08年9月
少しこのテーマにお休みをいただいたが、漸く戻ってきました。タイトルの形式も微妙だが変えた。
前回5月(このコラム第5回)にビジネスプラン(B/P)について話をした。いよいよ原価企画に入ろうかと考えたが,もう一つ企業として整理しておかなければならないアクションがある。今日はそこについて触れておこう。
1.MCC(Model Cycle Chart)
聞きなれない言葉かもしれないが、ビジネスプランが経営的戦略の要であるとしたら、MCCは技術的戦略と言うことになる。
その商品に関わる将来に向けた商品のあり方や新材料・新技術との関係、さらに環境問題や法律(規制)に対応することなど、その商品が競合する他社の製品に勝るための技術的戦略なのである。
このMCCに基づいて各技術部門はしかるべきタイミングに合うように、技術開発や設備の準備をするのである。
この作業を怠ると、競合する他社に先陣を許し、常に後追いの商品を市場に提供することになり、コスト的にも不利な状態で戦いを強いられることになる。なぜならば、他社に追従する商品を付焼刃的に作り上げるがために、計画的かつ効率的な投資も行われていないし、低コスト化への研究も怠られているからである。模倣が世界一になることはありえないからである。
2.MCCの内容
何を網羅したら、機能を果たすか…商品によって異なるので一般的な内容について整理しておこう。
@ 法規制や禁止項目、社会の変化を把握する
最近ではグリーン法や、排気ガスや排熱の規制、産業廃棄物の処理規則、リサイクル法等数多くの規制法規が制定されている。
たとえばリサイクル法で規制されるものがあるなら、分解性のある構造にしていかなければならない。組み立て方法や、分解の単位も意識した構造や設計にしなければならない。特に排気ガスの問題などは死活問題で、エンジン本体で減少させるのか、コンバーターやフィルターで吸収するのか、方向付けをしっかりしておかないと商品として市場に出せなくなる。
A 内外製の戦略
何を内製するのか、アウトソーシングするものは何か、これも重要だ。アウトソーシングするものは、多くの企業で社内の技術力がやせ細っていく姿を見ている。重要なコンポーネントや部品、はたまた素材などを安易に外注化したり海外に振って失敗している企業を多く見てきている。目先のコストに振り回されて、戦略の無い企業がおおい。モノつくりは自分で作れなければ終わりと思うべき。
B モノつくりの技術
製造業はモノが作れなければ競争力を持つことができない。モノを作ると言うことは大きく2つに分かれ、
* 設計できること
* 製造できること の2点になる。
自分で設計できれば、いくらでも競争力を議論できるが、自分で設計できず、買い物で賄うなら、その買い物先の競争力で自社製品の競争力が決まってしまう。勝負する部品や装置は自分の手中に置かなければならないし、それを競争力ある品質と・コストで作り上げるのは生産技術力だ。これらを短・中・長期で睨んだ戦略を持って、初めて競争力が論じられるようになる。そうなると設備の計画や、モノつくりの計画が必要になってくる。いつまでにあの材質の加工ができるようになるか、あの工法が、あの熱処理が実現できるか、いつまでにあの精度の加工ができるか…この課題がMCCだ。
C 構造や仕組みの開発
製品(商品)の競争力は、FQCDが評価される。FはFunction、QCDはお分かりの通り。となると、当然そのFunctionを達成するための構造や材料が評価の対象になる。正にVEの出番となるが、これをいつまでに作り上げるかのプランがMCCになければならない。携帯電話にカメラ機能が付く。しからばどのような構造で実現したら勝負できる商品になるか、それは他社をにらむといつの発売になるのか・・・となるのである。
D 時間軸での管理
いつまでに何をしていくか、向こう5年、10年先を読み、手を打っていく。その時間軸に合わせて予算(開発費用や設備投資)や人員の確保や育成が図られ、その計画に沿って展開されていく。
当然ながら先の世界は見えているわけではないのでこのMCCを定期的に(毎年)見直し(Review)をして技術戦略の誤りを是正していくことが重要で、自社の研究が予定より早く完成したり、他社が予想より早く市場化してきたり、常にそれらの動きを把握して修正していくことが肝要だ。
3.ビジネスプランとの関係
では、ビジネスプランとの関係はどうなるのか:企業にとってビジネスプランは絶対のもので、このプランに沿って経営が回っていく。このプランを支えるのがMCCだ。チャートにすると、
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佐藤は多くの企業を指導してきているが、このMCCがない企業をしばしば見かける。このような企業の新商品開発はおうおうにして、思いつき開発で効率と競争力を失っていることが多いことを見てきた。また、モノつくりの、特に内外製戦略の無い企業がじりじりと世間から置いてきぼりを食っている姿を見ると情けなく思う。日本のモノつくりはこれで良いのかと・・。
したがってしっかりと技術戦略を持たねばならないことを強調しておきたい。
ご意見、お問い合わせは、vpm_y-sato@cam.hi-ho.ne.jp へ
(株)VPM技術研究所
所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE