佐藤の主張・佐藤の技術・・・その4 『生活研究』


                                                                                                 08年4月

VEには5つの原則がある。そのうち特に私は以下の二つの原則=「使用者優先の原則」「機能本位の原則」を重視して活動してきた。他に「価値向上の原則」や「チームデザインの原則」「(創造による)変更の原則」があり前述の2つの原則は、他の原則をを軽視するわけではないが世界有数の工業国を標榜する日本の工業が世界に負けないためにも欠かせない原則である。

実際に市場でヒットする商品はこの2点が大いに発揮され、そこに創造性が加わった商品であるようだ。

その昔、もう20年以上の昔になるのであろう、松下電器がコードレスアイロンを開発した。アイロンを操作する主婦に、従来のコード付きアイロンの不自由さを挙げてもらおうとしたが、何の不満も訴えられなかった。しかし、IEの人たちが動作分析をするうちに、

・あのコードがアイロンがけには何と邪魔であることか、

・アイロンがけの時間帯のうち、6%しかプレスしていない、

残りの時間はアイロンを触っていない。(布地を伸ばしたりたたんだり・・・)

・アイロン作業後の(熱い)アイロンの片づけが厄介である。

・さらにコードは収納時にまたまた邪魔になること・・・その他いろいろな問題を発見し(使用者優先の原則)、それぞれを商品のニーズとしてクローズアップさせ、それを具体的に改善する(機能本位の原則)活動をして、遂にコードレスアイロンの開発に成功した話を聞いたことがある。この一連の活動を「生活研究」と称したようだ。

一般的に新商品と言えば、まず、色や外観のFace Liftと、サイズ(出力)変更が中心で、それにちょっと便利な機能が追加される。最近新しい車を買ったら、メーターは真ん中に移動し、ドアーミラーの外側に方向を指示するランプがついたり、手動のドアーが自動でスライドするドアーになったり、でも何か売価を吊り上げる機能開発のような気がしたものである。

乗用車の乗り降りは今だ屈まなくてはならないし、清涼飲料水などの缶のプルトップを引き上げるのに、マニュキュアをした美しい爪の女性は恐怖を感じながら引くのではなかろうか。自動販売機のお札を入れる作業、やりにくいとは思いませんか。紙パックの牛乳にストローの穴の蓋をしているシートがあるが、爪を切った後ではがしにくいこと。例をあげれば枚挙に遑がない。

こんな事例もある。佐藤が全日本スキー連盟(SAJ)の仕事を手伝っていた頃、堤義明氏とずいぶん仕事をした。近年は少しイメージを悪くしているが、その頃、彼はSAJの副会長で、西武鉄道の社長だった。彼は時折、ご自分で切符を買って電車に乗り、お忍びでスキー場にも行く。

・自動販売機の切符の印字が手に写る、

・苗場に行くためリュックサックを背負ってバスに乗ろうとすると入口で荷物が閊える。

・リフトに乗ると、ガラガラと滑車の音がうるさい。

・リフト券の出し入れが面倒。・・・

いずれも使用者は我慢していて、と言うよりこんなもんだと問題視していないことが多くのケースだ。当然堤さんは指示を出し、

・印字にインクを使わない自動販売機に変える。(日本初)

・バス会社には広い入口のバスを注文し、

・滑車にはゴムを巻いて音を消し、(日本初)



・リフト券はストックに貼る1日券の制度を導入した。(その後どんどん変化してスキー場のインフラが変わる。)



これらは一例で、市場ではたくさんの改良項目があふれてはいるが、まだまだ、まだまだ使用者優先の原則にはない。駅のエスカレーターなどでは駅ごとに登りが右であったり、左であったり、目の不自由な人には、はなはだ迷惑なこと。福岡空港などは空港内のエスカレーターが不統一。ユーザー無視もはなはだしい。

佐藤の技術指導先で発電所の工事に関して、あまりにも設計者がユーザーと遊離していたので、「現地探検隊」と称して工事のプロセスの不満や無駄取りを行うアクションを起こしたら大きな成果に結びついた。工事の内容に応じて、何度も足場を組んだり外したりしていたものが、配管や、配線、壁への機器類の取り付けを同じ足場で同時にできるようになったりした。

先日、セルフのガソリンスタンドでとても操作や間違いが起こりにくい機械に直面したが、きっと使用者の立場で見直しをしたものではないかなと感じた。操作ミスをすると作動しないポカ除けは大変助かる。

どこにどんな不満や我慢があるか、気づかない点を、視野を変えて見直しをしてみると、改めて便利さが生まれてくる。これが機能開発だ。

私の技術指導で何度か出てきたケースに「取扱説明書の要らない商品を創れ」のキーワードがある。使用者が考えたり調べたりしなければならないのはまだまだProduct Outだと思わなければならない。デジカメなどはどんどん小型軽量化してきているが、使い方が分かりにくいケースが多い。記号なども近写のマークなのか他の目的なのか。せっかくカメラがポケットに入るようになったのに取り説は広辞苑のように(少しオーバーだが)厚くてポケットには入らない・・・。さあ、使用者の立場で考えたら何が必要か、その機能を満足するにはどんな構造がベストか…そろそろCAD(Copy Aided Design)から脱しようではないか。

そのために何をするか…まず皆さんが最近の便利になった道具を集めて現物や写真を展示してみてはいかがか。は行(ハーとか、へーとか、ホーとか、はたまたヒーなどと)の声が出るものだ。そこに発想を転換するトリガーがある。おやりになってみてはいかがか。(DIYなどにも面白いものがありますよ。)

                   (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE