2005/1/11伝承

朝日新聞の記事によれば、タイのスリン島では「異常な引き潮を見たら 山へ逃げろ」という言葉が伝承されていて、185人の島民の内、亡くなった方は 一人だったらしい。

何十年、いえ、百年単位の長さで祖先の経験が伝えられ、そして役立った。

私がいわゆる「言い伝え」のようなものを受け入れるようになったのは 子供を産んだ頃からだと思う。それまで、私にとっては知識は本や新聞など 活字で得られるものが絶対だった。

「お産には潮の満ちひきが関係する」「赤ちゃんがしゃっくりをするときは おむつが濡れている」等々、本には決して載っていなかった知識。 「泣くことも運動のうち」・・そんなことさえ、考えつかずにおろおろしていた私。

義母が話してくれた少しの言葉は、私の記憶に残った。

「子供を育てる」という「生命体」としてもっとも根源的なことは、 本や雑誌より「先輩の経験」がなにより参考になった。

私の両親は戦争中、子供だった。その親の世代は子供を食べさせることに 精一杯。おまけに戦後はアメリカ軍占領下のもと、「アメリカの民主主義と自由経済」を 手本に日本中ががんばり、「年より=古臭い」という図式のもとに、口伝えの伝承は 少なくとも私が育ったような新興住宅地の都市部ではほとんどなかったと言っていい。

知識はマスコミから与えられ、それらがある意味偏っているということに 気付くには時間がかかった。

「経験にうらうちされた知恵」・・これほどすばらしいものはない。 祖先が何度も失敗と成功を繰り返しながら実生活から学んできたことなのだ。

「マイブーム」「カリスマ」「今、おしゃれな〜」「マダム」「シロガネーゼ」 「絶品」「絶景」・・・あげていけばきりがないが、テレビ、雑誌で繰り返される これらの言葉に私は嫌悪感を感じる。

しかし、だからといって私が娘たちに「伝承」していけるものがいったい何なのか? 自問すると本当に心もとない。それでも、何かを、自分の経験から得た何かを 「伝えたい」という気持ちは強い。