| 2006/10/267 | 指先 4 |
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奥さんがなくなった時、小学校の4年生だった彼の長女は来春結婚するという。 「意識が戻って最初の一年はなあ、あんまり痛いから 『なんで生きかえったんやろ。死んでしもたほうが楽やった』思うたことも あるねんで。でも、リハビリはがんばったで。夜にな、一人でこっそり廊下で 練習するねん。ほんまはあかんねん、一人でやったら。だから、隣の病棟まで 車椅子で行って練習した。そしたら、あくる朝には先生がびっくりしはるんや。 昨日できなかったことが出来るようになってるからな。 『すごい!』って。隣の病棟の看護婦さんは、見てみぬふりしててくれた。 ありがたいなあ。」 楽しい時間はあっという間に過ぎ、応援団長の三々七拍子で みんなで手締めする。 「ええなあ。ほんまに生きてることに感謝や。こうやってみんなにも会える」 駅までの道は暗い。「長い時間歩くときは使う」と委員長は杖をとりだした。 「手、つないでもええ?」「ええよ」 麻痺しているという右手は指先までこわばり、指と指の間できりきりと 締めつけられるように私の指も痛い。でも、何も感じないという その指先は暖かだった。 前方を元クラスメート達が大声で楽しそうにわめきながら歩いていく。 酔っぱらって肩を組んで歩く二人組みのシルエットが右へ左へと がにまたの千鳥足なのがかわいい。 「この間なあ、キャンピングカーを衝動買いしてん。6人も寝れるんやで。 はよ、来えへんかなあ」 6人も寝られるキャンピングーカー。お嬢さんやお婿さんやお孫さんと 出かけるんかなあ。 万博広場でかすめとられた卵焼き。そして、今日の暖かな指先。 同じぐらい忘れられないシーンになるだろうな。 (注:今回の日記には一部フィクションが入っています)
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