佐藤の主張・佐藤の技術・・・その10 原価企画シリーズ−5 『原価企画の進め方−3』


            

08年12月

 ビジネスプランから目標設定、そして原価企画の真髄、管理の所に入ってきた。
佐藤の失敗を含め神髄に触れていこう。まず以下のチャートをご覧いただこう。



5.進捗管理・・・管理フェーズの設定とマイルストン管理

目標は決まったが、どのように管理するか。ここが重要だ。ポイントは、

*管理フェーズの設定(どの段階で評価=チェックを入れるか)

*管理フェーズごとのブレークダウンされた目標の設定

*評価とGo or Stopアクションだ。



1)管理フェーズの設定

 佐藤の失敗経験に、「ゴールはまだ先だ」があった。そしてまだ先のゴールに安心しているうちに手遅れになって、会社をダメにしてしまったことが何度もあった。会社をダメにしてしまったというのは、特にコストや投資が数値目標に届かない。品質はどうにか届いている。期限は来た。このようなことを何度も繰り返し、何度も期限優先で発売に踏み切ってしまう。しかし採算は悪化しており経営的には新製品は悪影響を及ぼすことになる。結局発売後再び設計陣を動員して原価改善に取り組み、早々と見えないマイナーチェンジをする。このやり直し設計のムダは次の新製品開発の足をも引っ張ることになるわけである。また、このルーズな管理を許してくるが故に、管理技術や設計効率の仕組み改善に遅れを取り競争力のない会社になって行ったのである。

管理フェーズを決めよというのは、フェーズの進み具合に応じて目標が変化するからである。即ち開発途上ではまだゴールではない。そこでどのフェーズではどの数値に達すれば前へ進めて良いか否かの判断をする基準を決めることだ。最後に最終目標に到達できることが本来の目標管理になる。前述の事例のように最後にゴールできないようでは困るので中間でどこまで到達していれば正常か、異常かを判断しようと言うことなのである。

 そのためにどの時点で管理するのか、作業のピリオドを決めていくのがフェーズだ。構想を練った段階、大物(主要部品)の図面を描いた段階、試作車ができた段階、走行試験の1次が終了した段階・・・それぞれの商品でピリオドを決めて、そのピリオドをフェーズとして評価の基点にする。それがマイルストンだ。

当初に予定した目標と対比して、計画通り進んでいればGo。達していなければそこでStop。Goが掛かるように再設計する。フェーズはマイルストンの区切りだけでなく細分する必要のあるフェーズは更に細分する。特に設計段階ではこまめに管理しないと先に行って後戻りはあまりにも効率悪化をもたらす。

2)総括管理者

進捗管理をする総括は誰か、Go & Stopは誰がかけるか、管理組織をどうするか。この責任者が原価企画の鬼でなければこのプランはすべて水泡となる。自動車会社ではプロジェクトの大きさによって総括管理者が変わってくる。私の企業では、企業の命運をかける大プロジェクトは社長がその任を引き受けたこともあり、開発本部長が引き受けたりもした。中小のプロジェクトでは部長級が担当した。

どの階級であってもプロジェクトの責任者(PM)はそのプロジェクトの絶対の責任を負う人で、同時に権限も付与される。商品性や機能は勿論、売上の責任も利益の責任もPMだ。時に不適当なメンバーについては各部門に人の差し替えまで要求できる。個人の成績評価もPMがする。このくらい権限がないとPMは実力を発揮できない。

プロジェクトの進捗(フェーズごとの)管理も勿論絶対の責任をもって判断する。うまく行っていない場合のリカバリー策が見えなければ全体の動きを止めて、その対策に、総力を挙げて集中特化、一気に解決して再び通常の日程に戻して加速する。この采配が振るえなければPMの資格はない。また「原価企画」にならないのである。


3)個別責任者

これは自動車の開発で言うと、設計でもエンジンの担当、ボディの担当、駆動系(トランスミッションや動力伝達系)の担当のように装置ごとに責任者を決めて、その範囲内での目標管理をする責任者を指す。

この責任者も重要な役割を果たす。装置内での部品別目標の管理を行い、目標未達に対して技術的支援や時に目標値の変更などの判断をおこなう。当然個別目標は全体からおろされた絶対の目標があるわけで簡単に装置単位での目標を変えることはできない。となると装置予算内での個別目標のトレードオフや評価基準の見直しなどの責任を負うマネージメントをするのである。もちろん全体枠として決められた範疇での裁量だ。装置間のトレードオフはPMの責任で行う。


4)数値管理の支援


ここに登場する数値の精度は重要で、精度を欠くと後工程や、実際に製品として流れた時点で結果数値に誤差が生じ、せっかくの原価企画も水泡と化す。そこで設計者や生産技術、バイヤーなどこのプロジェクトに関与する技術者たちの資質が問われる。佐藤の経験でも当初は設計者がコスト評価ができずに苦しんだ時期を経て、全社挙げてこの仕組み(原価企画)を推進していくうちに、設計者が自分の図面のコストについて評価ができるようになり、漸くこの仕組みが定着していった経験がある。教育もした。支援もした。設計者は設計者でコストについて理論武装をし、バイヤーもどんぶりでのコスト評価からコストエレメントで議論をするようになっていったのである。

それでも、外製品では部品メーカーの窓口であり購入品の契約者であるバイヤーと設計者では立場が違い、しばしば評価が割れることがあった。同じように内製品では社内の製造担当・生産技術と設計者では思惑が異なったりした。そこでの調整役が必ず必要で、このような機能が社内組織にないとこの原価企画は上手くいかない。私のいた会社では原価企画部があったし、電機のS社は経理部が、C社ではCE(Cost Engineering)本部、などがその支援をしている。


6.検証              

1)開発での検証

 コストやクライテリア、各種の目標は共有されており、またそれが公の元で検証・報告され、プロジェクトチームメンバーの納得を得て進めねばならない。品質やクライテリアについては、実験部や品証部などの部署が客観的に判断したレポートをフェーズごとにまとめて報告をし、正常異常報告とともに異常があれば対策の指摘をしてゆく。

 コストについては中立的部署(前項の原価企画部、経理部CE本部など)が客観的な立場で数値集約をして報告・判断をしていく。大事なことは裁判官でもあるがチームメンバーだ。判断だけでなくコスト創り込みの技術的な支援ができないと、メンバーからの信頼は薄らぎ、原価企画制度そのものが崩壊する。


2)生産開始後の検証

目標に達成して、量産立ち上がり何日(週)で評価するか(初期流動期間)。評価項目はすべての目標、特にコスト(購入資材費、組立て工数)、品質・機能、生産量…これらはすべて実績で評価される。
重要なことは初期流動期間をどれだけ取るかだ。1号機から目標に達することは理想だが、作業者の習熟度や品質の押さえ方などで必ずしも円滑に流れない。いかに短期で正常(目標)に沿った生産ができるかがポイントになる。


3)市場評価



市場評価は発売後ビジネスプラン、販売構想に沿った結果が出たか否かを評価する。…販売量(予定通り売れたか)、ユーザー評価と市場実勢価格(予定価格で売れたか)など評価すべき項目が多い。それらが、当初の計画(目論見、目標)通り到達できたかが最終の成否の判断になる。何らかの処置が必要になることがしばしばあるもので、ここまで温存してきた予備費の活用でその対策を取ることになる。全く対策が必要なければ、ここで予備費は不要になる。


こうして、漸くプロジェクトは終焉を迎えることができるのだ。そしてその商品のマイナーチェンジやフェイスリスト、モデルチェンジの企画が、MCCに沿って、再びスタートするのである。



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                   (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE