学生の憲法意識
以下の憲法関連アンケートは、小栗(鹿児島大学)が2000年10月中旬に、自分の担当する授業時間内に、南日本新聞の前田記者と協力して実施したものです。学生は、「自由記入欄」にはいろいろと考え方を述べていますが、ここでは省略して、アンケート結果のみを示しておきます。450人の学生が回答してくれました。
このアンケートのあとに、この憲法意識を検討した南日本新聞の連載記事を転載しておきました。そこに学生の意見の一部が紹介されています。
憲法関連アンケート
今年1月、国会の衆参両院に初めて憲法調査会が設置され、2月から論戦が進められています。日本国憲法は公布・施行から現在まで、改憲や護憲などさまざまな論争が続いてきました。国会での調査会設置は、この議論が初めて表舞台に登場したとも言えそうです。そこで大学で学ぶ皆さんが、日ごろ憲法をどう思っているか、憲法調査会などの論戦をどう考えているかなど、その意識を問うアンケートを実施します。回答は匿名です。自由意見も積極的に書いてください。丸数字に印をつけてください。
問1 あなたは憲法を学校のどの段階で学んできましたか?
(1)高校まで 51.1%
(2)中学まで 35.8%
(3)小学だけ 1.1%
(4)覚えていない 11.3%
(授業の感想があったら書いてください)
問2 あなたは憲法や国会の憲法調査会の論議に関心がありますか?
(1)とてもある 8.4%
(2)少しある 32.9%
(3)あまりない 31.1%
(4)調査会のことは知らない 27.1%
(その理由を簡単に書いてください)
問3 現憲法はGHQ(連合国総司令部)を中心にしたアメリカの押し付け憲法だという、主に改憲派の主張があります。逆に言えば、押し付けだから日本らしい憲法に改正すべきだという主張です。しかし、これと反対にたとえ押し付けでも、施行から半世紀以上経過し国民に定着しているから改正すべきでないという護憲論があります。あなたは押し付け論などを理由にした改憲論を支持しますか?
(1)支持する 11.6%
(2)支持しない 53.6%
(3)分からない 17.8%
(4)どちらでもない 16.7%
(それぞれその答えを選択した理由を簡単に教えてください)
問4 現憲法は国民主権や基本的人権の尊重、平和主義などその内容から積極的に擁護し、現実をこの理念に近づけるべきだという考え方があります。その一方で、公布以後の社会状況の変化で9条(戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否定)を中心に現実とのズレが大きくなってきたから、見直すべきだという主張があります。あなたはどちらの考えを支持しますか?
(1)9条を改正すべきでない 48.0%
(2)9条を改正すべき 29.3%
(3)分からない 13.6%
(4)どちらでもない 8.4%
(それぞれその答えを選択した理由を教えてください)
問5 もし憲法を改正するなら、具体的にどういう風に改めるべきだと思いますか、次の中から3つまで選んでください。
(1)自衛隊の位置付けを明確にする 60.9%
(2)国民投票や住民投票の意義や理念を盛り込む 37.8%
(3)首相を国民の直接投票で選出する 50.4%
(4)地方分権の趣旨をもっとはっきり明示する 21.3%
(5)環境権を明示する 24.4%
(6)国民の知る権利を明示する 38.7%
(7)国際貢献を明示する 10.7%
(8)どこも改正する必要はない 3.8%
問6 あなたは憲法が規定する象徴天皇制を支持しますか?
(1)支持する 34.4%
(2)支持しない 22.9%
(3)分からない 16.2%
(4)どちらでもない 25.8%
(それぞれその答えを選択した理由を教えてください)
問7 昨年八月、国旗国歌法が国会で成立し、日の丸と君が代が正式に国旗と国歌になりました。あなたは日の丸や君が代にどんな思いをもっていますか?
(1)親しみを感じる 27.8%
(2)感じない 42.2%
(3)どちらも嫌いだ 7.8%
(4)分からない 21.8%
(それぞれその答えを選択した理由を教えてください)
問8 現憲法は国民の基本的人権の尊重を強く打ち出しています。しかし、現実社会には部落差別や在日韓国・朝鮮人、元ハンセン病患者らへの根強い差別が残っています。あなたは、これまで部落差別解消を目指す同和教育を小・中・高校などで受けたことがありますか?
(1)定期的に学んできた 33.6%
(2)時々 37.6%
(3)学んでいない 13.6%
(4)覚えていない 14.4%
((1)、(2)を回答した人は小中高校のどの段階で、どの時間に学んできたか答えてください)
問9 主に在日韓国・朝鮮人を念頭に、永住外国人へ地方選挙権を与える法案が論議を呼んでいます。あなたは永住外国人への地方選挙権付与をどう考えますか?
(1)与えるべき 67.6%
(2)与えるべきではない 6.0%
(3)分からない 25.1%
((1)と(2)の人はそれぞれその理由を書いてください)
参考 あなたは鹿児島県出身ですか。
(1)はい 60.9%
(2)いいえ 39.1%
性別
(1)男 52.4%
(2)女 47.6%
あなたはどの大学の何年生ですか 大学 年生
ありがとうごさいました。
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鹿大・鹿国大生450人の「憲法」観(2000年11月3日 南日本新聞)
改憲支持せず53% 「無関心」も3割超す
押し付け論などを理由にした憲法改正を支持する11.6%、支持しない53.6%。現実とのズレが大きいとみられる憲法九条を改正すべき29.3%、改正すべきでない48.0%。三日の日本国憲法公布54周年を前に、鹿児島大学の小栗実教授(憲法学)が行った大学生の憲法関連アンケートで、回答者の半数前後が護憲や九条を支持する結果が出た。
国会に今年一月、憲法調査会が初めて設置され、環境権や知る権利など新たな権利も論議中だ。アンケートはこうした動きを踏まえ、同教授が教える鹿大と鹿児島国際大の学生計450人を対象に実施した。九条改正派の理由には、一般的な軍隊を想定した従来の九条改正論と、あいまいな解釈論に歯止めをかけ、専守防衛の自衛隊にとどめるため改正してはっきりさせるべきという両論があった。このため従来の九条改正論は集計の数字を少し下回る。
憲法改正を支持するかの問いには、分からない17.8%、どちらでもない16.7%と無関心にみえる学生が三割を超えた。これは憲法や同調査会論議への関心を尋ねた問いに、関心があまりない、調査会を知らないが合わせて六割近いことと関係ありそうだ。
改正するなら何かを三つ選択する答えは、自衛隊の位置付けの明確化60.9%、首相公選制50.4%、知る権利の明示38.7%の順。象徴天皇制を支持するは34.4%、支持しない22.9%。昨年、国旗・国歌法で法制化された君が代や日の丸への心情は、親しみを感じる27.8%、、感じない42.2%。
憲法の国民要件と関連する永住外国人に地方選挙権を与えることの是非は、与えるべきが67.6%と圧倒的に多く、与えるべきでない6.0%、分からない25.1%だった。
小栗教授は「九条改正を支持しない学生が思った以上に多いのが印象に残った。『自衛隊の位置付けを明確に』という声も強いが、その方向があいまいな解釈論に歯止めを求める『護憲的改憲論』になっているのも興味深い」と話した。
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鹿児島大学生の憲法アンケートから(上)
自衛隊歯止めへ改憲論 「人権教育」深まりに課題(11月7日 南日本新聞)
鹿児島大学と鹿児島国際大の学生計450人(県内出身274人・県外出身176人、男226・女214人)に、鹿大の小栗実教授(憲法学)が行った憲法関連アンケートで、九条は改正すべき29.3%、改正すべきでない48.0%だった。改正派の理由には政府のあいまいな解釈論に歯止めをかけ、国を守るだけの自衛隊にとどめるため改正が必要という意見があった。
「改正はするが自衛隊の存在を認めるだけ。あくまで戦争は放棄」(鹿大文系一年男)。「戦争放棄を定義していることはよいが、あまり明確でなく抜け道や穴が多い気がする」(同理系一年女)。「(自衛隊など)あいまいにせず、はっきりしたものにすべき。今のままでは都合のよいように使われるから」(鹿国大女)
こうした意見は憲法改正の具体的項目を選ぶ回答にも反映。自衛隊の位置付けの明確化が60.9%でトップになる要因になった。回答者の51.1%が憲法を高校まで学んできたこととも関係しそうだ。
九条改正派に政府の解釈論に歯止めをかける意見がみられたことに、小栗教授は「九条の解釈をくるくると変えてきた政府に対する不信と、平和主義への支持が複雑に入り交じった憲法認識になっているのではないか」と説明する。
憲法は基本的人権の尊重を二回(二条、九七条)規定するなど、人権に最大限配慮する。アンケートでは部落差別解消を目指す高校までの同和教育の有無も聞いた。定期的に学んできた33.8%、時々37.3%と計七割を超えた。定期的のうち県内出身者は三分の一、時々のうち県内は七割強。県内組は高校までの同和教育を時々学んだ者が多数。残りは学んでいないか覚えていないが、県外よりかなり多かった。
県内出身は「小学校は道徳などで、中・高は社会系の授業で定期的に学んできた」(鹿国大三年女)学生もいるが、「小・中学校の道徳や社会の時間に時々」(鹿大文系一年男)が一般的。県外出身は、「高校のロングホームルームで定期的に学んできた」(同理系一年男)などが多数。県外組に「教員が同和教育をタブー視していた気がする」(同二年男)という意見もあった。県内では七六年、小中高や教育委員会、幼稚園などの教職員が同和教育研究協議会を結成。会員は一万三千人を超え、毎年二千人規模の研究大会も開く。だが、教員の間にも人権教育の重要性は浸透していない。
県教委同和教育課は「同和教育は小中高の全校で行い、少しずつ(意識面の)広がりがあると考えている。しかし、アンケートにあるように(覚えていないなど)深まりの点では課題が残っている」と話した。
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鹿児島大学生の憲法アンケートから(中)
危機的な社会の無関心 研究者ら議論盛り上げ(11月8日 南日本新聞)
憲法公布の日の三日、鹿児島市で憲法と人権問題を考える公開シンポジウムが開かれた。市民約50人が参加。大学の研究者や弁護士、NGO(非政府組織)代表らが憲法を生かす方向で活発な論議を重ねた。
シンポを主催したのは、十月に発足したばかりの「二十一世紀に平和憲法を活かす市民ネットワーク・かこしま」(略称21活憲ネット・かごしま)。会員は約30人。今なぜ憲法問題で市民ネットワークなのか。共同代表の一人、鹿児島市の医師青山浩一さん(39)は次のように話す、「憲法への国民の関心が危機的なぐらい低い。受験戦争世代の自分も数年前までそうだった。国会で憲法論議が始まったのに、これではいけない。改憲であれ、護憲であれ、草の根の市民の間で憲法をもっと語り合えたらと考えて、憲法ネットワークに賛同した」
憲法問題への関心の低さは、小栗実鹿児島大学教授(憲法学)が同大と鹿児島国際大の学生450人に行ったアンケートでも、同じ傾向がみられた。憲法や国会の憲法調査会の論議に関心があるかの問いに、とてもある8.4%、少しある32.9%に対して、あまりない31.1%、調査会を知らない27.1%。学生の声を聞こう。
「憲法は国の基本法であり、憲法を変えることは国の根本を変えることだから、関心がとてもある」(鹿大文系三年男)。「自衛隊が違憲かどうか興味があるから、関心が少しある」(同一年男)。「(調査会が)どんなことをしているのかよく分からないので、関心があまりない」(同大理系一年女)。「興味がないから、調査会を知らない」(同一年男)
憲法や調査会の論議郁学生や国民に浸透しているとはいえない。6月の総選挙でも争点にならなかった。こうした状況に危機感を抱いた小栗教授ら大学の憲法研究者約50人が三日、憲法問題を広く論議するホームページ(HP)を立ち上げた。最近の憲法問題や国会の調査会論議の分析、論壇動向の紹介、HP参加者との交流、Q&A、討論などを計画している。
HPの狙いについて、代表の三輪隆埼玉大学教授(憲法史)は,「リストラや性差別など社会の種々の問題は憲法とかかわっているが、当事者らがあまりそれに気付いていない。これらを市民共通の憲法の問題としてとらえ直すためにHPをつくった」と語る。
社会の無関心をよそに、国会の憲法論議はどんどん進む。自民党内などには五年以内に新憲法案をまとめる意見もある。国の基本法を論議するのに国民が無関心であってよいはずはない。学生のアンケートの中に次のような意見があった。
「憲法は自分の生活に深く関係するので、(調査会の論議に)とても関心がある」(鹿国大二年女)
憲法問題のHPアドレスは
http://www13.u-page.so-net.ne.jp/sa2/ntsukada/*************************************************************
鹿児島大学生の憲法アンケートから(下)
地方選挙権は賛成多数 永住外国人への理解進む(11月9日 南日本新聞)
主に在日韓国・朝鮮人ら永住外国人(対象約50万人)に地方選挙権を与えるべき67.6%、与えるべきでない6.0%、分からない25.1%。
鹿児島大と鹿児島国際大の学生450人を対象にした憲法関連アンケートで、永住外国人への地方選挙権付与は賛成が圧倒的多数を占めた。その理由は「永住外国人は税金を払っており、国籍の違いだけで、自分たちの生活している地域社会に意見を表す権利がないのはおかしい」(鹿国大二年女)という声に代表される。
与えるべきでないと答えた中には「国政と地方政治は深く関連している。(地方選挙権は)国政に大きく影響するので、帰化して日本国籍をとった人に与えるべきだ」(鹿大理系四年男)が目立った。分からないとした学生で理由を書いた人は少なく、わずかに「他国にそのような例があれば考えてもよいのでは」(同理系一年女)があった。
永住外国人への地方選挙権付与法案は98年の国会から随時議員提案されたが、継続審議などになった。今国会でも自民党内に学生アンケートと同様の理由の反対論が根強く、成立見送りの公算が大きいとされる。
憲法は15条1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは国民固有の権利である」と規定。93条2項は地方選挙を「その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と述べ、国民と住民の言葉を使い分ける。国民は国籍法に基づいて日本国籍を持つ人、住民は国籍に関係なく、地域に住んでいる人という説が学界で有力だ。
最高裁は95年2月、「(永住外国人への)地方選挙権を法律で付与することは、憲法上禁止されていない」という踏み込んだ憲法判断を示した。議員提案はこうした流れへを受けたものでもある。
だが、在日民族団体の考え人は複雑だ。最高裁判断などを受け、地方選挙権獲得の全国的な運動を展開する在日本大韓民国民団は「在日同胞は半世紀以上、納税の義務を果し地域にも貢献している。地方選挙権は住民としての発言権を認めてほしいということだ」(同国際局)と訴える。
朝鮮民主主義人民共和国系の在日本朝鮮人総連合会は「地方選挙権であっても政治参加の道は内政干渉にあたり、同化にもつながる。強制運行など過去の清算や国交樹立がない限り、在日同胞の法的地位は不十分」(同国際局)と反対の立場だ。地方選挙権付与法案では選挙人名簿への登録を申請するのが原則、反対なら「選挙櫓は不要」と申請しない選択もできる。朝鮮総連はそれでも「地方選挙権自体に反対」という。
在日二世で朝鮮籍の尹志煌・鹿国大助教授(国際会計諭)は「アンケート結果は日本の若い世代が先進的で、(在日など外国人へ)好意的なことを示している。地方選挙権付与は基本的人権として当然にもかかわらず、同化政策だから反対、という意見には残念な思いがする」と話した。