今、憲法の平和主義があぶない!
−同時多発テロと日本政府の対応―
T、今回のテロ事件の背景
1、ハイジャックおよびテロは犯罪であり、国内法、国際法によって裁かれる。
1971年 モントリオール条約(民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約)
1997年 爆弾テロ防止国際条約
2、なぜ、この時期にアメリカがテロの対象になったのか?
1980年 アフガン内戦(アメリカは、反ソ連の闘士としてオサマ・ビンラディンを支援)
1990年 湾岸戦争(イラクを攻撃)
2000年 イスラエルとパレスチナの和平合意がくずれる。
アラブ諸国の人々に根強くアメリカ不信がはびこる。そのなかで、イスラム
過激派が勢力をのばす(エジプト、インドネシア、パキスタンなどでもテロ活
動を行なっている)。おそらく、そのような過激派の「ネットワーク」のしわ
ざと考えられる。
3、報復によって、テロ活動はなくなるか?
したがって、ビンラディンを捕獲しても、テロは根絶されないだろう。アフ
ガンのタリバンを攻撃しても。まったく効果ないどころか、かえって対米不信
を植え付けるだけであろう。報復の悪循環を生む武力攻撃ではなく、テロ勢力
の孤立化を国際的強調の中ではかり、国際法にてらして、犯人を国際裁判にか
けていく必要がある。しかし、オサマ・ビンラディンが首謀者である証拠はい
まのところ明らかではない。
国連決議安保理事会決議1368(9月12日)は、武力による報復をみとめているとは解釈できない。さらに9月 日に、テロ団体の資金の凍結を決議した。
4、テロをなくすためには、どうしたらいいのだろうか
テロをはぐくむ原因を一つひとつ粘り強くなくしていくしかない。
貧困、差別、暴力(武力攻撃)⇒環境問題への対応は関心が高まっているが、果たして、これらの貧困からの自由、暴力からの解放に私たちは十分関心をもってきただろうか、ということを教えられた感じがする。ユニセフの活動、国連難民保護事務所などの活動がかろうじて続けられてきた。
U、ニューヨークでの「同時多発テロ」に対する米国の「報復」の軍事行動に対する日本政府の危険な対応
■ 政府の対応策の問題点
(1) 湾岸戦争の「トラウマ」(too
late too little )から、焦る姿勢
マスコミなどでもあまり考えもしないで「あの時、日本は評価されなかった」という論調がだされるが、はたして、それは本当か? かえって、あのとき日本がもっと徹底して、和平交渉をつなぐ役割をしていたら?
(2) そこから、なんとしても「自衛隊を出したい、出さなくては」という姿勢が露骨
○米空母キティホーク、揚陸強襲艦エセックスの出港を護衛
その後「情報収集」を理由に、インド洋への自衛艦派遣を画策したが、いまのところ挫折。
○避難民救援を理由に自衛隊輸送機をパキスタンに派遣しようとしている。
国連難民 からの依頼があったというが。一番悲惨な状態にあるアフガン国内の難民をどうやって救うかには国際的連携と協力が必要だが、民間機による迅速な援助より、まず自衛隊機派遣が肝心と考えて、支援が遅れている。なおPKO等協力法を根拠にして「難民支援」をしているが国連PKOの活動ではなく独自の判断での「人道的支援」ことにも注目を要する。
○「周辺事態法」の適用を考える動き(防衛庁が主導した模様だが、今では後退)⇒「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」での自衛隊の米軍に対する「後方支援」に適用されるはず。
もし、日本が米軍の「後方支援」をするとしたら、「周辺事態法」の条文に書かれている適用範囲を超えて、違法なものというべき(むろん「周辺事態法」自体の違憲性の問題はある)。
○「米軍武力行使後方支援法案」(自民党国防部会などが提唱し、小泉首相、外務省が主導しているらしい)⇒「周辺事態法」の制約を一気にとりのぞこうとするもの。
(3) 米軍の武力攻撃にあわせて、内容が変わる。
時限立法かどうか⇒アメリカは長期的たたかいになると宣言
国連決議が必要かどうか⇒アメリカはもはや国連決議を必要としない様子
(4) これまで憲法を配慮して、課してきた制約を一気にとりのぞく内容になっている。
▼ 憲法違反ではないかとされた「自衛隊」は「自衛のための必要最小限の実力」と称して、正当化してきた。安保条約も「自衛のために」と正当化。これまで、日本の自衛隊・安保は「自衛」を理由に正当化してきた。集団的自衛権も否定せざるをえなかった=憲法9条の存在。
▼「米軍武力行使支援法案」⇒
@もはや自衛権では説明できない。集団的「自衛」権の具体化といわざるをえない⇒日本が集団的自衛権を義務付けられる「軍事同盟」をむすぶことは、憲法が許容していない(政府の考え方は、自衛のためにあるから安保条約は日本国憲法に違反しないと正当化している。)はず。
A地域的にも、まったく限定がない。
B「『後方支援』だから武力の行使にあたらない」と説明するが、その一線ははっきりしない。武器・弾薬の輸送を行なうらしいが、攻撃に向かうアメリカ軍にわたすのだからあきらかに軍事的兵站行動と考えられる。
(5)「このさい」と改訂しようと計画にあがっている法律
自衛隊法(米軍基地を自衛隊が警護する)改正案=当初は、皇居・首相官邸・原発・ダムなども自衛隊が警護する対象施設にあがっていたが、自民党内・警察が反対した模様。
PKO等協力法(紛争当事者の合意がなくても、自衛隊を派遣)改正
周辺事態法(場合によると、この「周辺」の解釈に手をくわえる可能性もある)
(6)日本国内からの米軍の出撃⇒これまで政府が約束してきた日米安保条約の枠をも踏み出す内容になっている
=安保条約6条の実施に伴う交換公文(日本国内から行われる戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする)
V 憲法9条の意味をかぎりなく無意味にしてしまう、今回の政府の対応
■ 集団的自衛権をめぐってのこれまでの政府の解釈がきっと変えられることになるだろう
「集団的自衛権と申しますのは、自分の国と密接な関係にある外国、これに対する武力攻撃がございました場合に、自分の国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する、そういうことが正当化される地位」である。
「我が国は、国際法上主権国でありますので、いわゆる国際法上集団的自衛権をもっている、こういうふうに従来からいわれている所でございます。」
「憲法9条におきましては、・・自衛権の行使は我が国の防衛のために必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。その範囲において許されている。したがいまして、集団自衛権を行使するのは、今許されていると申し上げた範囲を超えるものなんだ、こういうことで憲法上許されない」(1990年10月24日・工藤法制局長官の答弁
■ 各種憲法改正案でも9条改正にからめて出されてきた構想
読売憲法改正試案「第4章 国際協力(国際活動への参加)」(1994年)
小沢一郎・日本国憲法改正試案「第10条 国際平和 日本国民は、平和に対する脅威、破壊及び侵略行為から、国際の平和と安全の維持、回復のため国際社会の平和活動に率先して参加し、兵力の提供をふくむあらゆる手段を通じ、世界平和のため積極的に貢献しなければならない。」(1999年)
○ おそらく、いま、どれだけ強く、どれだけ辛抱強く「報復攻撃反対」「外国への自衛隊の派遣反対」を声をあげることができるかどうかで、今後の憲法9条の行方が決まってくるだろう。戦後の憲法の歴史の中での大きな転換点を迎えている。
海外(中国・韓国ほか)ではすでに懸念の声がでているし、世論調査でもなお反対・賛成がきっこうしている。