いい駒にめぐり合うために
駒知識百か条

 

   駒マニアを問わず将棋好きなら誰でも、「いい駒にめぐり合いたい」と一度は思うことがあるはず。駒を選ぶとき、そんな方々にひとつの目安として活用してほしいのが、ここに掲げた「駒知識百か条」。
 もっとも「いい駒にめぐり合った」からといって、棋力がアップするわけではないのですが、これからの長い将棋のパートナーとして、駒は最適!!

 

1 駒の種別は4種類(書き、彫り、彫り埋め、盛り上げ)

駒木地・虎斑
2 最初に作られたのは書き駒
3 江戸期に彫り・彫り埋め駒が流布
4 明治初期までに、盛り上げ駒の製法完成
5 駒の素材は、黄楊と漆が基本
6 製法は駒師によってそれぞれ異なる
7 駒は勝負に介在する遊具、または道具である
8 道具を超えた駒の真の魅力
9 駒木地に最も適すのは黄楊
10 「駒は黄楊に限る」という故事
11 国産の島(御蔵島)黄楊と薩摩黄楊

駒木地・赤柾
12 外国産のシャム黄楊と中国黄楊
13 各黄楊にある長所と短所
14 黄楊の堅さは、榧盤に適切
15 「木の宝石」ともいわれる黄楊の美しさ
16 厳しい自然が高級材(虎斑、赤柾、根杢)を産出
17 黄楊の伐採は、木が生長しない冬季に行う
18 アオ(シミやカビ)が入っては駒材としてはダメ
19 駒木地はとれる部位によって異なる
20 櫛型か平行びきで作る板木地
21 駒木地は柾目取りが基本で、残りが板目

駒木地・根杢
22 高級材は罫書き(板木地に駒形を記す)が大事
23 駒木地の種類は豊富
24 プロ棋士に好まれる赤柾は、対局時に目にやさしい
25 駒一組が、必ずしも同じ原木とは限らない
26 現存する最古の駒は墨書き
27 墨書きから漆書きへ
28 古将棋(中将棋など)はほとんどが書き駒
29 僧侶や公家が書き駒の制作者
30 書き駒のルーツは「水無瀬駒」
31 水無瀬家の筆をもって宝とす
32 天童で独自に発展した書き駒
33 漆書きは熟練の技を要する


○印の漆が縮み、シワになって失敗した駒

34 書き駒から彫り駒への経緯はつまびらかではない
35 普及品として彫り駒は流布
36 駒作りの基本は彫り駒
37 地味な作業でも、目止めが駒の出来を左右する
38 彫りのそろいは基本だが、時には不ぞろいも味が…
39 彫りあとに漆がたまってはダメに
40 浅彫りと深彫りで趣が違う
41 深彫りを得意とする駒師もいる
42 駒の後ろに作者が見える「手作り駒」
43 一見、彫り埋め駒は墨書きに見える
44 指し将棋に一番向いている彫り埋め駒
45 盤に吸いつくような感触は、彫り埋め駒の味
46 埋め方には2種類ある
47 漆だけを埋まるまで何度も塗り重ねていく
48 サビ漆で効率よく埋める
49 漆は固まるときにヤセる(へこむ)
50 彫り埋め駒の別名は、研ぎ出し駒
51 なんといっても華のある盛り上げ駒
52 四段以上のプロ棋士が盛り上げ駒を公式戦で使用
53 盛り上げの漆には高低がある
54 漆がある程度減るまで、盛り上げは回って指しにくい
55 駒字をアレンジしやすいのは盛り上げ駒
56 盛り上げ用の目止めも必要
57 彫りはやや細めが盛り上げやすい
58 漆が飛んでも、作り直しがきく盛り上げ駒
59 駒に使用する漆には数種類ある
60 作者の好みだが、呂色漆が基本
61 漆はブレンド(呂色+木地呂など)使用もあり
62 耐久力と「漆黒の美」が漆の身上
63 時を経てツヤと深みを増す漆
64 漆の乾燥には湿気が欠かせない
65 一定温度と一定湿度が漆を乾かすには大切
66 湿度の与えすぎは、漆が急激に乾燥して縮む
67 面取りで駒が手になじむ
68 面取りの度合いは作者の好み
69 面取りのしすぎは、指しやすいが駒がダレて見える
70 磨きの違いで駒はガラリと変わる
71 磨くときの焼き入れが駒に金属質を生む

表が隷書、裏が篆書の「英朋」の字母紙

 

72 最終仕上げの磨きは、作者でかなり異なっている
73 油(椿、クルミなど)のつけすぎは駒によくない
74 駒を使ったら、布でカラぶきが一番
75 駒の表字は楷書か行書、裏字は草書が基本
76 隷書や篆書、それに混在型など変わり書体もある
77 駒の書体にはそれぞれに確立経緯がある
78 駒字の版木や字母紙は駒師の財産
79 近代将棋駒の祖・豊島龍山が残した「字母帖」
80 古来から数多くの書体(100種類以上)が伝わる
81 同書体でも駒師によって異なっている
82 現在でも新書体が作られている
83 駒師の始まりは、公家や僧侶か?
84 お城将棋などにも使われた水無瀬家の駒作り
85 江戸期に一般的な職業としての駒師出現
86 将棋所・大橋本家の駒作り
87 豊島龍山の出現で、東京の駒作りは花開く
88 明治〜昭和にかけて多くの名工が輩出
89 1991年、金井静山没で東京にプロの駒師消滅
90 江戸末期、将棋の町・天童で駒作りが始まる
91 1980年代、天童で高級駒が作られるようになる
92 1977年、アマチュアの駒作りが本格的に始まる
93 書体名と号(作者名)が記されているのが駒銘
94 駒銘の入れ方には決まりがない
95 駒銘は作者自身を表すともいわれる
96 変則的な駒銘として横組もあり
97 駒銘専用の道具もある
98 道具としての駒には力強さがある
99 「使われてこそ名駒」を肝に銘じる
100 「駒知識百か条」を読み返す

 

 以上が「駒知識百か条」です。駒を選ぶときの参考にしてください。駒には将棋を指す側面のほかに、芸術的な美しさもある。ことに虎斑の盛り上げ駒など何十万円もするような高額なものは、使えば傷がつくので、鑑賞用に飾っておくだけのマニアも多い。ただしそれだけは、なんとなく駒がかわいそうな気がする。
 取材などをはじめ、現在まで今は亡きかつての名工たちの駒に、数多く出合ってきた。また、プロのタイトル戦などの対局場で、実際に使われた駒を拝見したところ、たしかに傷はついてしまうが、その傷さえも美しく感じられた。そんな経験を踏まえて、プロに限らず多くの人々に指され勝負にまみえた駒は、さらに歳月を経るとえもいわれぬ魅力が生じてくる。
 ここに名駒(いい駒)の謎が隠されているのではないか。 「使われてこそ名駒」この言葉を肝に銘じて、これからも駒を作りたい。

自作の根付

 

 


駒の詩