| 2007/7/31 | 視線の先 |
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駅から続くブリッジにはりめぐらされた金網。その金網越しに一人の老人がカメラを構えている。 炎暑の中、その老人だけではない。一人、また一人と立ち止まっては金網ごしに立ち尽くす。 視線の先ではブルドーザーが土煙をあげている。900億円の費用をかけて始まった 戸塚駅西口の再開発。もう30年近くも商店街の人たちと話し合いが続けられてきていた。 一時は「凍結」か、とも思ったが、ついにこの6月から取り壊しが始まった。 戸塚駅西口の旭町商店街は、趣きもあり、活気もある。商店街の先にバスセンターが ある。戸塚駅を降りた人たちが、広い戸塚区を網羅するバスに乗るために その商店街を毎日通る。だから、生活に根ざした活気があった。 八百屋に肉屋にお魚屋さん。電気屋さんにラーメン屋に、おしゃれなケーキ屋さん。 腕のいいカメラ店にアレンジメントが上手なお花屋さん。とりすましてはいない 庶民の街だ。 駅から直結する仮店舗のビル。その中を通り抜け、少し遠回りして元の バスセンターへと人々は流れる。その流れをはずれて、入れ替わりたちかわり 人が立ち止まっては壊されていく街を眺めているのだ。 私が育った神戸の舞子駅周辺は、明石大橋が出来るときに、 その姿をすっかり変えてしまった。なにせ、昔、通りなれた道がないのだから、 記憶と現実のずれに今も私はなじめない。 私の長女は、この春から海外で働いている。 2年後に帰ってきたら、彼女が私の誕生日に花束を買ってくれていたお花やさんも ケーキ屋さんも、もうないのだ。幼稚園がお休みのときに時々行ったファーストフードの お店ももうない。 「胸がちりちりと痛いです」壊される店舗を眺めながらケーキ屋の主がつぶやいていた。 「図書館通り」。青銅色の通りの名前を書いた看板がかろうじて読み取れる。 「旭町商店街」の文字はもう見えない。今はまだ、商店街の建物の壁が古びた姿をさらしている。 これも後数日で跡形もなく消え去り、更地へと姿を変えるだろう。 これからも毎日、あの、ブリッジの金網越しに、変わる街を眺める人が立ち止まるだろう。 新しい街が出来るのは3年後の予定だ。
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