2009/7/6五人の母3

  店員が私の名前を呼びに来た。 「一人どうしだからご一緒にいかがですか?」と声をかけてみたが 「そんな・・こんな年寄りの話し相手をさせては・・」と遠慮される。あまり誘っても迷惑かと一人で店内に案内された。

 店内は百貨店の中とは思えない昔のつくりで落ち着く。 古くて大きな柱時計。電気の傘はすべて手作りの吹き色ガラス。さすがに年配のお客様が多い。一番安い定食は一日二十食限定と書いてあったが、まだあるというのでそれを注文した。5分ほどして先ほどの婦人が案内されてきた。席に着いて私と目が会う。  私がにっこり笑って「もし良ければここへどうぞ」と合図すると店員さんになにやら言って彼女は私の席にやってきた。

 「ごめんなさいね。こんなところに一人ではいるのは初めてで。なんだか人恋しくてたまらなくて」と少し目をうるませている。  メニューを見て「高いのねえ。なんだかばちが当たりそう」と小さな声でつぶやく。

「この、一日二十食限定の、まだありましたよ。私もそれを頼みました」と話しかけたら、「私もそれにします」と答えた。 問わず語りに話してくださった彼女の人生のほんの一部。 それをここに書きたいと思う。