚したあとも続いた。

そんなことを始めたきっかけは沢村貞子さんの本を読んだことだった。彼女は夫をとても 愛していた。そして、夫との二人の生活をとても愛しんでいた。「去年の今頃は何を食べたのか」 「同じようは味の食事が続いていないか」「バランスはとれているか」そのようなことを確認しつつ 毎食を大切に生きていく記録だった。

それを読んでいたく感動した私は、真似をして母の作ってくれる料理を記録しだしたのだ。 母は結構料理が上手だった。手早く、ありあわせの材料で、見た目の美しさにこだわる。 記録することは楽しく、毎日、夜、自室で日記をつけたあとに、別途、献立ノートを広げ 色鉛筆で絵を描くのだった。色つきで絵をかくのは楽しい作業だった。見た目の美しさに こだわっている母の料理は描いて絵になるからである。

それに食事は様々な思い出に直結している。だれが遊びに来てくれたのか。一緒にどんなものを食べたのか。 その時、どんな話しをしたのか。ある日、季節を感じた食材はなんだったのか。

娘が成人して、結婚するまで。それはその家庭にとってひと時、春のなぎの海のように おだやかで暖かく明るい・・私はそんなイメージを持っている。

私の手元にある数年の献立ノートにはその時間が濃縮され、紙がきばんだ今でも のぞけば幸せな気持ちになる。あの時、沢村貞子さんの本を読んでよかった・・・ そう思うのである。