新製造法による座屈拘束ブレースの開発実験

1.序論 
 座屈拘束ブレースにより減衰効果を発揮させ、建築物の柱梁をできるだけ弾性域にとどめる損傷制御設計法が多く使われるようになってきている1)。この設計法を用いる場合、座屈拘束ブレースを中地震動の入力から塑性化させる設計を行うことにより、大地震動におけるエネルギー吸収量を大きくすることができ、柱梁の塑性変形によるエネルギー吸収に期待しない設計法が可能となる。言い換えると、柱梁を大地震動に対してもほぼ弾性範囲で設計することができる。このことにより、たとえこのレベルを超える大きな地震動を受けても、柱梁接合部の塑性歪は従来の構造に比べ大幅に低減され、接合部の損傷を回避できる。またこの設計法によると、従来の設計法に比べ構造全体の重量を低減できる場合が多く、かつ大地震後も座屈拘束ブレースのみを点検し、必要に応じてブレースのみを補修したり取り替えることにより、建物全体は持続的に使用できるなどの経済的な優位性もある。
 本研究を進めるにあたり、様々な試験体形状の性能比較実験を行った昨年度の研究結果2)を整理し、性能の優れていた試験体の長所、短所を考察し、次のように考えた。すなわち、湿式工法のブレースは性能が安定している反面、品質管理等に問題がある。また乾式工法のブレースは製作が容易であり、端部ディテールに自由度があるが、その反面、性能の点で湿式工法のブレースに劣る。このことから、両工法の長所を生かし、端部ディテールに自由度があり性能的に劣らない、また品質管理も厳重に行えるブレースを開発することが求められる。
 本研究では、以上の点をふまえて、新製造法による座屈拘束ブレースを開発し、モルタルの強度、芯材・拘束材間のクリアランスの管理、拘束材の気密性の3点に着目し、製作方法の異なる試験体3体の実験を行う。実験結果より、座屈拘束ブレースに要求される必要性能、限界性能を確認した上で、この開発した座屈拘束ブレースについて特許を申請する。

2.実験方法
2.1 試験体
 本研究において製作した試験体はタイプA、B、Cの3体(図1)である。実験に際して、昨年度と同じように、拘束材に関しては剛性を決定する際の変数となる断面2次モーメントを同程度のものとする。芯材はPL-16×176とする。芯材の材質はSN400Bとし、拘束材の材質はSS400とする。試験体の一覧を表1、計算耐力を表2、芯材の機械的性質及び化学成分を表3に示す。また各タイプとも、歪3.0%時における鋼管の移動が上下どちらかに偏らないためのずれ止めを芯材下部に設ける。
1)タイプA試験体
 軽量溝形鋼を形枠代わりとしてモルタルと一体型(以後、鋼モルタル板と呼ぶ)とし、プレートを介して2つの鋼モルタル板を溶接し固定する。組立て段階で亀裂を生じさせないようにモルタル内部にスチールファイバーを混入し、載荷中にモルタルが圧壊しても逃げ場を作らないように、鋼モルタル板の両端部に当て金を設ける。さらに、芯材の初期不正を補正するために、アンボンド材を貼った芯材と鋼モルタル板との間にグラウト材を注入する。これにより、芯材と鋼モルタル板とのクリアランスをむらなく厳密に管理することができる(図1(a))。
2)タイプB試験体
 基本断面はタイプAと同様である。異なる所は、モルタル内部にスチールファイバーを混入しておらず、グラウト材を使用していない点であり、端部当て金の有効性を確認する。また芯材と鋼モルタル板とのクリアランスの管理は溶接段階において調整する(図1(b))。
3)タイプC試験体
 基本断面はタイプAと同様である。異なる所は、グラウト材を使用せず、鋼モルタル板端部に当て金を設置していない点であり、スチールファイバーをモルタルに混入した場合の有効性を確認する。クリアランスの管理はタイプBと同様である(図1(c))。

2.2 載荷計画
 載荷方法および測定方法は昨年と同様である。載荷一覧を表4に示す。





3.実験結果
3.1 タイプA試験体
 載荷は3.0%歪の8回目引張途中に芯材が破断するまで行った(図2(a))。芯材が破断するまでは引張、圧縮ともに安定した復元力特性を有している。最大耐力は、引張側で1,261kN、圧縮側で1,377kNである。鋼モルタル板を除去し、芯材を観察してみると高次の座屈モードが確認できた。
3.2 タイプB試験体
 載荷は2.5%歪2回目圧縮途中まで行った(図2(b))。2.0%歪までは安定した復元力特性を有しているが、2.5%歪に入ると圧縮載荷時に強軸方向へ変形し始めた。2.5%歪2回目圧縮途中において、強軸方向への変形が大きくなったため実験を終了した。最大耐力は引張側で1,183kN、圧縮側で1,345kNである。鋼モルタル板を除去し、芯材を観察してみると芯材の中央よりやや上部で強軸方向に大きく変形しているのが確認できた。
3.3 タイプC試験体
 載荷は2.5%歪1回目圧縮途中まで行った(図2(c))。1.5%歪までは安定した復元力特性を持っているが、2.0%歪に入ると強軸方向に変形し始め、2.5%歪圧縮載荷途中にタイプB試験体と同様な現象が見られたため実験を終了した。最大耐力は引張側で1,142kN、圧縮側で1,236kNである。
 鋼モルタル板を除去し、芯材を観察してみると芯材の中央よりやや上部で強軸方向に大きく変形しているのが確認できた。
4.考察
4.1 復元力特性
 各試験体とも2.0%歪までは安定した性状を示している。タイプCの履歴ループが2.0%圧縮載荷時に不安定の挙動を示している原因は、芯材が強軸方向に大きく変形し始めたためと考える。このため、タイプBでは2.5%歪2回目圧縮途中に、タイプCでは2.5%歪1回目圧縮途中に若干の耐力の上昇が見られる。芯材が強軸方向へ大きく変形した原因は、弱軸方向の拘束力が強く、逆に強軸方向は芯材とプレートの間のクリアランスが大きかったためと考える。タイプAでは強軸方向にグラウト材があり、クリアランスが一定であるのでこのような現象は見られない。
 タイプB、Cについては芯材が強軸方向に大きく変形したために実験を終了したが、強軸方向のクリアランスを一定にすることができれば、さらに最大変形能力があると考える。各試験体の最大変形能力を表5に示す。
4.2 累積吸収エネルギー
 昨年度試験体(タイプ1、2、3、4)と本年度試験体について、実験終了までに吸収した累積吸収エネルギーEt、1.0%歪時の5ループ分の累積吸収エネルギーEa、およびEt/Eaを計算して表5に示す。()内の数字はタイプAの値を100とした時の割合である。本年度実験では、各試験体とも1.0%歪時で耐力低下は見られないためEaはほぼ一定となっている。またEtについてはタイプAが3.0%歪を7回繰り返したため一番大きな値となっている。タイプBは端部当て金、タイプCはスチールファイバーを混入することで、それぞれ十分な性能を発揮していると考えるが、端部当て金を設置したタイプCの方がEtが大きい。実験終了後に鋼モルタル板端部を観察すると、タイプCのモルタルには亀裂が入っており、タイプBの端部当て金は座屈していた。
 昨年度の試験体と比較すると、3.0%歪を14回繰り返したタイプ1とタイプAの値が大きい。タイプB、Cはタイプ3、4程度のエネルギー吸収能力を持っていることが分かる。
4.3 累積塑性変形倍率
 昨年度および本年度の各試験体毎の累積塑性変形倍率ηを表5に示す。3.0%歪を7回繰り返したタイプAと、14回繰り返したタイプ1はともに値が大きいが、その他は200前後である。
 各試験体のEt/Ea、ηを()内の値で比較すると、タイプAはタイプ1とタイプ3の中間相当の性能、タイプBはタイプ2相当の性能だと言える。
4.4 最終破壊性状
 本年度試験体ではタイプAだけが芯材で破断した。破断個所は補強リブ先端部付近の溶接個所を基点としている。芯材には、グラウト材によりクリアランスが厳密に管理されているため、全体にわたって高次の座屈モードが見られる。タイプB、Cでは、ともに弱軸方向の座屈は見られない。これは弱軸方向に座屈する前に強軸方向に大きく変形したためと考える。
5.結論
(1)各タイプとも層間変形角1/100相当の歪1.0%まで十分安定し た復元力特性を持っていることを実験で確認した。
(2)グラウト材は設計段階において芯材の初期不正によるクリア ランスを一定に保つために使用したが、弱軸方向に起こる座屈 を拘束するだけでなく、強軸方向の変形も防止している。
(3)総合的に比較すると、モルタルの強度を上げるよりも、拘束 材の気密性を上げる方が性能が良い。さらにグラウト材を用い ると湿式工法で製作したブレースと同様の性能を有する。

 これらの結果をもとに、「座屈拘束ブレース及びその製造方法」という特許(特願2000-362850)を平成12年11月29日に申請した。

[参考文献]
1)和田 章、岩田 衛、清水敬三、安部重孝、川合廣樹:建築物の損傷制御設計、1998 年、9月
2)座屈拘束されたブレースの性能比較実大実験、平成11年度卒業論文