2009/7/4五人の母2

 5階のその店の前では数人の客が順番を待っている。  表に出ているメニュー表を見ると一番安い丼定食で二千六百円もする。う〜ん、どうしよう。ちょっと贅沢かなあ。  一度は店の前を立ち去りかけたが、ええいままよ、たまにはいいか・・と、出てきた店員さんに名前を告げた。

 私が名前を告げるその横で、小柄な婦人も名前を告げようと待っている。彼女も「一人です」と言い、店員が去ると、私に向かって「こんなところで一人でうなぎを食べるなんて初めてなんですよ。昨日、ちょっと元気がなくって友だちと電話をしていたら、『そんなにしょぼくれていないで、明日は一人ででかけておいしいうなぎでもぱあっと食べていらっしゃい!』と命令されたんです。」と微笑んだ。

 年の頃は私の両親ぐらいだろうか・・。

 「そうなんですか・・。でも、そんな風におっしゃってくれるお友だちって素敵ですね。」

 「私は、赤ちゃんのときに養子にだされましてね、育ての親も亡くなって・・。寂しいものです。主人は大正の人ですからね、あまり口もききませんから夫婦でいても寂しいですよ。昨日は家の庭にはえている梅の木の剪定を二人でしたのですよ。庭木一本のために植木屋さんを呼ぶのもねえ・・と思いましてね。」

 失礼ながらお年を尋ねると八十歳だとおっっしゃる。