佐藤の主張・佐藤の技術・・・その8 原価企画シリーズ−3 『原価企画の進め方−1』


            08年10月


まず、私の失敗をお話ししましょう。

私が携わっていた自動車の開発では、毎回SOP(Start of Product)の時点で目標コストに到達できず、タイミングを優先して赤字のプロジェクトとして度々やむなくスタートしていた。そしてこれではまずいと後からCR(Cost Reduction)を全社展開して、何とか採算に乗るアクションを取っていた。

そのためにやり直し設計とやり直し試験で膨大なリソースを費やし、それがいつの間にか習慣になって会社をダメにした。甘い管理や手法が、後工程に余計な作業を強いて、次の開発に支障をきたし、再び手抜きをせざるを得なくしての悪循環、そのうちに体力を失い(1991年決算で)「再建」なる大がかりな手術と闘病生活に入り、苦しんで、苦しんで健康体に戻して行った。

私のいた会社においては1989年から1995年(再建完了宣言)の出来事であった。責任は私にも大きく課せられるものであり、このシリーズでお話しする内容が、闘病型体験的マネージメントになっている。


1.なぜ目標に到達できなかったか:

 上記の反省を整理してみると次のようなことが挙げられよう。

*ゴールまで時間があり、それまでに何とかなるだろうとの性善説。

*フェーズごとの(数値)目標がなく、評価基準があいまいで、評価時点での正常・異常管理ができていなかった。

*目標の重みがなく(決定する根拠や、合意性が脆弱)で当事者の責任意識が薄かった。

*他責の論理が横行していた(企業文化)。

*見かけの達成はあっても抜け道があり(詭弁の文化)、結果、不採算プロジェクトとなり、収益は悪化していった。

*問題が明らかになっても節度ある(止める)マネージメントが存在しなかった。
 などなどであった。


2.原価企画活動の概要

 ビジネスプランについてはこのシリーズの2回目で述べた。以下の資料は、佐藤の原価企画のレクチャーに使うPPT.の資料であるが、MCCの要件を考慮したビジネスプランから、具体的な創り込みに入っていくことになる。全体の流れをまず2回にわたって概念的に説明し、更に追って詳細に触れてゆくことにする。


1)商品戦略

ビジネスプランの一部に含まれることが多いが、主としてMCCをベースにした、狙いどころ(Competitorを意識した競争力や商品性、技術要素、商品の使われ方・・etc.)を明確にした商品としての戦略を明確にする。ビジネスプランを補完する資料として使われることもある。

商品群の中のどのような位置づけにして、どのようなコンセプトの、どのようなコストの、どのような商品にするか、対象客層やマーケットを明確にして、商品の性格を絞り込む。

また類似商品との機能、コスト、スループットの相互補完関係を明らかにする。

この企画に沿って具体的な製品構想を作っていくのである。


2)販売戦略

どこのエリア(国内か海外か、海外ならどの国か)で、どのような売り方で、いくらで、誰が(直営か、提携相手は)、どれだけ売るのか。売り先と売りのトーク(他社比での優位性)、販売の段階的展開方法などを構想として整理する。

また生産構想とも関わるが、海外向けでは全くの完成品輸出なのか、部分輸出(KD=ノックダウン)なのか、将来の生産分担などを考慮すると、売り方が変わってくる。それらを戦略的に整理して、どのような製品にするかの方向づけをするのである。          


3)製品構想

商品構想は主として商いをベースとしたハードの構想であるが、製品構想は、商品としての狙いを具体的な製品の構造や新技術などを明確にして、商品の骨格を作る構想作業である。

具体的な内容としては、戦略を具体的にハードに落とし込むもので、まだ図面レベルのものではないが、目標が立てられるレベルの内容に詰める。

商品群のマップとユニット/部品の共通性、MD(Modular Design)や標準化、新技術に基づく新規設計か、Carry Overか、部品の一体化や装置・部品間の境界の取りあいなどがこの構想に盛り込まれてくる。

新材料の存在も看過できない。地球環境問題や、温暖化、更に近年に見られる基幹材料の高騰などを考慮したら、従来の延長では決して考えられないものである。

また、生産拠点(内外製、生産地)や設備との関係も意識して、作り方をベースとした最もQ・C・Dの最適な構造の企画をして、具体的装置設計におろしてゆく。


4)生産構想

 どのようなものを、どこで、どれだけ作るのか、市場(国内外)との関連、Mother Plantをどこにするか、将来の生産拠点展開、競合他社に引けを取らない新技術は何か、勝てる技術は何か、この開発に基づいて培った売れる技術は(商品を売るだけではなく、技術を売ることも商いだ)何かをモノつくり技術のMCCに基づいて新技術を明確にする。

また、内外製、物流、工法や材料調達などの構想を立てる。最近は特に生産のグローバル化が進み、部品やユニット単位の国同士の相互補完、ライバルメーカーである企業間の相互補完なども進んでいるだけに、全世界的規模での生産構想立案は必須だ。

たとえ世界的規模のグローバルな視点で瞬間的に最適と思われても、自社や発注先の将来の技術トレンドを加え、その商品の生産に関わる内外製を含めたモノつくりの構想を整理して、製品設計に反映すべく条件や具体的内容を示してゆく。

最近の製造業の動きには、近視眼的な内外製の判断で、海外からの調達で失敗をしているケースをよく見る。コストが下がると目論んで国内から海外へのシフト、しかしQはまとまらない、Cはじりじり上がり、Dも思惑通りモノが入ってこない。再度国内回帰を目論んでも、旧来メーカーから断られ(時に設備まで放棄済みで回帰不可になってしまっている)、更に技術は移転して(発注先に競争力をつけさせて)いつの間にか敵に転じてしまう現象など、まさに戦略としてしっかり判断しなければならない点をよく考えるべきである。


次回では、目標設定から検証までの概念に触れ、次次回以降、更に各論の展開を進めてゆこう。



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                   (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE