| 2007/7/31 | トマト |
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今年は、なかなか夏らしく暑い日が続かない。いまだに関東地方は梅雨明け宣言もされず 台風後も曇り空が続いたと思ったら雷に大雨。でも、今日は久しぶりに良い天気だった。 夕べの大雨で地面が冷やされたせいか、さほどむっとした暑さも感じられず、家中の窓をあけ 風を通していると、すだれ越しにさわやかな風が吹き込む。長女はオランダで夏休み。 次女も沖縄で休暇中。こんな日に、昼間の静かな家で風にふかれていると、わけもなく幸せになる。 窓際の小さな椅子とテーブルに一人分の昼食を運ぶ。夕べのおかずの残りに目玉焼き。 食べ終わってなんとなく物足りないので冷蔵庫をのぞいたら、赤いトマトが一つ目にとまった。 水道水でさっと洗い、フランスみやげの岩塩をがりがりミルでひいてかけてかぶりつく。 舌にひろがる塩気。トマトのほんのり青臭い匂い。トマトの汁気をこぼさないよう上手にすすりながら かぶりついては塩をふり・・。 ああ、なんて懐かしい感触だろう。思えば子育ての長い期間、私はトマトはスライスして お皿にのっけて食卓に出してきた。最近ではモッツラレチーズとバジルと一緒に オリーブオイル・塩・コショーなんてのがお気に入りだ。クーラーのきいた部屋で、 ワインを飲みながらのそんな大人の食卓風景が続いたここ数年。 でも、夏の暑い日に、暑い部屋で、風を感じながら青臭い冷たいトマトにかじりつく。 その行為が私に懐かしい風景を思い出させた。 子供の頃、自宅の隣は畑だった。夏休みは早起きして、畑にトマトを買いに行く。 学校のある間は母が買いに行く。夏休みになると私が買いに行く。畑の横に、木造の小さな バラックがたっており、その中では木のテーブルに、これまた木でできた箱がいくつか 並び、大きさ別にトマトが値札をつけられてへたを下にして並んでいる。 どれが赤くよく熟れているか、視線は木箱の上を行ったり来たり。 近所の主婦や子供達が買い物かごをぶら下げて買いに来る。買い物かご・・! なんて懐かしい言葉の響き。「エコバック」じゃない。買い物かご・・。 今ではその畑も変電所が立って跡形もない。あの頃、若い母親達だった人たちは 子供も皆りっぱな中年になり、当時の新興住宅地は老人の街になった。 新興住宅地に残されていた野菜畑。いぼいぼのついたきゅうりや、がくがとんがって つんつんしていた青紫のナス。そして青臭いトマト。 すだれ越しの昼下がりの風にふかれて、私は遠い目をしていたかもしれない。
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