| 2006/10/5 | ワイン・バー2 |
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「このあたりは30年前ぐらいまでは黒塀の続く料亭街だったのですよ。 それはそれは美しい街でしたが、壊してしまったものは二度と元にもどらないですね。 本当に残念です」 帰宅した後、いただいた名刺の彼女の名前で検索したところ、 インタビュー記事が出てきた。その中で彼女はこう語っていた。 ・・昔から花柳界には、「この人は将来、出世するに違いない」と女将が見込んだ人には、 「お勘定は出世払い」という伝統が本当にあるのですよ。 将来、もしその人が社長にでもなったら、会社の大きな宴会をウチでやっていただければ、 という期待を込めての「出世払い」です・・ 彼女の姿を思い浮かべながら、私には無縁の、でも確かに存在する「ある世界」の空気を嗅ぐ。 出されたワイン・メニューはブルゴーニュが7割を占めていた。 聞けば、ママが「ブルゴーニュが大好きで、死ぬほど飲みました。 だから『ノムリエ』ですの。自分の分かる範囲のものだけ置いていたら こんな風になってしまいましたのよ。」 実は私たちは「自分達の飲めるプライスの範囲」でボルドーを選んでいたのだが 「そう伺っては、一杯いただきたい」とブルゴーニュもグラスでいただいた。 カウンターで栓を抜き、自らのグラスでテイスティングしたママは 「ああ、おいしい」と声に出す。その声には商売抜きの、ワインが好きなママの 「幸せのニュアンス」が含まれていると私は感じた。 いただいたワインも美味だったが、「もっと、このママの話を聞いてみたい」と そんな風に思えるお店だった。
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