| 2009/4/6 | ある家族の物語5 |
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そのような時、今度は彼女の父が体を壊した。元来太り気味で心臓も弱かった。心不全を起こしたこともあったが、その当時は検査の結果、バイパスの手術は不要とのことだった。とにかく病院が怖くて怖くて、病院には絶対に行かないと言ってきかない父だったそうだ。 しかし、手足がむくみはじめ、夜も心臓が苦しくて横になって眠ることができず、リクライニングできるベットで上体を起こして休んでいた。やがてむくみのために立ち上がることも歩くこともできなくなったうえ、肘や膝の関節から体液が滲出し始めた。軟膏を塗り包帯を巻きながら、母は泣いて病院に行ってほしいと頼んだが父はがんとして拒否した。 ついに母娘は二人で心臓の専門医を訪ね状況を説明する。医師は「明日、救急車を派遣します。強制的にここに連れてきましょう」と言った。翌朝、救急隊員はむくんだ指にはめられた結婚指輪を一番に切断した。担架に乗せられ家を出るとき、父は「もう二度とここには帰ってこられないだろう」と泣いた。 診察した医師は言った。 「生きているのがおかしい状況です。死んでいてもおかしくない血液の状態です。すぐに透析を始めましょう。明日死んでも責任はとれません」それでもなお透析はいやだと言った父。だが「お願いだから生きて」と言う娘にやっとおれた。
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