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〜旧「音楽雑感」のページ、音楽の話題その他を日記風に綴る〜
2005年



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2005年2月15日(火) 辻井伸行君の驚くべき日常

 ちょうど3日前のことでした。伸行君のお母さんから突然電話があり何かと思ったら、「明日、地方のあるコンサートでショパンのコンチェルトの2番を弾くピアニストのY氏が急病のため、代わりに伸行に出てもらえないか、と言われたのだけどどうしましょう?!」というものだった。そんな大ピアニストの代役ということだけでも普通は遠慮してしまうし、なによりもショパンの2番は去年の8月に弾いて以来、半年間はまったく弾いていないはずだから明日本番なんていくらなんでも…と思いました。「本人は弾けると言っているんです。」 このお母さんの言葉に一瞬耳を疑ったが、彼を長く見てきた私は、うんそれはあり得るかもしれない、とも思い、「明日なんて私は一緒についていけませんし、よく考えて決めてください。断っても良いと思うし、でも弾けるというなら弾いてくるのも良いかもしれない」と言いました。

 その後、2時間たって伸行君のお母さんからの電話は、「行って来ることにしました。今練習していますが、本人はやる気で…。もう空港へ向う時間です」というもので、それから数時間後には彼は飛行機に乗って彼の地に着き、すぐにリハーサル、そして翌日もう一度リハーサルがあって午後に本番だったようだ。

 そして演奏終了後の電話で、演奏会は成功したとのこと。ということは、もちろんある程度きちんとした演奏ができたのだろうし、関係者に聞くところによると「本当に素晴らしかった」ということだから、代役としてはまあ申し分のない演奏ができたのでしょう。それにしても、ショパンの2番は半年以上もレッスンで一度もやらなかったことは事実だし(私が保証してもどうにもなりませんが)、他に勉強しなければならない曲が次から次へとあったので、おそらくあれから一度も弾いていないと思うのです。時々家で遊び弾きをしていたとしてもせいぜい数回程度のことでしょう。それにしても全楽章を完璧に覚えていた伸行君の記憶力と、数時間の練習で本番までもっていけるという彼の自信にはあらためてびっくりもしました。

 とんぼ帰りで東京へ帰ってきて、翌日はなんと学校の期末試験が待っていたことに気がついた伸行氏。試験勉強のためにとっていた時間はすでになくなっていました。こんなハードスケジュールで大役をこなして帰ってきたわけだけど、だからといって高校は試験を免除してくれるわけではないし、すぐに勉強モードに気持ちを切り替えなければならない伸行君。かなり異常な日常生活を送っている人がここにもいました。



2005年2月12日(土) 心の余裕

 もう2月になっていたことをすっかり忘れていました。前回の日記でも忙しいと書いていたような気がしますが、その時からそんなに状況は変わっていないということでしょうか。メインの重荷としては、まずレコーディングの準備というものがあります。マルク=アンドレ・アムランの《オール・カプースチンで78分》という前例はありますが、それを事実上越えているように見える場合はこれは大変ではないと言ったら嘘になります。またこの時期は、大学の入試やら定期実技試験やらで気持ちが抜けないことも重なっています。花粉症がまだ重なっていないことだけは幸いです。

 ピアノの練習なんて、その気になれば時間は超越できるというようなことをどこかに書いたような気もしますが、一方ではやはり大きな曲を仕上げるためには一定の時間はどうしても必要だということを痛感したりもします。時間を「短縮」はできても、やはり「超越」はできないということです。例えばまったくの新曲60分のプログラムを人前で安心して弾けるようになるために、3ヶ月なら3ヶ月かかる。本番を次から次へとこなす場合は、自分のペースだとどのくらいの曲の量で何ヶ月というのを決めておくべきで、この時間枠を大きく短縮することは望めないと思った方が良いでしょう。ゆったりとした時間の流れのなかで曲を自分のものにしていく必要があるからです。この時間を縮めることができないなら、平行して多くのことをやっていくしか時間を超越することはできないわけです。「ゆっくりじっくりやりなさい」と言う人がいるかもしれませんが、世の中そう甘くもないので頑張らなくてはいけないのです。
 例えば入試などのために練習する場合は、時間はたっぷりあるように思いますが、練習時間の範囲が「3ヶ月」が「6ヶ月」になったところで、二倍上手くなったような気がしないところがピアノの難しいところです。かと言って、制限時間があったらあったでそれも苦しいわけで、どちらにしても間に合わないような気がするのです。その理由は、曲に対する要求や完成度(自他両方から)がだんだん高くなってくるし、時間とともに自分自身が成長しているから終わりがないということなのです。どこまでで良しとするか、の判断がすべてなわけなのです。例えば、自分が弾く演奏会本番直前に、「ステージのピアノが4時間空いていますから自由に使ってください」と言われたらどうするか。ここぞと思ってみっちり時間ギリギリまでさらうか、それとも1時間くらいで切り上げてあとの時間はくつろぐか。または、外国のコンクールへ行って、練習場所の確保も難しい数日を過ごして、本番直前に「この練習室のピアノが4時間空いていますからご自由にどうぞ」と言われて、集中して2時間だけ良い練習をして、あとはカフェにでもお茶を飲みに出る余裕があるかどうか…。できることなら、そういう余裕を持てるように普段から準備しておきたいものです。もし、くつろいでいてすごい成果が出せるならそんなに素晴らしいことはありませんが、実際にはかなり頑張らなくては高い成果は出ないように現実は厳しく見えます。

 それでふと思い出したのですが、ウィーン・フィルの奏者の人たちは、本番直前でもビールを飲んでくつろいだりしているのですね。定期演奏会の前だろうがオペラ公演の前だろうが、一杯飲んでから演奏会場へ入るのです。なんとうらやましい身分かと思いました。身分というより、これが心の余裕なのでしょうか。好きな時に飲めて、ワルツかなんかを気分良く演奏して(おまけに演奏中は皆ニコニコしてるのです)、それで高い給料を国からもらっているとしたらとても羨ましいですよね。そこへいくと、日本のオケの人は大変そうですよね…。オケの演奏者に限らず日本ではそんなにくつろげるものではないと思うのですが…。でもひょっとしたら気の持ちようということもあるのかもしれません。どんなに忙しくても、いつでも心はリラックスしていたいものです。(ウィーンにいた頃、私もウィーン・フィルのメンバーの真似をして本番直前にビールを飲んでみたりしました。でも、その夜は本番で何を演奏したか覚えていませんでした。)





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