HLAハプロタイプと日本人の民族移動
前回までで、後代の日本人・日本国の、中国側(及び半島側)の名称である「倭人」「倭国」や「倭」に因んだと考えられる地名「倭山」などが、遼河周辺から満洲あたりに、存在すること(あるいはその可能性)について、説明しましたが、今回は、HLAハプロタイプの「現在の分布」から、この「倭人」の列島への移動・移住について述べたいと思います。
HLAハプロタイプのデータについては、徳永勝士氏が、これまでに発表されたデータに基付いて、論じたいとおもいますが、同氏の発表で私が読んだのは、次の三編で、記載内容にズレがありますので、まずその点について、若干コメントしておきます。
徳永氏の論文三編は、
a)HLA遺伝子群からみた日本人のなりたち(「モンゴロイドの地球(3)日本人のなりたち」東京大学出版会、1995年7月15日、第4章、遺伝子からみた日本人、p193−210)以下文献a)と略
b)HLA遺伝子からー遺伝子から探る日本人の起源(1)
大橋 順・徳永勝士(「生物の科学・遺伝」VOL、52、NO、10、裳華房、1998、特大号日本人の起源、p45−53)以下文献b)と略
c)HLAと人類の移動(「日本列島の人類学的多様性」日沼頼夫・崎谷満編、勉誠出版、2003年4月10日、p4−9)以下文献c)と略
以上三編ですが、文献b)とc)は、同一のデータに基付いているようですので、、次回以降は発表年代も後である文献b)とc)のデータを併せて考え、これを基礎として私の考えを述べますが、今回は文献a)とb)、c)の数値の違いをざっと記載しておきます。
@ハプロタイプHLA−A24−B52−DR15(DRB1*1502)
文献a)平均の頻度10,0%
文献b)本土における平均頻度8,63%
文献c)本土日本人 8,6%
AHLAーA33−B44−DR13(DRB1*1302)
文献a) 6,3%
文献b) 4,78% 文献c)4,8%
BHLAーA24−B7−DR1(DRB1*0101)
文献a) 5,3%
文献b) 3,97% 文献c)4,0%
CHLAーA24−B54−DR4(DRB1*0405)
文献a) 3,7%
文献b) 3,09% 文献c)3,1%
DHLAーA2−B46ーDR8(DRB1*0803)
文献a) 3,6%
文献b) 2,16% 文献c)記載なし
EHLAーA26−B61−DR9(DRB1*0901)
文献a) 1,2%
文献b) 1,88% 文献c)記載なし
FHLAーA24−B61−DR9(DRB1*0901)
文献a) 記載なし
文献b) 1,61% 文献c)記載なし
GHLAーA11−B62−DR4(DRB1*0406)
文献a) 1,9%
文献b) 1,19% 文献c)記載なし
HHLAーA2−B61−DR9(DRB1*0901)
文献b)のみ1,06%
以上の文献a)とb)では、頻度別に、文献a)が7種、文献b)が9種を記載していますが、おそらく例数の増加によって、下位のハプロタイプの頻度の順位がかわったと考えられ、両文献とも第一位から第五位までは共通ですが、第六位以下の下位のハプロタイプの順位は変っています。また、文献a)の各ハプロタイプの頻度は文献b)は第一位から第五位の順位のものでは低下しています。
また、文献b)の小数点第2位を四捨五入すると、文献c)の@〜Cの頻度になり、同じデータに拠っていることを示していると思われます。
この他、文献c)では、文献b)の上位4ハプロタイプの他、沖縄人やアイヌ人に多いハプロタイプとして、五つのハプロタイプを挙げています。必要があればまた挙げます。
Re: HLAハプロタイプと日本人の民族移動
HLAハプロタイプのデータについては、徳永勝士氏が、これまでに発表されたデータに基付いて、論じますが、同氏の発表で私が読んだのは、次の三編で、記載内容にズレがありますので、主に後に発表された文献(b)及びこれと同一のデータと考えられる文献(c)を併せて考え、日本国内の地域差や、国外の他民族・他国民などのデータについて論ずる時に、文献(a)からも引用します。
特に断らない時は、この頻度は、文献(b)及び(c)の何れかにより(No844参照)、少数点以下一桁で表示します。
ここで徳永氏の論文(a),(b)、(c)は以下の3編を指します。
(a)HLA遺伝子群からみた日本人のなりたち(「モンゴロイドの地球(3)日本人のなりたち」東京大学出版会、1995年7月15日、第4章、遺伝子からみた日本人、p193−210)
(b)HLA遺伝子からー遺伝子から探る日本人の起源(1)
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大橋 順・徳永勝士(「生物の科学・遺伝」VOL、52、NO、10、裳華房、1998、特大号日本人の起源、p45−53)
(c)HLAと人類の移動(「日本列島の人類学的多様性」日沼頼夫・崎谷満編、勉誠出版、2003年4月10日、p4−10)
@ハプロタイプHLA−A24−B52−DRB1*1502(DR15)
本土日本人 頻度8,6%、沖縄人 1,5%、 アイヌ人 1,0%、 韓国人 1,4%、 中国朝鮮族 2,2%
このハプロタイプは日本人で最多頻度のハプロタイプであり、且つ文献(a)によると、北九州、山陽、近畿、更に秋田・山形でも高い頻度で観察されます。
又、国外では、韓国や、おそらく北朝鮮のハプロタイプ頻度を反映していると考えられる「中国朝鮮族」でも、そこそこの頻度で観察されること、及び文献(c)で、中国北部漢族でも見られ、以前の報告ではモンゴル(共和国)の一集団でも高頻度(文献(a)で5,9%?)であると発表されています。
私は、このハプロタイプが、日本人最多であり、且つ、北九州、山陽、近畿で更に高頻度であることから、弥生時代開始前後に、遼河流域周辺から、半島西岸を一気に南下して、半島南部に到達し、更に間を措かずに、主力が渡海して北九州〜山口方面に上陸・移住し、瀬戸内から近畿に弥生文化とともに拡がって、ついに国家形成・民族形成・日本語を形成するに至った集団「倭人」の民族移動を表わすものと考えています。
AHLAーA33−B44−DRB1*1302(DR13)
本土日本人 4,8%、 韓国人 5,1%、 中国朝鮮族 3,5%、 中国北部漢族 2,0%
このハプロタイプは、韓国人で多く(文献(a)(b)では韓国人最多ハプロタイプ)、分布は@のA24−B52−DR15と似るも、分布の中心は、北陸から秋田にかけてとされ、私はこのハプロタイプは、韓族を代表するものと、考えました。
BHLAーA24−B7−DRB1*0101(DR1)
本土日本人 4,0%、沖縄人 1,8%、 アイヌ人 1,0%、 韓国人 3,2%、 中国朝鮮族 1,7%、
この分布は、A番目のハプロタイプ(A33−B44−DR13)に国内では類似していますが、国外では、韓国人・中国北部朝鮮族、国内では少数ながら、アイヌ人・沖縄人に分布していることを考え、韓国朝鮮人の基層をなしていると考えられる(金芳漢氏ら)ギリヤーク族類似の「古アジア語族」系の集団を代表しているものと考えました。
安本美典氏の説く、日本語・朝鮮語・アイヌ語の共通の基層と考えられる「古極東アジア語」もほぼ金芳漢氏らの「ギリヤーク語類似の古アジア語」と類似の概念だと思われますが、現実に存在するニヴフ(ギリヤーク)族のハプロタイプが不明ですので、これが当を得たものかは、わかりませんが、何れにしろ半島〜列島に分布した集団で、前二者と類似した、かつ異なった分布域を示すことから、北方系の集団の一つであったことは、間違いありません。
CHLAーA24−B54−DRB1*0405(DR4)
本土日本人 3,1%、 沖縄人 6,1%、 韓国人 1,2%、 中国朝鮮族 0,9%、 中国満族 1,2%、 シベリア・ブリアート人 1,3%
このハプロタイプは、文献(a)では、国内では、南方に偏っており、沖縄での最多ハプロタイプであり、南九州・南四国・東海・神奈川でも比較的多いとされ、中国南部でも多いとされていましたが(つまり江南などの南方出自を窺わせる)、文献(c)では何とシベリアのブリアート・モンゴルや、中国満族(満州族)でも、認められ、このハプロタイプの起源も南方系とはいえなくなりました。以前は、このハプロタイプを、江南出自の百越の一派で、あるいは水稲耕作をもたらした集団とも考えていたのですが、とりあえず、不明とせざるを得ません。「夏人」のハプロタイプである可能性も含め、いろいろと考えていますが、周辺諸民族の頻度、特にチベット族などのそれが解らないと決定困難だと思われます。
DHLAーA2−B46ーDRB1*0803(DR8)
本土日本人 2,2%
このハプロタイプの分布は、文献(a)では、@、A、Bと類似していると報告されていますが、文献(b)の頻度は、2,16%と本土日本人で5番目の頻度(文献(a)でも5番目の頻度)ですが、文献(c)では記載なく、詳細は不明です。ただこのハプロタイプに極めて類似したハプロタイプが中国南部、四川省やタイ、ヴェトナムの集団で最も多いとされていることが、文献(a)に記載されています。
EHLAーA26−B61−DRB1*0901(DR9)
本土日本人 1,9%
FHLAーA24−B61−DRB1*0901(DR9)
本土日本人 1,6%
GHLAーA11−B62−DRB1*0406(DR4)
本土日本人 1,2%
HHLAーA2−B61−DRB1*0901(DR9)
本土日本人 1,1%
以上の本土日本人に多いハプロタイプは、文献(b)に従って記載していますが、@〜Cについては、文献(c)に、本土日本人以外の記載があり、それについても記載しました。
以下については、沖縄人及びアイヌ人に多いハプロタイプについての「文献(c)」の記載です。
JHLAーA2−B35−DRB1*1501(DR15)
本土日本人 0,4%、 沖縄人 4,9%、 アイヌ人 1,0%、 北部漢族 1,0%
KHLAーA24−B59−DRB1*0405(DR4)
本土日本人 0,8%、沖縄人 4,1%、 中国朝鮮族 0,7%、 中国満族 0,6%
LHLAーA2−B62−DRB1*1401(DR14)
アイヌ人 12,8%
MHLAーA31−B39−DRB1*1406(DR14)
アイヌ人 8,0%
NHLA−A2−B62−DRB1*0802(DR8)
アイヌ人 8,0%
L〜Nは、アイヌ人の主要ハプロタイプで、本土日本人や沖縄人とは、かなりの相違が認められます。
尚、騎馬民族説で問題の「扶余族」にあてられるハウロタイプについては、上記のどれに比定すべきか、決定困難ですが、「モンゴロイドの地球@」のp146の表のA30−Cw6−B13−DR7−DQw2(満州族5,0%、モンゴル人4,0%、韓国人3,2%、スペイン人1,3%、イタリア人1,1%)などが候補になると思われますが、今後の中国・シベリアの少数民族のHLA調査によっては、また別なハプロタイプが候補となるでしょう。
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