訴   状

  〒892-0845 鹿児島市樋之口町六ー一五ー一〇〇五

          原   告   内田伸子

  〒892-0842 鹿児島市東千石町八番二五号オリエンタルビル四階

  TEL  〇九九ー二二五ー〇〇一五

   FAX 〇九九ー二二五ー四八五九

         原告代理人弁護士  蔵元 淳

  〒892-0841 鹿児島市照国町一七ー一四エクセレント照国三〇一

  TEL  〇九九ー二二五ー一四四一

   FAX 〇九九ー二二四ー二八九二

         原告代理人弁護士  小堀清直

   同 所 同 番

            同      増田 博

   (送達場所)

  〒892-0842 鹿児島市東千石町八番二五号オリエンタルビル四階

 

  〒890-8577 鹿児島市鴨池新町一〇番一号

          被   告   鹿児島県

          右代表者知事  須賀龍郎

  〒890-8577 鹿児島市鴨池新町一〇番一号

          被   告   須賀龍郎

損害賠償請求等事件

訴訟物の価額 金九五万一、三六〇円

貼用印紙額 金   八、六〇〇円

請求の趣旨

  一 被告らは原告に対し、各自金九五万一、三六〇円及び

これに対する本訴状送達の翌日から支払い済み迄年五分の割合による金員を支払え。

 二 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。

       請求の原因

第一 当事者

  一 原告は、地方公共団体の税金の使途の監視や非違行為の

是正等を目的として平成八年三月四日結成されたオンブズマン鹿

児島なる市民団体に加入し、ガラス張りの民主的財政を要求して

活動している県民の一人である。

  二 被告須賀龍郎は、普通地方公共団体たる被告鹿児島県の

知事であり、法令及び条例で定める所管事項につき、国家賠償法

第一条所定の公権力の行使にあたる公務員であ

る。

第二 本件文書開示請求及び処分の経過

  一 周知の通り、被告鹿児島県(以下、単に「被告」という

場合には被告鹿児島県をいう。被告須賀龍郎をいう場合には、

「被告須賀龍郎」という。)は鹿児島県民が祖先から受け継いだ

貴重な遺産である錦江湾の広大な海域を埋立地に化そうとして

いる。

    被告は、これを人工島と称し、様々な利点を挙げて宣伝

しているが、大多数の県民は、とても「島」とはイメージしてお

らず、深刻な不況の中で血税を浪費してゼネコン及びこれと深く

関わる者を利するだけの全く無駄な埋立地造成にすぎないと受け

止めている。

  二 原告は、被告が六七ヘクタールの埋立を計画するとしな

がら、このうち約二四、七ヘクタールについてのみ港湾管理者の

長たる鹿児島県知事須賀龍郎に対し、公有水面埋立免許申立を為

し、錦江湾の自然を保全する為の最低限の保障である環境アセス

メント実施や住民参加の手続等を免れようとしている手法に不純

な動機を感じ、右埋立準備の為の県費の支出の状況を知る必要が

あると判断し、

   1 まず、原告は鹿児島県知事に対し、平成一〇年九月一

七日公開条例に基づき本件一の文書の開示請求を為した。

   2 鹿児島県知事は原告に対し、平成一〇年一〇月一三日、

本件一の文書に関し、同年同月一日付公文書等一部開示決定通知

書に於いて「補償金の支払時期及び方法」の

部分等について非開示処分とし、原告は同通知書を同月一三日受

領した。

     その処分内容は、別紙公文書等一部開示決定通知書の

通りである。これのうち少なくとも「補償金の支払時期及び方法」

の部分の非開示(以下「本非公開部分」という。)は、後記の通り

違法な処分である。

  三1 原告は鹿児島県知事に対し、平成一〇年一〇月三〇日、

    公開条例に基づき本件二の文書の開示請求を為した。

   2 鹿児島県知事は原告に対し、平成一〇年一一月一三日

    付公文書等非開示決定通知書で本件二の文書の存否(存

    在するか否か)を含めて非開示処分とし、同年同月一八

    日この通知書が原告に到達した。

     その処分の内容は別紙公文書等非開示決定通知書記載

    の通りであるが、この処分は、後記の通り違法な処分で

    ある。

  四1 尚、原告は鹿児島県知事に対し、平成一〇年一二月一

    五日公開条例に基づき、何としても差止請求の資料を得

    たいと考え、念の為に本件三の文書の開示請求をも為し

    た。

   2 鹿児島県知事は原告に対し、平成一〇年一二月二八日

    付公文書等非開示決定通知書で本件三の文書を非開示処

    分とし、同年同月三〇日その通知書が原告に到達した。

     その理由は、公開条例第八条八号(行政運営情報)及び

    公開条例第八条三号(事業活動情報)に該当するとのこ

    とであった。

  五 被告は訴外鹿児島市漁業協同組合(以下「漁協」という。)

   に対し、平成一一年一月二九日、第二回目(最終)の漁業

   補償金の支払いを為した(金八億一〇一二万三〇〇〇円、

   原告が後に知り得た時期及び金額である。

    尚、第一回目の漁業補償金の支払いは平成一〇年四月一

   七日の支払いで金八億二四八八万二〇〇〇円でこの時期・

   金額は原告が後に知った。)。

    ところで、右第一回目及び第二回目(最終)の漁業補償

   金の支払いは、今日に至っても公有水面埋立免許処分がだ

   されてもいないことから支出が適法かとの点に関し、法的

   に疑念のある支払いでもある。

    然るに、被告は支払いを秘匿したうえで支払うのである。

  六1 原告は鹿児島県知事に対し、平成一一年二月二二日、

    公開条例に基づき、再度、本件二の文書の開示請求を為

    した。

   2 鹿児島県知事は、平成一一年三月二日、県議会におい

    て本件二の文書が存在すると答弁した。

   3 鹿児島県知事は原告に対し、平成一一年三月一二日、

    別紙公文書等非開示決定通知書で従前原告に対して文書

    の存否も含めて一切を非開示とした本件二の文書に関し、

    支払金融機関欄・預金種別欄・口座番号・口座名義欄を

    除いて開示した(支出命令額欄及び支出命令済欄並びに

    支出命令残額欄等を開示した)。

  七 訴外隈元明美は鹿児島県知事に対し、平成一一年三月一

   二日、公開条例に基づき、本件一の文書の開示請求を為し

   た。

    ところが、鹿児島県知事は、右訴外人に対しては、平成

   一一年四月九日、本非公開部分(従前原告に対して非開示

   とした本件一の文書の「補償金の支払時期及び方法」)に関

   して開示した。

第三 鹿児島県知事の違法処分

  一 全国の裁判所の判示、判例について

   1 鹿児島県知事は、公開条例における非開示処分につい

    ての御庁平成八年行ウ第一二号事件での平成九年九月二

    九日付判決で敗訴し、御庁平成九年行ウ第八号事件の平

    成一〇年二月六日付判決でも敗訴し、しかも最近三年間

    の裁判所の判断も大勢は(特に行政運営情報に関する裁

    判所の判断についても)仙台地方裁判所において(平成

    八年七月二九日判決、平成七年行ウ第四号)、東京地

    方裁判所において(平成八年八月二九日判決、平成七

    年行ウ第二一一号)全面公開を命じた。所謂第三セク

    ターの資料ですら宮崎地方裁判所は公開を命じた(平

    成九年一月二七日判決、平成七年行ウ第二号)。

     その他、平成九年には、東京高等裁判所(平成九年

    二月二七日判決、平成八年行コ第七八号、右東京地方

    裁判所判決の控訴審)、浦和地方裁判所(平成九年二

    月一七日判決、平成七年行ウ第一九号)、大津地方裁

    判所(平成九年六月二日判決、平成八年行ウ第七号)

    の判決が為された。

     尚、食糧費の支出に係わる損害賠償請求事件につい

    ては平成九年一〇月一四日の札幌地方裁判所判決(平

    成八年行ウ第二号)がある。

     更に、平成一〇年に入っても、御庁平成一〇年二月

    六日付判決(平成九年行ウ第八号)、大阪高等裁判所

    (平成一〇年六月一七日判決、平成九年行コ第一七号)、

    熊本地方裁判所(平成一〇年七月三〇日判決、平成九

    年行ウ第一号)等がある。

     平成一一年に至っても、東京高等裁判所(平成一一

    年四月二八日判決言い渡し・平成一〇年行コ第一五四

    号)並びに福岡高等裁判所宮崎支部(平成一一年四月

    三〇日判決言い渡し・平成一〇年行コ第三〇号)等で

    も住民側が勝訴している。

   2 然るに、鹿児島県知事は、前記敗訴への反省や判例の

    大勢に対する敬意をはらうこと等微塵も為さない。

     のみならず、鹿児島県知事は、全国的にも極めて異例

    な「文書が存在するか否か」について非開示とする処分

    を行う有様である。

  二1 鹿児島県知事の違法処分を明らかにする為に以下御庁

    平成八年行ウ第一二号事件の判決を引用して、まず公開

    条例における公文書等開示請求権の性質と公開条例の解

    釈態度について論じ(引用部分は本訴状の21頁の2の前

    の行まで)、続いて、鹿児島県知事が為した処分の違法

    性について述べる。

    一 知る権利と情報公開

      憲法二一条一項の規定は、表現の自由を保障してい

     るところ、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報

     に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が

     個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社

     会生活の中にこれを反映させていく上において欠くこ

     とのできないものであり、民主主義社会における思想

     及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理

     を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、

     このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右

     規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当

     然に導かれるところであり、右「表現の自由」の派生

     原理として導かれるものの一つに「知る権利」がある

     (最高裁昭和四四年一一月二六日大法廷決定・刑集二

     三巻一一号一四九〇頁、同昭和五八年六月二二日大法

     廷判決・民集三七巻五号七九三頁、同平成元年一月三

     〇日第二小法廷決定・刑集四三巻一号一九頁、同平成

     元年三月八日大法廷判決・民集四三巻二号八九頁参照)。

      また、知る権利のうち、政府・行政情報の開示請求

     権として「知る権利」(狭義の「知る権利」)は、民

     主主義・国民主義の原理にも由来する。憲法上、首長

     等の直接選挙(九三条二項)が保障され、九二条を受

     けて、地方自治法により地方自治の本旨に基づく諸制

     度が整備され、これに基づき、原告ら住民は、首長・

     議長を選定・罷免し、あるいは条例制度などの直接請

     求を行い、県の財務会計行為の監査を求め、非違行為

     の是正を請求する権利を有するのであるが、これら直

     接民主制に近い統治機構を与えられている住民による

     権限行使を実効あらしめるためには、その資料となる

     行政機関保有の情報が広く住民に開示される必要があ

     る。

      このことは、しばしば引用されるアメリカ合衆国憲

     法の起草者の一人で、同憲法の父といわれているジェ

     ームズ・マディソンの「人民が情報を持たず、情報を

     入手する手段を持たないような人民の政府というのは、

     喜劇への序章か悲劇への序章にすぎない。知識を持つ

     者が無知な者を永久に支配する。みずからの支配者で

     あらんとする人民は、知識が与える権力でもってみず

     からを武装しなければならない」、一九六六年成立し

     たアメリカ合衆国の情報公開法の翌六七年施行に際し

     てラムゼー・クラーク司法長官の「もし政府が真に

     民の人民による人民のためのものであるなら、人民は

     政府の活動の詳細を知っていなければならない。秘密

     ほど民主主義を減じるものはない。自己統治、すなわ

     ち国家の事項への市民による最大限の参加は、公衆に

     情報が与えられていて初めて意味のあるものになる。

     われわれがいかに統治されているのかを知らずして、

     どのようにしてみずからを統治することができようか。

     政府がきわめて多くの場面で各個人に関わっている現

     代の大衆社会においてほど、その政府の活動を知る人

     民の権利が確保されることが重要なときはない」との

     言葉(例えば、松井茂記「アメリカの情報公開法(1) 」

      ジュリスト一〇九〇号一〇五〜一〇六頁参照)の意味

     をかみしめれば、よりよく理解できるであろう。

    二 本条例の制定と公文書開示請求権

      しかし、知る権利といっても、具体的中身を明確に

     定めた立法等がない限り、その内包、外延は不明確で

     あるから、未だ抽象的な権利にすぎず、裁判規範とし

     ての具体的権利とはいえないものである。

      ところで、県は、昭和六三年三月二八日、本条例を

     制定したが、前記のとおり、一条で、本条例の目的を

     「県民の公文書等の開示を求める権利を明らかにする

     とともに、県が実施する情報公開施策の推進に関し必

     要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理

     解と信頼を深め、もって県民参加による公正で開かれ

     た県政を一層推進すること」と規定して実施機関が保

     有する公文書等の開示を求める県民の権利を設定する

     ことを明確にうたい、三条で、本条例の解釈及び運用

     について「実施機関は、県民の公文書等の開示を求め

     る権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、

     及び運用するものとする。この場合において、実施機

     関は、個人に関する情報がみだりに公にされることの

     ないように最大限の配慮をしなければならない。」と

     規定し、情報公開制度の基本理念である原則公開の立

     場を明らかにし、五条で、公文書等の開示を請求する

     ことができるもの(以下「開示請求権者」という。)

     として「県の区域内に住所を有する個人及び法人」等

     を規定し、六条で、公文書等の開示の請求方法につい

     て規定し、七条で、実施機関は、開示請求書を受理し

     たときは、その日から起算して一五日以内に請求に係

     る公文書等を開示するかどうかの決定をし、その決定

     の内容を請求者に通知しなければならないなどの公文

     書等の開示請求に対する決定等の手続を規定し、八条

     及び九条で、実施機関は、開示請求に係る公文書等に

     八条各号のいずれかに該当する情報が記録されている

     ときは、当該公文書等の全部又は一部の開示をしない

     決定ができる旨規定し、同決定に不服がある者は、行

     政不服審査法に基づく不服申立てができることを前提

     に、一二条で、不服申立てがあった場合の手続につい

     て規定している。

      このような本条例の規定を検討すると、本条例は、

     地方自治の場において、県民等に、実施機関の管理す

     る公文書等の開示を求める権利(以下「公文書開示請

     求権」という。)を設定することにより、県民等の県

     政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治の本旨

     に則った県民参加による県政を推進するために制定さ

     れたものであって、県の保有する情報は、八条各号に

     規定する適用除外事項に該当しない限り公開しなけれ

     ばならず、同適用除外事項の該当性についても原則公

             開の観点から厳正な判断をしなければならないと解さ

             れる。手引(甲一の一一〜一二頁・((ここにいう手引

             は、県が刊行した公開条例に関する情報公開の手引を

             いう。二重括弧内は代理人注)))が、三条の解釈及び

             運用について「八号各号に規定する適用除外事項に該

             当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正

             な判断をしなければならない」と注意を喚起している

             ことも、このことを示唆する。

      そうとすれば、本条例は、公文書開示請求権の内容

     を具体的に設定したことにより、県民等の憲法上の抽

     象的な権利であった「知る権利」を地方自治の場にお

     いて実効あらしめるために裁判規範としての性格を有

     する「公文書開示請求権」という具体的権利に結実さ

     せたものと解するのが相当であるから、本条令の解釈、

     適用に当たっては、右の趣旨・目的、公文書開示請求

     権の由来、趣旨を踏まえながら各規定を法文解釈の一

     般原則に従って、合理的、客観的に解釈し、具体的事

     件に当てはめていくことが必要であり、かつ、それで

     足りるというべきである。

   2 鹿児島県知事が為した処分の違法性

    1. 鹿児島港中央港区に係る漁業補償に関する協定書に

ついて

      公開条例八条八号該当を理由として非開示とされた

     部分中、本非公開部分(別紙公文書等一部開示決定通

     知書記載のうち少なくとも「補償金の支払時期及び方

      法」)についての非開示処分は、公開条例の解釈を誤

     り違法である。

      即ち、別紙公文書等一部開示決定通知書記載の公文

     書等の一部を開示しない理由欄記載の理由につき、鹿

     児島県知事名の右決定通知書は「漁業補償金の支払時

     期及び方法については、開示することにより、今後生

     ずる補償交渉等の際、交渉の相手方が予断や憶測をも

     って交渉に応じ、補償交渉が難航する等、反復継続す

     る事務事業の公正又は円滑な執行に支障を生ずるおそ

     れがある」という理由で非開示にした。

      しかし、この本非公開部分に係る理由部分は、全く

     合理的な理由とはなっていない。

      まず、何故に「漁業補償金の支払時期及び方法につ

     いて」開示することが「今後生ずる補償交渉等の際、

     交渉の相手方が予断や憶測をもって交渉に応じ、補償

     交渉が難航する等」の障害をもたらすだろうか。普通

     なら、こういう場合、最も問題になるのは賠償金額で

     あり、「支払時期及び方法」を非開示にする積極的、

     合理的な理由はない。

      また、鹿児島県知事は、「反復継続する事務事業の

     公正又は円滑な執行に支障を生ずるおそれがある」と

     いう。

      しかし、人工島埋立は被告にとって極めて巨額の支

     出を行う一〇年に一回あるかないかの有数の巨大な事

     業なのであり、人工島埋立に伴う漁業権補償は、日常

     的な「反復継続する事業」等ではありえないのである。

     だからこそ、原告は人工島埋立の事業の一環を為す漁

     業権補償について、納税者たる県民の一人として「知

     る権利」があるとして主張しているのである。

      そもそも同号は「監査、検査、取締り、許可、認可

     試験、入札、徴税、交渉、渉外、争訟」と事務事業を

     例示列挙しているように、事前あるいは事後に、その

     事務事業の内容が明らかになると、行政に重大な支障

     をもたらす事務について、例外的に非開示がありうる

     ことを規定しているのであって、すでに交渉がまとま

     り、協定が結ばれて、補償金の支出が決定されている

     場合にはこうした支障はなんらないと考えるべきであ

     り、非開示処分は、公開条例の運用を誤っており、違

     法である。

      更に、本件二の文書である支出命令票は、本件一の

     文書に関連させて「補償金の支払時期及び方法」を納

     税者である県民が知ることに何ら制約を課する理由は

     ないのであるから、その非開示理由は正当性を欠く。

      被告が非開示理由として述べる右理由部分は、被告

     の抽象的かつ不確定な単なる憶測の域をでるものでは

     ない。

   (二)また、念の為にふれると、本件三の文書の別紙公文

     書等非開示決定通知書記載の理由による処分も、公開

     条例の解釈を誤り、違法である。

      即ち、本件三の文書の別紙公文書等非開示決定通知

     書記載の開示しない理由欄記載の理由は、例えば、

     「開示することにより、関係者との信頼関係又は協力

     関係が損なわれる」とするが、「補償額算定調書」等

     が開示されたからといって、特段、行政の執行に支障

     がでるとは考えにくく、被告の抽象的かつ不確定な単

     なる憶測の域をでるものではない。

   (三)本来、公開条例の運用にあたっては、非開示理由を

     十分に説明する責任は鹿児島県知事にあるが、いずれ

     の通知書もその理由が明確ではなく、「県民の公文書

     等の開示を求める権利が十分に尊重されるように、こ

     の公開条例を解釈し、及び運用するものとする。」と

     の同条例第三条の「解釈及び運用の指針」及び前記判

     示、判例に反している。

      運用にあたっては、当該事務事業の執行における情

     報の意味合い等の諸般の事情を統合して、個別具体的

     に判断されるべきであり、また、右「支障が生ずるお

     それ」は、単に実施機関の主観においてそのおそれが

     あると判断されただけでは十分ではなく、そのような

     おそれが具体的に存在することを被告は立証あるいは

     説明責任を負っているのである。しかし、本件におい

     ては、何らこうした努力は為されていない。

      同理由欄「文書の存在の有無」を含めて非開示とし

     た鹿児島県知事の処分部分は、公開条例の運用を誤っ

     た違法な処分である。

第四 原告の権利の侵害

  一 監査請求と住民訴訟に訴える権利の侵害について

   1 住民訴訟を提起するにあたり、原告たる住民は、あら

    かじめ当該地方公共団体の監査委員に対し、執行機関ま

    たは職員に関わる特定の違法または不当な財務会計上の

    行為または怠る事実を指摘してその監査を求め、当該行

    為を防止・是正し、当該怠る事実を改め、若しくは当該

    行為・怠る事実によって当該地方公共団体が被った損害

    をてん補する為に必要な措置を講ずべき旨の監査請求を

    為す(監査請求前置。地方自治法二四二条の二第一項)。

   2 鹿児島県監査委員は、監査結果を原告に通知する。

     原告はその監査結果を不服として訴えを提訴するとの

    手順となる。

   3 住民監査請求が為された場合には監査委員の監査結果

    が六〇日以内に出される(地方自治法二四二条第四項)。

   4 鹿児島県知事が本件一の文書のうち「補償金の支払時

    期及び方法」の部分に関し平成一〇年一〇月一三日に開

    示処分を為していたら、原告は直ちに住民監査請求を為

    せた。すると、原告に対しては、法に則り同日から六〇

    日を経過した平成一〇年一二月一二日頃には監査結果の

    通知が為されることとなる。原告は、漁協に対する第二

    回目(最終)の支払いの四七日前頃には通知を受けるの

    である。

   5 してみると、仮りに、本非公開部分の処分、即ち、鹿

    児島県知事の為した第二の二2記載の違法な右非開示処

    分がなかりせば(本件一の文書のうち「補償金の支払時

    期及び方法」についての開示処分があれば)、原告は監

    査請求のうえ地方自治法二四二条の二第一項一号の「差

    止請求」の提訴が為し得たはずである。

     また、仮りに、鹿児島県知事の為した第二の三2記載 

    の違法な前記非開示処分がなかりせば(本件二の文書の

    うち支出命令額欄及び支出命令済額欄並びに支出命令残

    額欄が開示されれば少なくとも漁業補償金の未払いが存

    すること及び未払残額が明らかになるので)、原告は監

    査請求を前置して差止請求の本案が提訴し得た。

   6 然るに、鹿児島県知事は、前記二度にわたる違法な非

    開示処分を為して原告の住民訴訟(差止請求)を起こす

    権利を実質上奪った。

   7 のみならず、鹿児島県知事は、第二回目(最終)の支

    払いをすませた後に右非開示とした文書の公表を為す手

    法をとった。原告が非開示処分の取消訴訟を為す必要が

    ないと錯覚させ、または、これを為しても「訴えの利益」

    がなく却下となりうるように仕組んだのである。

   右は、要するに、単に公開条例の解釈を誤って違法な前記

   二度の非開示処分を為したにとどまらず、鹿児島県知事は

   違法非開示処分を為すことによって原告の知る権利を奪

   い、憲法に立脚し法律で認められた「差止請求」の裁判

   を受ける権利を奪った。

    換言すれば訴権を実質的に喪失させたのである。

  二 被告須賀龍郎の行為の違法性について

   1 文書の存否すら明らかにしなかった点は、故意に基

    づくもの又は重大な過失である。

     開示請求を拒否するにあたり、鹿児島県知事は「今

    回請求の対象となっている公文書については、漁業補

    償金の支払時期及び方法を特定することにつながる情

    報であるため、その存否を含めて、情報を開示するこ

    とにより、漁業補償金の支払いの有無が明らかになる

    ことから、同補償金の支払時期及び方法を開示したと

    同じになることから」として、支出命令票に関しては

    「文書が存在するか否か」についてすら非開示となす

    処分を行ったのである。

     このように、「文書が存在するか否か」についてす

    ら非開示となす処分は、数多く争われている全国の情

    報公開訴訟の中でも極めて異例な処分である。

     先述したように、住民の「知る権利」の保障こそ、

    肝要とされるにも関わらず、「文書が存在するか否か」

    についてすら明らかになさなかった行為は、その「知

    る権利」を頭から踏みにじったものといわざるを得な

    い。

   2 原告に対しては、非開示にしておきながら、後にな

    って議会及び別の公開請求者には開示したことは、原

    告に対する不法行為である。

     原告に対しては、開示請求を拒み、文書を非公開に

    したのみならず、鹿児島県知事は、第二回目(最終)

    の支払いをすませた後に右非開示とした文書の公表を

    なす手法をとった。

     本非公開部分を非開示とした処分の後に漁業補償金

    の第二回目(最終)の支払いを挟んで程なく鹿児島県

    知事は、鹿児島県議会で支出命令票(別紙文書目録二)

    が存在することをようやく明らかにした。そして、再

    度、支出命令票の開示請求の申立をおこなった原告に

    対して、右申立のうち支払金融機関・預金種別欄・口

    座番号・口座名義欄を除いて開示した(支出命令額欄

    及び支出命令済欄並びに支出命令残額欄等を開示した)。

     原告が「差止請求」を法的に為し得なくなった時点

    で「正しい」公開条例の解釈に従う如くを装って、本

    件二の文書の開示請求に一部応じたというのは、原告

    を「小馬鹿」にした態度である。

     また、本件一の文書に関しても、原告には非開示と

    しながら鹿児島県知事は前記の通り(第二の七)訴外

    隈元明美には開示を為した。

     鹿児島県知事は、原告を侮辱しているというべきで

    ある。

     鹿児島県知事は原告に対し、何故そのような不平等

    な扱いをしたのか、説明をなすべきであるにも関わら

    ず、何ら誠実な態度をとらなかった。

     これら、被告らの行為は、公開条例に基づいて開示

    請求を行った県民の一人である原告に対する故意又は

    重大な過失というべきである。

第六 原告の損害

  一 本来謝罪広告を求めうる事案であると思料するが、原

   告はせめて算定不能の訴額たる金九五万円の慰謝料を請

   求するものである。

  二 また、鹿児島県知事は第二の三2記載の違法な非開示

   処分を為した。原告は第二の六1記載の通り再度の請求

   を為さざるを得ず、往復のバス代金三六〇円と無駄な二

   回目の開示請求に要した時間は少なくとも一時間はある

   ことから金一〇〇〇円の逸失利益を有する。

第七 損害賠償責任について

    鹿児島県知事の前記違法な処分は公権力の違法な行使

   であり、被告は国家賠償法第一条の責任を免れない。

    また、被告須賀龍郎は、前記違法な非開示処分を故意

   または重大な過失でなしたことから民法七〇九条の規定

   による責任を負担すべきであり、このような場合の加害

   公務員たる被告須賀龍郎と被告との責任は不真正連帯債

   務の関係にたつ(例えば、東京地判昭和四六年一〇月一

   一日下民集二二ー九・一〇ー九九四)。

第八 よって、被告らは原告に対し、連帯して(不真正連帯債

  務として)被告は国家賠償法第一条に基づく損害賠償とし

  て、被告須賀龍郎は不法行為に基づく損害賠償として、金

  九五万一三六〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日から

  支払済みまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払

  いを求めて本訴請求に及ぶ次第である。 

     添付書類

        一 委 任 状   一通

       平成一一年六月三日

          原告代理人弁護士  蔵元  淳

             同      小堀 清直

             同      増田  博

 

 

鹿児島地方裁判所  御 中 

 

        文書目録一

  一、鹿児島港中央港区に係る漁業補償に関する協定書

        文書目録二

  一、鹿児島港中央港区漁業補償金の支出命令票

        文書目録三

  一、鹿児島港中央港区漁業補償の補償額算定調書・算定

   資料及び参考資料

 

 

 

 

      公文書等一部開示決定通知書

公文書等の一部を開示しない理由

 鹿児島県情報公開条例第八条第八号(行政運営情報)に該当

  当該協定書のうち漁業権放棄区域図、補償金の支払時期及

び方法については開示することにより、今後生ずる補償交渉等

において、交渉の相手方が予断や憶測をもって交渉に応じ、補

償交渉が難航する等、反復継続する同種の事務事業の公正又は

円滑な執行に支障を生ずるおそれがある。

鹿児島県情報公開条例第八条第三号(事業活動情報)に該当

 当該協定書のうち、補償対象漁協の代表理事組合長の印影

については、当該漁協の内部管理上の事項に関する情報であ

り、開示することにより、当該漁協の事業運営が損なわれる

 と認められる。

鹿児島県情報公開条例第八条第四号(犯罪捜査等情報)に該

当漁協の代表理事組合長の印影を開示することにより、犯

罪の予防又は捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を生

ずるおそれがある。

 

 

 

      公文書等非開示決定通知書

開示しない理由

 鹿児島県情報公開条例第八条第八号(行政運営情報)に該当

  漁業補償に関する協定書において、漁業補償金の支払時期

 及び方法については、開示することにより、今後生ずる補償

 交渉等の際、交渉の相手方が予断や憶測をもって交渉に応じ、

 補償交渉が難航する等、反復継続する同種の事務事業の公正

 又は円滑な執行に支障を生ずるおそれがあるとの理由で非開

 示としている。

   したがって、今回請求の対象となっている公文書について

 は、漁業補償金の支払時期及び方法を特定することにつなが

 る情報であるため、その存否を含めて、情報を開示すること

 により、漁業補償金の支払いの有無が明らかになることから、

 同補償金の支払時期及び方法を開示としたことと同じことと

 なり、今後生ずる補償交渉等において、交渉の相手方が予断

 や憶測をもって交渉に応じ、補償交渉等が難航する等、反復

 継続する同種の事務事業の公正又は円滑な執行に支障を生ず

 るおそれがある。

   なお、本決定は、開示請求に係る公文書の存否を前提とし

  たものではない。