メトネル作品番号順リスト
〜ロシアの作曲家メトネルの全作品リスト〜
(一部解説あり)
※日本語・欧文表記混在
※色分けしてあります→ピアノ曲、歌曲、室内楽曲
日本語による詳しい解説は、
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| 解説のページ 《8つの情景画》op.1から第1曲「プロローグ」、第6曲、第7曲、第8曲 1900年、「ダイヤモンドのメダルに値する」と言われた最優秀の成績でモスクワ音楽院を卒業したメトネルは、すぐに新進ピアニストとして活動を始めた。作曲は10代半ばから試みていたが、作品番号1を与えたのは1902年末に完成したこの作品が最初である。楽譜は翌年、メトネル初めての出版譜としてユルゲンソン社から出版された。ドイツ語タイトルの「Stimmungsbild」は、情景や風景を描いて雰囲気や気分を喚起させる19世紀の絵画ジャンル。転じて性格小品のタイトルに用いられた。どの曲もひとつの音楽的着想(=情景)が展開され、クライマックスを迎えて終わる。メトネルの音楽の大きな特徴である、リズム面の工夫もうかがわれる。旧ソビエトの名ピアニスト・教育者ゴリデンヴェイゼルによれば、「このような作品1を誇りにできる作曲家は決して多くない。自信のない作曲の実験はなく、成熟した独創的な才能の作品である」 (2001年9月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 第1曲「プロローグ」4分の4拍子、ホ長調。 ロシア・ロマン主義を代表する詩人のひとりレールモントフの詩の一節が掲げられている。「真夜中の空に天使が飛び/ひそやかな歌を歌った」 のちにメトネルはこの曲を歌曲に編曲し、詩の全文を著書『ミューズと流行』の冒頭に引用した。希望と憧れに満ちた「夜の音楽」が、コンポーザー=ピアニストとしての旅立ちを歌い上げる。 第6曲 変ニ長調。三部形式。 主部は3拍×3小節+2拍×2小節という興味深い拍節構造をもつ。中間部では短調に転じ、伴奏音形のリズムは古いタイプのタンゴである。なお「humore」は作曲者の誤りで、「umore」が正しい。 第7曲 嬰ヘ短調。 シンコペーションがどこか苛立った身振りを感じさせる。主部は4分の4拍子。中間部は8分の5拍子となる。 第8曲 イ長調、4分の4拍子。 「ワルツのように」と記されている。左手で弾かれるワルツの伴奏音形に対して、右手は16分音符8つが配される。同じ趣向は、のちに《忘れられた調べ》第1集op.38の最後の曲でも用いられた。 ソナタ ヘ短調 op.5 メトネルは生涯にさまざまなタイプのピアノ・ソナタを14曲作曲した(習作は含めない)が、その第一作が1903年に完成された作品5である。4楽章形式で後半二つの楽章が通奏されるものは、14曲のうちこの一曲だけである。メトネルはこのソナタを大ピアニスト、ヨーゼフ・ホフマンや実質的な作曲の師タネーエフに聞かせている。ホフマンは「同時代のピアノ・ソナタで最も重要な作品」と評し(メトネルが3回弾くとホフマンは耳から曲を覚えてしまい、その場で暗譜で弾いてみせて作曲者を驚かせた)、タネーエフは日記に「大変才能があるが、形式はところどころ不完全」と記した。楽譜は1904年にベリャーエフ社から出版され、1955年には細部を改めた改訂版が刊行されている。 (2001年9月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 第1楽章 ヘ短調、4分の4拍子。ソナタ形式。主題の構築法、展開部やコーダの作法などに、すでに後年のソナタで活用されるやり方が見られる。第1主題の後半で聞かれる、同じ音を3度反復して始まるタイプの動機は、《ソナタ=バラード》の「ミューズの主題」や《ソナタ「夜の風」》にも登場する。第2主題はのちにメトネルの妻となったアンナ(当時はまだメトネルの兄エミリーの妻だった)がイメージされているという。 第2楽章 インテルメッツォ ハ短調、2分の2拍子。一種の常動曲。15歳ごろに作曲された習作に基づいている。半音階進行が不安感や不安定な気分を助長する。最後に次の楽章へのブリッジが導入される。 第3楽章 変ホ長調、4分の3拍子。熱烈な「祈りの音楽」。「divoto」はメトネル独自のイタリア語で、たぶん「神々しい」ほどの意味である。最後に第2楽章と同じブリッジが転調されて再現、アタッカで次の楽章へと続く。 第4楽章 フィナーレ 4分の2拍子。ソナタ形式。第2主題は第1楽章と同じ「アンナの主題」である。再現部はかなり自由に扱われ、第3楽章が回想される。その後でへ長調で輝かしく「アンナの主題」が再現されて終わる。 ソナタ・エレジー ニ長調 作品11−2 1906年に亡くなったメトネルの義理の兄弟アンドレイ・ブラテンシへの思い出に、ゲーテの「情熱の三部作」になぞらえ、3曲の単一楽章から成る「ソナタ三部作」を作曲。このソナタはその第2曲で、同年に完成。哀愁漂う切ないため息のような冒頭の旋律が、この曲を貫く主要主題となっている。このテーマがさまざまに転調しながら、ソナタ形式の中で揺れ動いていく。そして曲想は次第に高まっていき、最後はニ長調の輝かしく活力に満ちたコーダで締めくくられる。 ソナタ ハ長調 作品11‐3 「ソナタ三部作」の第3曲。1907年に完成。曲は、ハ長調の穏やかな曲想で始まる。最初のテーマに続いて、清純で柔らかな第2主題が歌われる。(提示部はリピートされる。)展開部は、同主短調から型どおりに古典的な装いで始まるが、すぐにテクストは濃密になり、メトネルの世界に惹き込まれる。展開部で突然出現する第3主題は、メトネルがよく用いた3つの同音の繰り返しから始まるメロディーで、この旋律が展開部の大部分を支配する。やがて混沌の中から最初の主題が現われ、そのまま発展しながら再現部へとなだれ込む。調性の扱い方など、メトネルに典型的な難しさを感じさせるが、全体のまとまりは見事で、特に作曲家が苦心したというコーダは圧巻。やはり複雑な調整進行から始まって、第1主題と第3主題が呼応しながら進み、最後には第2主題も加わって壮大な大団円で幕を閉じる。 《3つの短編小説》op.17から第1曲「ダフニスとクロエ」 1908年までに完成。当時のメトネルは活動の場をドイツに求め、主要都市で自作自演のリサイタルを開いていた。すでに小品のジャンル名として「おとぎ話」を用いていたメトネルにとって、「短編小説」は「おとぎ話」よりも規模の大きな曲という含みがあったようだ。第1曲(4分の2拍子、ト長調)は、古代ギリシャの田園物語「ダフニスとクロエ」をタイトルに持つ(ラヴェルのバレエ音楽に4年先立つ)。アンダンテで始まるのどかな音楽は、次第にテンポが加速されて伴奏音形が細かくなり、いっそう喜びと輝きに満たされてゆく。なお、ト長調はバロック時代の音楽ジャンル「パストラール」で好んで用いられた調であり、1938年に作曲された《ソナタ=イディル(牧歌)》op.56も同じ調で書かれている。 (2001年9月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 2つのおとぎ話 作品20 作品26の清純で簡素なおとぎ話とは対照的で、重々しい響きを持つ個性的な2曲である。1910年出版。 第1曲 変ロ短調は、ラフマニノフが自分の演奏会でよく取り上げ、ハイフェッツはヴァイオリン曲に編曲したほど、ポピュラーな作品となった。主になるモチーフは一つであるが、このメロディーは名旋律。構成と展開が素晴らしく、メトネルの代表作たりうる作品となっている。 第2曲は、「カンパネラ」(鐘)というサブタイトルがついているもので、楽譜には「鐘によって‐(鐘についてではなく)‐語られる、歌またはお話」と書いてある。下降する3つの8分音符、低音の16分音符の5つの下降音、さらに右手で奏される32分音符という3種類の「鐘」が、さまざまに入り乱れながら進んでいく。曲は無窮動的で高度なテクニックが要求される。メロディーを伴う対位法の技術が見事で、非の打ちどころのない作品である。 4つのおとぎ話 作品26 作品20の「おとぎ話」とともに、最もよく演奏され、親しまれている曲集。1913年出版。4曲とも標題はないが、さまざまなイメージがふくらむ叙情的な小品集。簡潔な中にメトネルらしさを十分味わうことのできる愛すべき作品である。 「第1曲 変ホ長調」晴れ渡った爽やかな早朝の、澄んだ空気と穏やかな光。鳥のさえずりが聞こえてくるような曲。中間は、変ロ長調に転じて曲想はさらに明るくなる。まるで、小鳥たちが会話をしているような風景。 「第2曲 変ホ長調」前曲とまったく同じ調性で、曲は打って変わってめまぐるしく音符は駆け巡る。鋭角のリズムが持つ生命力、爆発的なエネルギーを持つ歓喜に満ちた曲。 「第3曲 へ短調」曲は一転し、心の奥底に潜む孤独の悲しみの心象風景を歌うようなメロディー。中間部の曲想は明るく転ずるが、主題のモチーフが調性をさまよった挙句、意表を突いた嬰ヘ短調でテーマが戻る。しかしそのテーマは、滑り込むように元の調ヘ転調する。メトネルの「おとぎ話」で、最も美しいものの一つである。 「第4曲 嬰へ短調」行進曲風のリズムの上に、暗い曲調で語るテーマとそれを遮るようなモチーフの対話。やがて優しい第2テーマが現われるが、そのモチーフも倦怠の中でさまざまに変化を見せていく。再び最初の主題が現われ、しばらくすると曲は次第に発展しながら激昂し、最後に第2テーマが姿を変えて現われそのまま激しく高揚して曲は終わる。 ソナタ=バラード 嬰ヘ長調 op.27 メトネルの最も重要な作品のひとつ。1912年に単一楽章のソナタとして構想されて第1楽章が作曲され、1914年までに後続の楽章が書かれた。メトネル自身が最晩年に録音した数少ないソナタでもある。この作品で語られる「バラード=物語」は極めて宗教的な性格のもので、19世紀ロシアの「純粋芸術派」の詩人アファナシィ・フェート(1820〜92)の詩に触発されている。この詩は「荒野のキリストの誘惑」(キリストが荒野で40日間の断食を行ったときに、悪魔からの誘惑を退けたことを示す)に題材を求め、キリストが誘惑に打ち勝つと「悪魔は消え/荒野で彼の命令を待つために/天使たちがやって来た」 このエピソードにメトネルの創作者としての信条、信仰、倫理がこめられていると見てよい。だからこのソナタは、メトネルの「聖書ソナタ」でもある。 (2001年9月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 第1楽章 8分の6拍子、嬰ヘ長調−嬰ヘ短調。大規模なソナタ楽章。メトネル研究者たちは、この楽章に「春のイメージ、自然の美しさと喜びと歌」を見出だしている。しかし、「造物主への信仰がない」ので「すべてはかない」(B・パンソノール)。かなり長大なコーダでは音楽は加速されて短調へと傾き、悲劇的なカタストロフへと突き進んでゆく。アタッカで次の楽章に入る。第2楽章・第3楽章 「序奏とフィナーレ」として続けて演奏される。「ベートーヴェンの弟子」を自認したメトネルが形式のモデルとしたのは、恐らく《ワルトシュタイン・ソナタ》である。 「序奏」:4分の4拍子、嬰ヘ短調。冒頭、2オクターヴ離れたユニゾンで導入される聖歌の断片のような旋律は、悪魔の誘惑を表す「誘惑の主題」である。続いて和音で荘重に演奏されるモットー(同じ和音が3回続き、次に長6度下降する2つの和音)は、誘惑に打ち勝つ人間の気高い精神力の象徴である。後者は「ミューズの主題」とも呼ばれる。 「フィナーレ」:4分の2拍子、嬰へ長調。ソナタ楽章であるが、展開部以降の構成は「物語」からの影響も大きい。第1主題は符点リズムが特徴的。第1楽章の「春のイメージ」の再現でもある。第2主題は変ホ長調。「序奏」のモットーが組み込まれている。展開部は「誘惑の主題」によるフガートで大きく昂揚、善と悪の激しい闘争が繰り広げられる。再現部の第2主題は長いカノンで扱われ、勝利と祝福の鐘の響きに包まれながら第1楽章の第1主題が回帰、圧倒的なエネルギーを放って全曲を輝かしく閉じる。メトネルが持っていたこのソナタの出版楽譜には、最後の小節の下にフェートの詩の一節「神の前ではただひざまずくのみ」が書き込まれているという。 「忘れられた調べ 第1集」作品38 「忘れられた調べ」というタイトルを持つ曲集は、作品番号38から40までの3つの組曲にまとめ上げられた。メトネルは、1920年頃までにスケッチをしていたものの中から、どうしても忘れられないメロディーをもとに19からなる曲を作曲した。その中には小品ばかりでなく、第2集のNo.5「悲劇的ソナタ」やこの第1集の「回想ソナタ」など、大きな曲も含まれている。この第1集 op.38は成立過程も少々複雑で、メトネル自筆譜によると、さまざまに苦心した上で全体がまとめ上げられたことが分かる。もともと、この第1集には《組曲「自然」》というタイトルがつけられていたという。この9月に全音楽譜出版社より発刊される「メトネル 忘れられた調べ 第1集op.38」の楽譜に収められた久 暁氏による解説で、この曲集の作曲過程のかなりの詳細部分が明らかにされている。全8曲には、メトネルの作品の中でもポピュラーな曲が多く含まれている。 第1曲「ソナタ「回想」」柔らかい和声進行上に歌われる最初のメロディーが印象的だが、これが"回想のテーマ"と呼ばれる。全体の構成は緻密で、ソナタ形式を用いつつもかなり込み入った書法で書かれている、単一楽章のソナタである。この回想のテーマは、「忘れられた調べ 第1集」全曲の中で、変形したモチーフとしてもさまざまに使われていて、メトネルの緻密な作曲技法の一端が窺える。音楽は、全体で一つの大きなドラマを作っている。メトネルの作品中、最も有名なソナタである。 第2曲「優美な舞曲」比較的小規模の曲であるが、前の大きなソナタと次の華やかな曲との間をつなぐ役目も果たしている。曲は、見事な和声に彩られながら、文字通り優美に歌われる。 第3曲「祝祭の舞曲」祝祭を表わすような三和音の導入のあと、屈託のない明るさとともに、3拍子に乗って曲は目まぐるしく展開していく。技巧的には難しくリズムにも特徴があり、頻繁に現われるポリリズムはメトネル独特のものである。中間部は雰囲気が少し変わるが、基本的に3対2のリズムで動く。7の和音を基調とした和声進行が美しく、リズムの宝庫ともいえるさまざまな技巧と相俟って、ジャズのような現代的で斬新な響きを作っている。 第4曲「川の歌」冒頭の4小節は、前曲と同じ三和音の序奏である。この短い導入は、ムソルグスキー作曲のピアノ曲「展覧会の絵」の"プロムナード"のように、新しい物語を誘い出す役割もはたしている。第6曲「夕べの歌」の冒頭と末尾に奏される"回想のテーマ"にも言えるが、次の曲への導入、又は橋渡しのように奏され、それぞれの曲が互いに関連付けられる。この曲は、短いフレーズで奏でられる短調を基調とした歌である。 第5曲「田舎風の舞曲」符点音符を持つ3拍子が曲全体を支配し、このけだるい雰囲気はまさに田舎風がイメージされるが、簡単な音符で書かれたハ長調の曲に、メトネルのユーモアと洗練された書法を垣間見ることができる。 第6曲「夕べの歌」ソナタと調性進行の違う「回想のテーマ」が、前曲と同じハ長調の和音から開始する。やがて、しっとりとした"歌"が歌い始められ、悲しい中にもメトネル独特の豊かな心象風景が展開していく。心に染み入る1曲である。 第7曲「森の舞曲」スケルツォ風の導入に始まり、渦巻くリズムの中で、回想のテーマの断片が前曲を支配していく。「森」のなかで展開するさまざまなイメージが見事に音楽化されたような作品で、インスピレーションと幻想性に満ちている。 第8曲「回想ふうに」組曲全体のコーダともいえるこの曲は、ソナタの同主調であるイ長調が用いられ、ソナタに出てきた回想のテーマと他のモチーフが、文字通り"回想される"ように、懐かしい曲調を伴いながら曲中で現われる。最後に向って、回想のテーマは次第に音域が拡大してゆき、壮大な物語はここで完結する。 《「忘れられた調べ」第2集 作品39》より 第3曲《春》 ヴィヴァーチェ、8分の6拍子、変ロ長調。 「北国の春」の爆発的な訪れとその喜びへの賛歌。メトネルの作品の中で最も親しみやすい曲のひとつである。その秘密はたぶんペンタトニックで始まる旋律にある。例えばチャイコフスキー《四季》の《トロイカ》のように、ロシアの作曲家の音楽には時に五音音階で書かれたすばらしい旋律が見つかる。 第4曲《朝の歌》 アレグレット カンタンド、4分の4拍子、ト長調。 原タイトルはメトネル独自の言葉使いで、イタリア語としては少々おかしな表現である。濃いロマンティシズムを備えたメトネルの「無言歌」と言えるだろう。あるメトネル研究家によれば、この曲の「朝」は比喩的に「生命の朝」「青春」などと理解されてよい。 第5曲《悲劇的ソナタ》 アレグロ リゾルート、4分の4拍子、ハ長調。 1950年代に旧ソビエトで出版されたメトネル作品全集によれば、《朝の歌》に続けて演奏される(初版の楽譜には指示なし)。《忘れられた調べ》第一集と第二集には、組曲の一曲として単一楽章のソナタが含まれている。全体は簡潔なソナタ形式で書かれている。第1主題は同じ音を3回繰り返して結びの楽句をつけるモティーフから始まる。メトネルのソナタの主題ではよく見られるタイプの動機である。変ホ長調で導入される第2主題は、第一主題から派生したもの。続いて《朝の歌》の中間部がト短調で挿入される。展開部は第1主題が活用される。再現部では第2主題以下はほとんど省略され、コーダの直前でその音型が象徴的に2回奏される。このあたりにメトネルの卓抜な造形感覚がうかがわれる。コーダで悲劇性は激しく高められ、曲頭のモティーフが再現されて終わる。(以上2001年3月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 《6つのおとぎ話》op.51から第1曲、第5曲、第6曲 1928年作曲。この時期のメトネルはパリを拠点に欧米各地で公演を行い、次第にイギリスとの関わりを深めていった。6曲は「ゾールシカ(灰かぶり姫、シンデレラ)とばかのイワーヌシカ(トルストイ『イワンのばか』の原型)」に捧げられ、作曲者自身によって「おとぎ話」とロシアの民話世界との関わりが示唆されている。 (2001年9月川上昌裕リサイタルより〜久 暁) 第1曲 ニ短調、4分の2拍子。6曲中最も長い。メトネルによれば「登場人物たちの紹介」。民俗舞曲を思わせるダイナミックな主要部はイワーヌシカ、中間部はゾールシカと見なすこともできるだろう。 第5曲 嬰ヘ短調、4分の3拍子。主に中音から低音域に現れるもの悲しい旋律とせわしなく動くパッセージの対比。メトネルはこの曲の演奏でほとんど実現不可能なペダリング(16分の1ペダル!)を求めている。 第6曲 ト長調、4分の2拍子。メトネルによれば「イワーヌシカの踊り」。同音反復とアルペッジョが、第1曲よりもさらにひなびた楽天的な雰囲気を醸し出す。最後に現れるヘ音のオルガン音の効果が意表を突いて面白い。 《2台のピアノのための作品》作品58 No.1 1939年戦争勃発により、数少ないコンサートのキャンセルや、出版社からの減給など最悪な不幸が、メトネル夫妻にのしかかった折、弟子のEdnaからの誘いで、ワイザール(イギリス・バーミンガム南部)の彼女の家へ招かれ、夫妻はそこで約2年間を過ごした。彼はそこで、第3番のピアノコンチェルトやいくつかの小品を作曲し、そして新たに完成されたこの2台のピアノのための作品(作品58)によって、成功をおさめた。 第1曲ロシアンラウンドダンス(逸話)はEdnaに献呈され、彼女と共にしばしば内輪のお客たちのために演奏された。この曲は、彼の最も陽気で魅力のある作品の一つであり、簡潔で驚くほど明瞭な感触、そしてリズムが溢れて生き生きとし、独創的なテーマが組み合わさっている。 《2台のピアノのための作品》作品58 No.2 第2曲ナイトエラントは日本語に置き換えると“騎士の冒険的遍歴”と訳され、Op.58-1とほぼ同じ時期に着手された。第二次世界大戦の終りに完成し、ピアノ・デュオで有名であったヴォロンスキーをバビンに献呈されている。伝奇的な中世の騎士冒険物語からインスピレーションを導かれ、興味深い和声構造を用いて、念入りに完成されたソナタ形式を紡ぎだしている。極めて真面目にゆっくりとイントロダクションが始められると、その後同じ素材が約3倍の速さで第一主題をドラマティカルに奏するが、それはまるで騎士の典型であるドンキホーテが使命をおびて決然と行動を起こしたように聞こえないだろうか。コーダでドンキホーテ自身が新しい冒険に旅立つため後ろ姿を見せつつ彼方に消えるような極めて静かな終わりをむかえるのだが、音で紡ぎだされるこの雄大な冒険物語は、尽きない想像を可能にするであろう。(以上2001年11月無弦琴コンサートプログラムより) |