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〜旧「音楽雑感」のページ、音楽の話題その他を日記風に綴る〜
2005年





2005年10月28日(金) このページは終了

 このホームページ上での日記はここで終了させていただくことにしました。今後、日記形式としてはブログの方に引き続き書いていこうと思いますので、皆さんよろしくお願いいたします。http://www.masahiro-kawakami.com/blog/



2005年10月23日(日) 充実した1ヶ月でした

 ワルシャワではほとんど毎日のように日記を更新していてもゆったり時間が流れているような感じがしていましたが、日本では時間の経つのがやっぱり早いですね。さっそく忙しくすごしているうちに、あっという間にショパンコンクール本選の結果も出たようです。あと数日でいよいよショパンコンクールすべて終了ですね。長い1ヶ月間でした。コンクールはネットで見ているほうが絶対に楽しいことは間違いないですが、考えてみればあれだけの時間と体力を使って現地まで行ってきたことは素晴らしい経験だったと思います。

 日本に帰ってくると、やはり体力が戻るというか、フルパワーを使っても疲れない感じがします。不思議です。ワルシャワでは、1ヶ月間本当に精神的にも気を張っていた毎日でしたから、健康には気をつけていましたがなんとなく身体の本当の力が沸いてこないというか、全身にみなぎるパワーというものを結局1日も経験せずに終わりました。いつも目が疲れている顔をしている感じで…、単に時差ボケを引きずっていただけなのかもしれませんが。他のひとつの理由として考えられるのは、毎日の自分の鍛錬としての練習ができなかったということもあるのかもしれません。本気でピアノに向かう毎日があって初めて、自分の場合はパワーが沸いてくるような気がします。レッスンにはフルパワーを使っていたつもりでしたが、それでも自分の持っている本当のエネルギーは出ていなかった感じです。

 とはいえ、時間を見つけて向こうでも練習には通いました。辻井君2次予選本番の日なんて、彼のステージサポートをして演奏も無事に終了したのを見届けて一緒にぐったり疲れた後、ホテルに戻って彼を部屋に休ませて自分は音楽院へ直行。その当日の割り当てであった彼の3時間分(彼は疲れていてさすがに弾けないので)を練習室でさらわせてもらったりもしました。生徒の練習室を先生が借りてさらう例なんてあるのかどうか知りませんが、一列に並んでいるワルシャワ音楽院の練習室の部屋から流れ出るショパンに混じって、なぜかカプースチンが大音響で鳴り響いているのでありました。これも良い経験でした。(完)



2005年10月20日(木) 帰国

 その後、数日間をポーランドで有意義に過ごしてから、これからまだ先がいろいろとあるので、とにかく日本に帰還。(笑) 再び長いフライトでした。ほぼ1ヶ月間となりましたが、いろいろと勉強することの多い充実したポーランド滞在となりました。考えてみれば、これほど充実した経験はそう頻繁にできるものではないような気がします。これは本当に伸行くんに感謝。そして、みんななんとか無事に帰ってきました。(海外旅行に小さなハプニングはいろいろつきものだが、私でもちょっと怖いこともあったりした。)

 2つの予選における演奏者たちの演奏からすでにCD化されて売り始められたものもあり、その中に“Nobuyuki Tsujii”だけで1枚のCDになったものが出ました。1次と2次の予選から合わせて77分余りというほとんどすべての演奏が入っているのですが、これには本人もビックリしたようです。しかし、コンクール主催者も早業で仕事をするものですね。予備予選からの1〜2日間でコンクールのプログラムが出来上がったときもビックリしましたが。CD化された録音はなかなか音も良く、他に選ばれた演奏者のものもやはり聴いてみたい人ばかりです。

 さて、日本へ帰ってきてしまったので、ふたたび新しい(古い?いや新しい)日本での生活が始まります。また真面目な毎日を過ごすことにしましょう。今後はコンクールを少し離れて見させていただこうかと思っています。今回のショパンコンクール、本選が終わったら一体どんな話が飛び出してくるか、それが少し怖くもありますが、多くのピアノ・ファンたちの、また多くの演奏する人たち、専門家たちの意見や感じ方を聞かせてもらえるのが楽しみです。音楽も多くの人に語られる時代になってきましたが、このコンクールを通して、演奏する人、しない人にかかわらず、一人ひとりの感動体験を交換し合うことができればとても嬉しいと思っています。



2005年10月18日(火) ワルシャワ通信《第12号》

 びっくりしたことの一つに、今回のショパンコンクールでは、2次予選からファイナルの進出者を出す審査に対して、すでに世界中から大きな疑問の声が投げかけられているということです。結果発表後のポーランドTVの放送を見た人の話によれば、早くも抗議の電話が世界からあったといいますが、これは、今回のコンクールはインターネットによって世界の視聴者がリアルタイムでコンクールを見る(聴く)ことができたからです。ファイナルに残った参加者も残らなかった人たちも、本当に才能に恵まれ、自分を磨き続けてここまで頑張ってきたのであり、もちろん彼らに何の罪もありません。ショパンにすべてを捧げて努力してきた方たちです。本当の賞賛を送られるべきでしょう。問題は、やはり審査のあり方です。自分の生徒に点を入れない規則になってはいるものの、それがまったく歯止めになっていない。(その理由はご想像ください。) これをどうすれば改善されるのか、その点ばかりがポーランドTVの即日の討論でなされていたようですが、こんなことはちょっと異常な気がします。結局のところ、私の考えでは、単純に「審査員のつけた点数を公開する」ことを実施すれば良いと思うのです。これをどうしていまだにやらないのか。それも、一般の人が誰でも見れるようにすれば良いのです。たったそれだけのことで多くのことが改善されると思うのですが。

 放送では、かなり具体的な名前を出して誠実な抗議をされた方も多かったようで、私自身もその内容を聞いて共感するところは大きかったのですが、もちろん一番嬉しかったのは、「辻井」がファイナリストに選ばれないとはおかしい!本当に感動的な素晴らしいショパンであり皆が幸せになったのに、彼を落とすとはどういう審査をしているのだ!という声が多かったことです。このように世界中の聴衆からの声援があったことで、彼も本当に救われました。もちろん、ファイナリストに選ばれた方たちに何か問題があると言っているのではありません。問題の多くは、その審査方法にあるということです。ただ、今回のショパンコンクールは、TV局によるネット中継が大きなマスコミの役割をしたことで、「世界の聴衆」という多くの“証人”を得たことが、今までとは大きく異なった現象を生んだ理由であると思います。今回のコンクールでは、今まで以上にもっといろんなことがあからさまな形で明らかになってくることが想像されます。この点は、審査員の多くの人はまだきちんと認識できていないのではないかと私は感じているところです。

 コンクールには、純粋に自分の腕を磨き、音楽に専心し、日々の努力の結果を披露できる場としての機能もありますが、そうではないさまざまな思惑も、コンクールにあらゆる立場から関係する一人ひとりの心の中で動いているのだということがわかります。あくまでも音楽に対する純粋な気持ちと、物事を正しく見るという姿勢を、特に若者たちには決して失ってほしくないという感を強めるばかりです。



2005年10月17日(月) ワルシャワ通信《第11号》

 2次予選結果発表から一夜明けました。本選へ進まれた12人の皆様には心からおめでとうの言葉を贈りたいと思います。すごい戦いをよく勝ち抜かれたと思います。伸行くんにとっては残念な結果となりましたが、先月まで弱冠16歳だった彼は、今回の2次予選出場者の32人中最年少だったのですから、考えてみればよくここまでやったと思います。2次予選では1次予選のときよりもリラックスして集中して弾けて満足していたので、結果を聞いたときにはさすがにちょっとだけショックを隠せなかったようですが、実力がもう1歩足りなかったのだ、と今は謙虚に受け止めています。とにかくワルシャワでの1ヶ月、本当に貴重な経験をしました。

 私自身も、伸行くんと一緒に貴重な経験をすることができました。また、彼の先生という立場でなく、個人的な視点でショパンコンクールというものを見、こちらでたくさんのコンテスタントの演奏を実際に聴いていろいろ感じましたし、出た結果と合わせてみてもいろいろ思うことは確かにあります。まだコンクールが終わったわけではないのでなんとも言えませんが、遠くからネットその他の限られた情報だけでは分からない現場でのいろんなことがありますし、なんたって演奏を実際に自分の耳で聴いているのですから、その上で審査結果というものを知り驚くべき現実にもたくさん遭遇しました。予備予選の初日からずっと見ているのですから。まあこれについては、コンクールが終わり、その後時間とともに解決していくことでもあるのでしょう。今は多くを語るべきではないと思います。

 まだコンクールは本選が続くわけですが、さあ今日一日どのように過ごそうか、そういえばまだ考えていませんでした。日本に帰国してしまうという手もありますね。(7:40 a.m.)



2005年10月16日(日) ワルシャワ通信《第10号》

 1次予選から2次予選まではあっという間でした。辻井伸行、いろいろ大変でしたが昨日無事にショパンコンクール2次予選の舞台を弾き終えることができました。支えてくださった皆様、ありがとうございました。私としても、あそこであれだけ弾けたことに対してもう何も言うべき言葉はありません。本人も、あれだけできたのだからもう何もいらない、そうです。そう言われると、何かあげたくなるのですけどね。
 結果発表は、今日の演奏がすべて終了し、その後の審査会議のあとに行われます。予定では16時となっていますが、そんな時間に出るとは到底思えないので、夜まで待つ覚悟でホールに向かうつもりです。

 午前中は、突然コンクールを聴きに行きたい気持ちになって、ブレハッチを含む3人だけ聴いてきました。イム・ドンミンも聴きました。うーん、ブレハッチは2次予選もやはり気を抜いていませんね。当たり前でしょうけれども。マズルカの1、2曲目などはある種の威厳さえ感じました。さすがポーランド魂、マズルカ賞は取られたな、って感じでした。全員の演奏を聴いていないのでなんとも言えませんが。
 これは余談になりますが、私の感想ですが、今回はなんだかんだ言われていたけれども、ポーランド人も含めてナショナルエディションを使用していない人の方が多かったような気がしますがどうなんでしょうか。まあ細かいことはどうでも良いでしょう。
 とにかく、2次予選もあと2人の演奏を残すのみです。(1:30p.m.)



2005年10月14日(金) ワルシャワ通信《第9号》

 実はまだ時差ボケを引きずっていて、毎朝5時起きを続けています。だから一昨日の結果発表日の夜更かしは痛かったです。
 その後、ショパンコンクール二次予選が始まってからは、せわしない日々を送っています。気を抜くこともできず、個人的にはかなり極限状態に近い精神力を使い続けています。詳しくはもう少し時間が経ってからゆっくりお話しできると思うのですが…。
 遠く日本からはいろんな方からさまざまなエールをいただいています。本当にありがとうございます。

 というわけで、ワルシャワにいるにもかかわらず、二次予選が始まってからはホテルの部屋でネット中継でコンクールをチラチラ見たりしていましたが(ここからタクシーで5分のフィルハーモニーホールへ行くのが億劫(笑)、というか、まあそれなりに忙しいわけで…)、とはいえ、今日は気を取り直して空いている時間には会場に少し顔を出してこようと思っています。プログラムを見ると、私が聴きに行ける時間帯に弾く予定の演奏者は…ドンヒョク、ムストネン、根津さん、ぐらいまでか。うーん、なぜか私の空いている時間にドンヒョクが出るなあ、まあもう1回聴いて来いということか。聴いた感想はまたあとで書くことにします。あくまでも心に余裕があればの話ですが…。あー和菓子が食べたい。(7:05a.m.)



2005年10月12日(水) ワルシャワ通信《第8号》

 昨晩は、本当に遅い時間にショパンコンクール一次予選の結果発表がありました。当初は12日に発表予定だったのが、予備予選同様、また前日に繰り上がって「11日の夜11時頃予定」と告知され、その時間にはフィルハーモニーホールのロビーはすでに人で一杯だったのですが、それからが長かったのです。大勢の報道陣と参加者を待たせておいて、なんとまだ実は結果が出ていないらしい。その上、おもむろに「今決定したリストが了承されればあと1,2分で発表できます」というフェイントのアナウンスメントがあって、それから30分以上待たされた挙句、結局「再投票」がなされて第2のリストがやっと出来上がったというのです。もめにもめたということでしょうか。一次予選からこんな調子では先が思いやられます。こんなことは今までにも聞いたことなかったたらしいですが。結局、深夜0時半を過ぎて発表され、ホテルに戻ったのは夜1時過ぎでした(@_@。

 結果は一体どうだったのでしょうか。もう眠くて眠くてまだプログラムをよく見ながら参加者全員について照合して検討していないのでなんとも言えませんが、とにかく辻井伸行くんはお陰さまで通ることができました。ワルシャワ生活すでに3週間。私もまだすぐには帰国できないことが決定しました。私が、「あー日本が恋しい」と言ったら、「ぜんぜん恋しくない!」と伸行くんに言われてしまいました。当たり前ですよね。これからが正念場です。



2005年10月11日(火) ワルシャワ通信《第7号》

 おととい紹介した神山氏のページを私もおそるおそる覗いてみましたが、彼に宛てて書いた私の“私信”がそのまま公開されているのでビックリしました。良いとこだけ抜粋してくれるものと思っていました…。(笑) うーん、何も包み隠さないちょっとオープンすぎるページのようですので、皆さん読み過ぎないように気をつけてください。

 さて、昨日はポーランドのブレハッチだけは聴きました。やはりこの人も前評判の高い参加者でしたし、予備予選の演奏ではあまり良くなかったとか散々いろいろ言われていたので、どんなものか聴いてみたかったのです。しかし、やはり1次予選は力を入れてさらってきている、というか、素晴らしい演奏だったのは間違いないです。基本的に良いピアニスト、バランス感覚の優れたピアニストであることは否定できないなと思いました。エチュード10-8では、速いテンポで弾いているのにホールの後ろの方で聴いても音の粒がちゃんと聞こえました。スケルツォの最後の音がまだ鳴っている間に、「ブラボー」がかかっていましたね。これは1次予選の盛り上がりとはとても言えない熱狂で、おそらく地元の応援団も大勢いるのでしょう。

 1次予選もようやく最終日になりました。本当にここまで長かったです。コンクール自体はこれからもさらに長く続くのですが…。よくみんな時間あるなあ…というか、のんびりやるというか、もうそろそろ私はバテそうです。



2005年10月9日(日) ワルシャワ通信《第6号》

 昨日の日記で、テンポを異常に速く弾く演奏について語りましたが、それを審査員がどう感じているかは興味があります。というのは、“ショパンらしい”ということと、スピードの速い演奏とはあまり関係ないように思うからです。それにしても、本当に速いんです。日本人演奏者やアジア人演奏者にけっこう多いのですが。私は決してステージから近い席に座って聴いているわけではありませんが、響きをどう差し引いて聴いても本当に笑ってしまってついていけないほど速いというのがこれまで何人もありました。私自身、速いテンポに対して決して理解がないわけではないので、本当に不思議に思ってしまったのです。(笑) このフィルハーモニー・ホールがかなりよく響くのは確かです。ホールのせいというのも大きな要因の一つなのかもしれません。

 さて、残すところ1次予選もあと三日となりました。長かったです。辻井伸行君も昨日、無事に45分の大舞台を終えることができました。日本で同時中継をネットで聴いてくださった方も多かったらしく、本当にすごい時代になったものです。まだ知らない方のためにURLを貼っておきます。今後も引き続き見れると思います。
http://www.itvp.pl/chopin/eng/i.tvp/
コンクールの時間割さえきちんと知っていれば、あとは時差(日本とは7時間)を計算して、演奏があるはずの時間にこのページの“LIVE”をクリックすれば、パソコンが最新でさえあれば(笑)かなりクリアに見て聴くことができます。

 ところで、辻井君のこれまでのワルシャワにおけるエピソードもいろいろあるのですが、とても全部は書ききれません。彼に興味を持ってくださっている方は、私も尊敬しているノン・フィクション作家、神山典士(こうやまのりお)さんのブログに詳しいのでこちらをご覧ください。
http://the-bazaar.cocolog-nifty.com/
彼は長年、辻井伸行君を応援してくださっていて、先月末の予備予選の時にはワルシャワまで駆けつけてくれました。だから裏情報を知りすぎています。(笑) また、この日記には私がその後、氏へ直接送ったメールが引用されていたり(これは恥ずかしいので本当は見てほしくないのです)、それからあまりに内輪な情報も多いので、「こんなこと公開していいのかなー」と不安にもなりますが、「音楽は専門ではないのでまったく素人です」とは言いながらもここまで伸行くんのことを正しく理解している方は他にいないので、紹介しておきたいと思います。彼の著作もなかなか素晴らしいですよ。売れているようです。才能あふれるノン・フィクション作家ですから、この日記にもいくばくかの脚色はあるとお考えください。(笑) 豊富な写真入りです。



2005年10月8日(土) ワルシャワ通信第5号《ショパンコンクールのこと(2)》

 第1次予選もすでに後半に入りました。予備予選で通った人の粒が前回よりもレヴェルが下がっているというような声もチラホラ聞きますが、そんなこともないと言えるほど高いレヴェルの人もやはりいます。

 ところで、今回のコンクールではナショナル・エディションが推奨されているということでした。このあたりはどうなのかは少しだけ興味がありました。やはり参加者には忠実にこの版を使っているらしい人もけっこう出てきていますが、従来の版を使っている人ももちろんたくさんいます。なぜわかるかというと、演奏を聴けばある程度わかるのです。一番顕著に多くの作品に出てくるのは、まずタイがなくなっている箇所があることです。そのため、伸びていた音として親しんでいた音をもう一度打ち直すというのがあります。これは多くの審査員にも聞きなれないものであることは事実でしょう。また、リズムや音の扱いもいろいろと違います。このナショナル版では原典に忠実なために、現在になって新たにわかった情報ももちろん多いわけですが、ひょっとしたらショパン自身の間違いではないかと思われる部分も勝手に手を入れることを避けているため、今までよしとしていた部分も元に戻しています。そのため、そのまま演奏するには問題がある部分もあるのです。まあ審査員にもそこはよく分かっていると思います。

 さて、これまでに多くの日本人の参加者の演奏を聴きましたが、皆さん優秀なピアニストであることに誇りを持ちました。彼ら一人ひとりの演奏に対して、外国人の人たちには私たちとはやはり違うふうに聞こえているのだなということは、数人と意見を交換したことでもすぐに感じましたが、日本人の音楽家全体のレヴェルは世界的に見てもかなり高いことはもう誰にもはっきり分かると思います。

 昨日楽しみにしていた一人は、辻井伸行くんもかなり以前にある演奏会で一緒に出たことのある中国のシェン・ウェンユーでした。小さいときからすごい才能だったというので、真剣に聴かせていただきました。最初ノクターンを弾き始めた時、特に才能が特別に光っている印象はなかったのですが、その後じわじわと上手さが伝わってくる演奏でした。テクニックがとても安定していました。こういう人が本当の実力派なのかもしれません。まだ若いのにすごいと思います。

 今回のコンクールを聴いていて思うのですが、まあ皆さん若手が多いということもあるのでしょうが、テンポを異常に速く扱うケースが多くあります。これは時代の風潮なのでしょうか。コンピューターの情報処理能力ではないですが、人間の方も速いスピードに慣れてしまってきたというか…。例えば昨日のシェンくんの終曲スケルツォ2番の最後のアッチェレランドもそうですが、破綻寸前の速さでしたし、彼以外にも超スピードで弾いてしまう人は他にもたくさんいました。それも実力を持った上手い人にけっこう多いのです。ホールの響きとかをよく勉強して経験を積んでいけば解決する問題でもあるのでしょうが、現代の傾向のようなものにも思えます。

 モーツァルトやハイドンの時代には、現代と同じほどかなり速いテンポが好まれていた可能性はあります。ソナタに出てくるプレストなどはそうですよね。現代ピアノは重たいので、あれを軽く速く弾くのは難しいのですが…。大きなホールでリサイタルをやるような時代になって、ロマン派というように音楽の傾向も変わっていったわけですが、テンポの感覚もそれにともなって変わっていったことでしょう。ゆったりと弾くようなスタイル、時間をたっぷり使って弾くスタイルが隆盛をきわめるようになります。その頃はまだ録音技術がなかったという事実もあります。そして、20世紀に入って演奏を録音できるようになり、性能の良いマイクで撮ることができれば、テンポはことさらゆっくりする必要はなくなるわけです。また、CDなどで何度でも演奏を聴けるということは、難解な作品でも大ホールで弾くときのようにテンポをわかりやすく全体に緩める必要もなくなります。その演奏者が心地よいと感じるテンポ、それは自分の生活している環境、時代や場所によって変わるものなのだと思います。これについては、またゆっくり考えてみることにしましょう。



2005年10月7日(金) ワルシャワ通信(《通算第4号》)

 ワルシャワにいながらにして、実は数日前からショパンとカプースチンの二重生活を送り始めています(やや謎)。折もよく、モスクワのカプースチンからメールを久しぶりに受け取り、返事が遅れた理由は、この数週間というもの新作に没頭していたからとのこと。なんとその作品も仕上がったという朗報を頂いて、昨日は朝から気分は上々でした。しかし今さらですが、メールって本当に便利ですよね。地球のどこにいてもリアルタイムで新しい情報とともに行動できるのですから。

 それはともかく、日課となっている気の抜けない毎日の午後のセッション(まだ謎:※注1)を控えながらも、早朝にはコンクール会場とは反対方向へタクシーでひた走る自分の姿あり。偉いというか、まあ当たり前の生活なんですが、何をしているかはとりたてて人に語るほどでもないでしょう。
 ところで、ポーランドのタクシー事情はロシアよりはかなり良いです。少なくとも白タクと交渉する必要はないのは確か。ちゃんとタクシーがある。ただ、ホテルから乗ると料金が高いので、昨日はワルシャワ中央駅から乗ってみることにしました。1台めにあたったタクシーの運転手は、私の行き先を聞いて35ズウォティ(ポーランドの通貨)で行ってやると言う。あのね、そこは昨日も行ったんだけど、どんなに高くても30ちょっと。道が混んでなければ14くらいで行くってこと知ってるんですけど…と思ったのですが、こちらもとぼけて、「ダメ、20ならいい」と言ってみるが、どうしても30以下に下げる気がないようなので、いったんは座った腰を上げてすぐに降りました。バイバイ。次のタクシーの運転手は人の良い感じで、大当たり。人を騙すタイプではない。普通にメーターを回してくれました。ロシア語も通じる通じる。(だからなぜロシア語で話しかけるの?) 次に行くときはトラムに乗って歩いた方が早いよ、とかいろいろ親切に教えてくれました。結局、渋滞していて30近く払ったので払う方としては同じでしたが、人を騙そうとした運転手は1円ももらえなかったわけで、ホント人生勉強にもなりますよね。

 つとめて他の話題を書こうとしたりしてみましたが、やはり気になるコンクールにもちゃんと足を運び、何かためになることを学んでこなくてはいけませんよね。当たり前の話です。今日から再びさっそく実行しています。

※注1:コンクールが終わったらすべて公開したいと思っています。



2005年10月5日(水) ショパンコンクールのこと(1)

 この時期ワルシャワに居ると、たくさんの知り合いに会えるものです。嬉しい再開ももういろいろとありました。さて私はといえば、ここへ来ているにもかかわらず、まあ審査員でもないのだからコンクールを聴こうなどとはあまり思っていなかったのですが、でもまあせっかくいるのだからと昨日は午前も午後も会場に顔を出してみました。しかしやはり聴かない方が良かったのかな…、とも思っています。

 例えば、イム・ドンヒョク。名前はもちろん知っていたので、少しは期待していたことは事実です。昨日は他の参加者同様、彼の演奏にも真剣に耳を傾けました。音色が冷たいと言ったら失礼ですが、音楽的には心に届いて来ない感じが強いのです。演奏が終わって会場の拍手が大きかったのは意外でした。明らかに、彼の次に演奏したリン・ウェイチーの方が優れた音楽家です。1人45分というプログラムの細部にわたって聴き比べて明らかにそう言えると思いました。もし1回きりの演奏で判断されるならば、例えばこのドンヒョクは今回あまり良い演奏をしたとは言えないでしょう。いかにもうまく弾いているように振舞っていましたから、あまり明確に弾けていないパッセージ(弾き慣れすぎてテンポが速く、音の粒が聞こえない)があれだけ多かったにもかかわらず、全体ではけっこう安定して聞こえたはずです。ただ、たとえ聴衆には分からなくとも、おそらく審査員の耳を誤魔化すことはできないでしょう。おそらく彼は1次予選で落とされる可能性が十分考えられますが、ひょっとしたら通ってしまうのかもしれません。そればかりはわかりません。コンクールでは、やはりそれまでに他の国際コンクールなどで名前が出ていることは大いに審査に左右することがあります。1次予選から審査員はみな、審査中に手元にプログラムを置いて参加者のプロフィールを始終覗き込んでいるのですから。しかし、1次予選の出場者は本当にみなレヴェルが高く、他にも通るべき人はたくさんいますから、“安定性”とか“余裕”いうことで見た場合、ひょっとしたら彼などは選ばれる可能性が高いのでしょうが、そうであるならば一番安定している人を選べばいいのであって、そんなに簡単なものではないでしょう。このような国際コンクールでは、やはり技術以外にその人の持っている音色だとか表現力、良い音楽家かどうか、ショパン弾きとして人を惹きつける力があるかどうか、などさまざまな要素が大切にされると思います。

 しゃべりすぎてはいけない、と思いながら書いてしまいました。「コンクールは嫌だな」、といつものようにまた思う時がくるのかもしれません。純粋な気持ちがなくなってしまい、気を失いそうになるあの瞬間です。その時にあまりのショックで黙ってしまわないように、今のうちに感じたことを書きとめておこうと思いました。



2005年10月1日(土) ワルシャワの人となっております

 今回、長旅を覚悟で遠くまで出かけてきたわけは、実は第15回ショパン国際ピアノコンクールの関係で来ているからです。もちろん、ただこのコンクールを聴きに来たというわけではなく、もう少し緊張を強いられる理由で来ているのではありますが。考えてみれば、自分自身が受けられると思っていた時代から、すでに15年(3回分)も経っているのでありました。ステージで演奏するまだ無名(しかし将来のヒーロー?)の若者たちを前にして、久しぶりに自分の年齢をショックとともに受け止める機会となりました。

 さてご存知のように、正式の第1次予選は10月3日から始まりますが、ショパンコンクール今回初の試みである「予備予選」というのが7日間に渡って行われたわけです。審査に関して、審査委員長のヤシンスキ氏は9/30の記者会見で「ショパンコンクールというのは他のコンクールとは違って、(…技術ももちろん大事であるが)ショパンを本当に理解しているかどうか」という点が重要視される、というようなことをおっしゃったらしいが、結果的に予備予選を勝ち残った80人のうちポーランド人が20人もいたこととこの発言は関連しているのかもしれません。国際コンクールではあるけれども、やはりポーランドのコンクールなのだな、という気持ちを強く感じずにはいられません。日本人参加者たちの演奏のクオリティーを考えると、21人通過という数字は確かに少し日本人にとっては厳しかったのではないかと思います。
 また、審査は技術だけを重視しているのでないことが確かに分かる出来事もありました。私が予備予選初日に聴いた参加者の中で、ソナタの第1楽章をとても音楽的に弾いたのに、エチュードOp.10-2がほとんど指が回らずに、一般的には「弾けていない」、又は、「表面的になぞっているだけ」のようなとても下手っぽい演奏だったのですが、その彼は通ったのです。日本人の耳で聴くと、おそらく音大の試験などだったら絶対落とされてしまうだろうな、という演奏でした。でも音楽的には確かに暖かい演奏をしていて私は好きだったし、それ以外の曲は決して技術的に問題あるわけではなかったので、そのエチュードと他の曲とのギャップは笑ってしまうほどだったのですが、でもけっこうこういうパターンって外国人には多いのです。(日本人にはあまりいないでしょう)

 さて、明日あたりからこのコンクールも本格的に注目され始めるでしょうし、実況中継などいろいろあるようですが、いくつか関連リンクだけを残してこの辺で終わっておきましょう。立場上、私があまりしゃべりすぎてもいけませんので…。

http://www.konkurs.chopin.pl/ ショパンコンクールのサイト
http://www.maxell.co.jp/chopin/special/index.html マクセルの公式HP
(随時コンクールレポート更新)

 ピティナ特設ページ
(評論家諌山氏によるショパンコンクール即日レビュー)




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