| 2006/10/26 | 指先 3 |
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その知らせはS君からメールで来た。皆心配していたが、ただ黙って 祈るしかないと、だれもが口にせずとも理解していた。陸上の仲間だった医師を通じて 私たちは彼が意識を取り戻したこと。医者が「奇跡的」と驚くような回復を もちまえのがんばりで取り戻しつつあることを聞いた。 それから2年。また開かれた中学同窓の小さな集まり。 今回は東加古川の駅から暗い道を10分ほど歩いた先にある小さな居酒屋だ。 この店は、その日が最後の営業日だ。やはり同窓生の一人である、ソフトボール部の 口は悪いが気の優しい女子が息子さんと営んでいたお店だった。 店が駅から少し離れていること。行く道筋が暗くて危ないとのことで、何人かで 駅前で待ち合わせをした。 店に着くと、もう、委員長は来て、また店の一番奥の席に座っていた。 血色がいい。少しやせて顔の輪郭が中学の頃に近くなっている。 「また男前があがったね」とからかう。 座る姿は、元気そうだったが、右半身は感覚がないこと。 右胸から右指先までしびれていつも痛みがあること。 考えながらでなければ右足を出すことができないことを 彼はニコニコと明るく語ってくれた。 「なんせ、右腕の感覚がないやろ。この間なんか電車に乗ったらな、 なんでか分からへんけど、からだが前に進まへんのや。 おかしいなあ思たら、なんと右腕がドアにはさまったっとんたんや!」 おもしろおかしく身振りを交ぜて再現してくれる。 「ほんまに感じへんのん?さわってもええ?」「ええよ」 右胸から指先までそっと触れてみる。 それを見ていた同級生から 「ピッピッ〜!さわったらあかん!イエローカード!」とさっそくにやじが飛ぶ。
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