福威智満 虚空蔵菩薩

福智山 能満寺の歴史は、相模之国における虚空蔵菩薩の歴史であると言えます。奈良時代に伊勢原に仏教が伝来して以来、三宮大明神と大山寺、日向薬師は仏教の大道場として栄えました。大山寺に弘法大師が住職として入寺されたとき(弘法大師こと空海が虚空蔵菩薩を本尊とする室戸岬の最御崎寺の近くの洞窟で修行していたとき、目の前に広がるのは空と海だけだった。それ以来、教海を改め空海にしたそうです。その時熱心に修行していたのは虚空蔵菩薩にすがる、求聞持法という方法によるものでした。求聞持法とは記憶力を高める法で、真言を百万遍唱えると、覚えたことを忘れないという。大師は求聞持法の修行法を三ノ宮大明神に伝えました。ここに福徳と智慧の仏様である虚空蔵菩薩信仰が定着していくのです。虚空蔵菩薩は大空の仏様であって、私達に平等にその恵みと試練を与えてくれます。例えば恵みの雨や心地よい日向、爽やかな風のように。時には激しい雨や雷のように。福徳は恵みから、智慧は試練から来ると言っても良いのではないでしょうか、それ故に虚空蔵菩薩は福威智満と言われたり能満、大満、福満と言われたりします。そして空は全てのものを通します。風も太陽も月も雨も音も。最近では人ですら通してくれます。それに対して大地の仏様が地蔵菩薩です。地蔵菩薩は虚空蔵菩薩の恵みにより全てのものを生み出し、そして時が来れば全てのものを自分の中へ受け入れてくれます。この二つの菩薩が一体となって初めて恩恵を受けることが出来るのですね。

 〈福智山能満寺と虚空蔵菩薩の関係〉全国のほとんどの能満寺は虚空蔵菩薩が本尊であると言っても過言でないと思われます。なぜならば能満とは先にも示した通り虚空蔵菩薩のことだからです。山号は普通その寺が所在する地名を取るのが一般的です。例えば建長寺は巨福呂にあるので巨福山など。しかしながら能満寺は三ノ宮大明神の道場なので地名ではなく虚空蔵菩薩を意味する福智山と言う山号が付いたのです。ちなみに虚空蔵菩薩と縁深い真言宗の寺が三ノ宮大明神はずれにありましたが、その寺は鈴川山泉龍寺と申しました。さらには九州にある福智山(ふくちやま・901m)という虚空蔵菩薩の大道場には福智山金光明寺というお寺があるくらい福智山とは由緒ある山号なのです。

 〈能満寺本尊 木造 虚空蔵菩薩座像〉

仏師は不明 室町または南北朝頃の作

座高 47cm

虚空蔵菩薩は大日如来の脇侍で、「智慧」と「福徳」とが大空のようにどこまでもつきることのない事を象徴している。五智如来の変身した「五大虚空蔵」という密教教理により五仏を配した宝冠をつけている。右手に智慧の象徴である剣を持ち、左手に至福を表わす蓮華と宝珠を持っている。密教では「求聞持法」を修得するときに念じると頭脳を明晰にして、記憶力を高めてくれるという。