過去のノート
2008・12

 誠に遺憾なことながら、ずっと餌づけさせて欲しいという希望も、手の中で眠る握り文鳥のままでいて欲しいという願望も、黒いクチバシでいて欲しいという要望も、ヒナ羽毛でいて欲しいという切望も、ことごとく裏切りながら、順調にヒナたちは成長してくれたのだった。もちろん喜ぶべきだが、やはり寂しい。
 イブ・シュー・ラックは、飼い主の寂しさなど気にせず、恐ろしいスピードで必要以上に飛び回り(右に行くのにわざわざ左に飛んで急旋回して行く)、粟穂をあっという間に食べ散らし、小松菜も残さず平らげる。それでいて、帰宅拒否のような不良化はしないでくれている。
 優等生でいい子ぶりっ子的なイブ、落ち着きなくちょこまか動くシュー、一匹狼的要素があるラック、今後どのような展開を見せてくれるのか楽しみだ。
 なお、オスかメスかはまだ判然としないが、イブとラックはオスでなければ驚きで、シューのみがメスの可能性を残しているといった感じだ。つまり、みなオスかもしれない。そうなると、一体何羽オスが続いているのか、望みもしない才能が飼い主にあるのだろうか(メス大歓迎)。

 さて、若い文鳥たちが活動的に飛び回る中、11月22日、ゴンが逝去した。
 この日は「いい夫婦」の日なのだそうだが、飼い主が卒業した高校では北条時頼の命日として知られている。高校の影の支配者である隣のお寺を創らせたのがこの時頼さんなので、クラスの代表者が連れ立ってお墓のある明月院(アジサイ寺)へ、「お礼参り」に行かねばならないのだ(理事坊主どもの職権乱用だと思うのだが、伝統なので止むを得ない)。もちろん、卒業生のほとんどは、このような行事など覚えているはずもないが、日本の中世史を勉強したことがある飼い主は、記憶しているのだった(こんな新説を昔書いた)。
 つまり、個人的に何とも忘れにくい日に、5代目の女帝陛下は御崩御あそばした。さすがである。なかなか出来ることではあるまい。
 いろいろ波乱万丈な一生で、この一年は飛ぶこともままならない状態だったが、気が強く最期まで堂々としていたように思える。まだ9歳だが、中身の濃い一生の中で老衰と見なしたい。
 自らの姿が彫られている墓石の下で、安らかに眠ってもらおう。

2008・11

 キューはもちろんのこと、ポンもテンもそれなりに育雛を手伝い、それぞれの一羽っ子を育ててくれた。もちろん妻たちは偉大だった。夫がしっかりしているので、シズは適当に息抜きも十分していたが、アイやカエは夜の放鳥にも出て来ず、完全な巣篭もりで飼い主の期待にこたえてくれた。
 かくして、3羽のヒナはそれぞれに順調だったが、アト・メイのヒナは残念なことになった。孵化予定日の10日昼、気がつくと底に孵化したてらしいヒナが冷たくなっていたのだ。目の下などに若干突かれた跡があったので、親鳥、おそらく父であるアトが排除したものと思われる。
 こういった事態は我が家では珍しいが、文鳥全体で見れば珍しいとは言えない。人間的解釈をすれば子殺しでありおぞましい事件だが、もちろん文鳥が自分の子供と認識した上で殺意を抱いた結果ではない。彼にしてみれば、今まで存在しなかったうごめく物体が、自分のテリトリーどころか腹の下に出現したのだから、驚かない方が不思議なくらいで、当然の責務としてその異物を巣外に排除するのに、何の不都合があるだろうか。明らかに無罪である。そもそも、文鳥の行動を人間の尺度で見るなど的外れもいいところなのだ。
 とりあえず、アトの子孫はしばらくお預けにするが(3羽のヒナで忙しい)、落ち着いてくれば、その「お方付け」を少し辛抱するようになってくれるだろう。

 かくして、ヒナ4羽体制は実現しなかったが、他の3羽の自然物たちは(引き継ぐまで飼い主が関与しない存在)、ゲコゲコ・ギャッ・ギャとエサをせがむ声を立てるようになっていき、まず13日にテン・カエのヒナを引き継ぐことになった。もちろん、引き継いだ瞬間から、自然物ではなく我が子となる。我が子は無事に育てねばならず、何事も他人事にすることは出来ない。すべては親である飼い主の責任だ。むしろ慣れているからこそ、意識的に気合を入れねばならない。
 そこで、今回も万全と思われる受け入れ態勢を整えて臨まねばならないが、基本的に昨年と変わらない。ヒナの入れ物は、ワラ製のおひつのフゴに牧草を敷いたもの。フゴのワラも牧草も湿度を保つのにも有効だ。それをガラス製の「育雛室」に入れる。これは、本来昆虫などの飼育用のものだが、上部に網があるので、そこにサーモスタット(温度調節器)に接続した上部ヒーターを取り付ける。さらにフゴを置く底部にはシート型の保温器があるので、上下から温まるようになっているわけだ。また、ガラス容器の中には湿度保持のための濡れフキンが掛けられるようにしてある。100円ショップで買ってきた吸盤のついているタオル掛けを付け、下にコーヒーろ過紙入れのプラスチック容器に水を入れて置き、フキンをタオル掛けからたらしているのだ。昨年からの変更点は、フキンの下にコーヒーろ過紙入れを置くことくらいだろう。
 その「育雛室」にダンボールをかぶせれば完成だ。もちろん、事前にセンサー部分がコードの先にある温湿度計で、サーモスタットの設定温度を調節し、フゴの中が28〜30℃程度になるようにしてある。
 エサは、市販のアワ玉に市販のパウダーフードを5%程度混ぜたものをベースにし、そこに特製パウダーと青菜ペーストを加えたものを与える。特製パウダーは、ボレー粉・カトルボーン・煮干・米ヌカ・ソバをそれぞれすり鉢で粉状にし、それに市販の粉状緑餌を加えて混ぜ合わせたものだ。一方の青菜ペーストの中身は、市販の小松菜と自家栽培の豆苗だ。これは毎日、または一日おきに作って冷蔵庫に入れておく。これも、粉状緑餌(クローバーなどの野草が原材料)以外は昨年と大差ない。
 これだけの準備をすれば、真冬で一羽であっても、問題が生じることはないだろう。少々気がかりだったのは、新しく迎えたばかりの嫁文鳥たちが、何らかの感染症(具体的にはトリコモナス)に感染していない保証はないので、それがヒナに感染する可能性があるかもしれないといった点くらいだ(万一不顕性感染であっても、不顕性状態では伝染させる可能性は少ないと思う)。

 このような少々過保護な環境で、13日に引き継いだテンとカエのヒナ、我が家のヘイスケの末裔11代目に当たるのに因み、イレブンから「イブ」と名づけられたヒナは、1羽でぬくぬくと育った。
 一週間後には、キュー・シズ、ポン・アイからもヒナを引き継ぎ、3羽体制となったが、特に問題なく育ってくれた。名前も、両親から一字ずつとって「シュー」、もう一方は風切り羽がすべて黒い(ブラック)ことから「ラック」と決めた。

 そして11月初旬現在、すでに3羽ともおとなたちに混じって飛び回り、日中はカゴで生活もし、一番下のラックも湯漬けエサなら自力で食べることが出来、上のイブはカナリアシードもむいて食べられるようになっている。まことに遺憾なことだが、餌づけ卒業(ひとり餌)も間近だろう。
 今後の活躍が楽しみだ。

2008・10

 初旬、ハルがまたしてもカナにちょっかいを出し始めた。もちろん嫉妬したデコに排除されるのだが、実はそのデコがハルを嫌っておらず(さえずって言い寄る)、ハルもデコが嫌いではないので(同様・・・)、お互いにケンカにはならず、押し競饅頭の末に何となく3羽でつぼ巣の中でたたずむなど、混迷を深めることになった。
 放っておけばどうなるか見当がつかないが、やはり何とかしなければなるまい。そこで9月9日重陽の節句、意を決して横浜市営地下鉄センター北駅の大型ペットショップに行く。この店は「商品」の回転が早く、仕入先はほとんど台湾のようなので、故センのように小柄で容姿の整った桜文鳥が売られている可能性が高い。前に行ってから数週間、「商品」は入れ替わっているはずだ。

 ペットショップ。オスとメスにそれぞれ分かれ、大きなカゴに入れられている。白・桜・シナモン・シルバー全種そろってもいる。メスのカゴをよく見ると、脚輪のある者とない者がいて、オスも同様に混在している。
 ・・・オスとメスを区別して売るのは当たり前で、区別していないとか、一羽ずつでは売らないなど許されることではない。生き物である限り、どちらかが先に亡くなるはずで、新しい伴侶を必要となるはずであり、その際に性別がわからないとか、ペアでないと売らないなど、有り得るはずがないのだ。そういった態度では、生体は扱う資格がない(販売の際の性別表示は「動物愛護法」上は義務。ただそういった要求をすると、扱わなくなるだけという現実もある)。
 さはさりながら、文鳥の雌雄判定は難しいのも事実だ。「長年の経験」により見た目で判断して流通させてしまう繁殖業者も多く、そうなると最大で50パーセントはずれてしまうことになる。例えば脚輪のあるのがメスとされて仕入れても、実はオスのことも多いはずなのだ。つまり、おそらくこの店では、仕入れ段階の雌雄の区別があまり信用出来ないことに気づき、店での観察で雌雄分けを実施した後にオス・メスのカゴに分けているのではあるまいか(オス・メスのカゴとは別にされている文鳥がいるのはその見分けのためか?)。これはその価格に比して面倒な作業に違いないので、実に立派と褒めてやるべきだと思う。空調は効きすぎて寒いし、文鳥と十姉妹と小鳩などを雑居させていたりするが、それを差し引いても、大型店としては見上げたものなのだ。
 さて、メスのカゴにいる桜文鳥は2羽。一方は小柄で濃い色合いをしたハル好みと思われる容姿をしている。つまり、故センに似た願ったりかなったりの桜文鳥と言って良い。しかし、飼い主の目にはヒナ羽毛を残すもう一方が好ましく思えて仕方がない。何となく意地悪そうな目つきで、白文鳥と親しくしているのが気に食わなかったのだ。性悪で白文鳥が好きでは困るではないか(シンの家庭を壊されては困る。何しろシンの妻のマルはハルのタイプではない)。それで悩んでいたのだが、とにかくハルの好みに合わせ、容姿以外の面は目をつぶることにした。
 店員のお姉さんは、例によって「確認書」を提示するが、現在飼育しているのを確認すると、その読み上げを簡略に済ませてくれた。もちろん簡略な説明に対しても、「はぁ〜い」とやる気の欠片も無い返事を繰り返すだけだ。この確認も、「動物愛護法」上は、生体販売の際に必ず実施することになっているので、やめろとも言えないのだ。しかし、危険動物ではないので、初心者用にペラ紙に簡単な飼育方法(これも環境省が用意してくれている)を印刷して渡すだけで良いと思う。そしてそれを渡した証拠に、お客さんにサインしてもらうなり、判子でも押してもらえば済むはずだと思うのだが・・・。
 法律の施行規則には「販売業者にあっては、販売をしようとする動物について、その生理、生態、習性等に合致した適正な飼養又は保管が行われるように、契約に当たって、あらかじめ、次に掲げる当該動物の特性及び状態に関する情報を顧客に対して文書(電磁的記録を含む)を交付して説明するとともに、当該文書を受領したことについて顧客に署名等による確認を行わせること」とあるだけだが(第8条第4号)、この説明を受けた確認の「署名」に住所・電話番号・氏名を書かせようとするお店が、しっかりした大きなお店に多い(小さなお店で「文書」を渡されたことは一度もない)。しかし、文書を交付した受領印が必要なだけなので、ここで個人情報を書かせるのはおかしいと言わねばならない。
 気分で出鱈目の住所・氏名・電話番号を記載する。
 とにかく、名前から「エコ」と名づけられた3,990円の桜文鳥は、数日の隔離の後にハルのカゴに放り込まれ、・・・ハルは一目で大喜びし、あっさり仲良くなり、10月5日現在産卵までしている。

 一方、ポン・アイ、テン・カエ、アト・メイの3カップルも順調で、我が家の子である夫たちの巣作りは芳しくないが、嫁文鳥たちは巣篭もりは完璧で、30日には11代目となるテンとカエの卵が孵化した(飼育数制限のため、途中検卵し有精卵を1個のみにしている)。
 また、このように書いている本日、10月5日、ポン・アイの卵も孵化した。アト・メイの卵の孵化予定は10日だ。そして、キュー・シズの卵も10月4日に孵化している。キューにとっては第2子となるが、キューとシズの間の子はどういった性格になるのか興味があり孵化を認めたのだった。
 すべてが順調にいけば、4羽のヒナたちが暴れまわることになる。楽しみにしたい。

2008・9

 テンとカエはすっかり仲良し夫婦となった。
 めでたしめでたし、だが、ハルの問題は何も片付いていない。彼はカナに強奪愛を仕掛けたような態度ではないにしても、カナ・オッキ・サイといった夫持ちのメスを誘惑し続けている。繁殖気分が高じてきた場合、強引な手段に訴えないとは限らない。つまり、他鳥の家庭を破壊する前に、新しい伴侶を見つけてやるのが無難には相違ないのだ。
 しかし、ハルは好みがうるさい。言い寄るメスは色の濃い桜文鳥ばかり(実は大本命はオスのキューらしく、彼にさえずることが多い。また、やはりオスで孫であるポンにもさえずる。そして、息子のデコには言い寄られているのだった・・・)、白文鳥たちは無視、桜文鳥でも顔の大きなマルやカエも無視、飼い主的には許容範囲のはずで一時同居したアイも無視・・・。難しいところだが、とりあえず桜文鳥で色が濃くなければならず、頬の白色部分の面積は小さくなければならないのかもしれない。
 せっかくの機会なので、シナモンやシルバーといった品種を後妻に迎えるのが飼い主の願望だが、このストライクゾーンのせまいハルはそれを認めてくれそうに無い。

 そこで、ハルの気に入りそうな嫁文鳥探しをする。しかし、かなりハードルが高いので、妥協して買わず、むしろペットショップの踏査を主目的にすることにした。何しろ、文鳥を買う予定がない限りペットショップには近づかないため、数年行ってないお店も多く、気になっていたのだ。
 ・・・かくして作戦は執拗に繰り返された。一体どれほどの交通費がかかったのか考えたくも無いほど、京浜急行、市営地下鉄、横須賀線、横浜線などに乗り、南は横須賀市、北は川崎市、神奈川県東部領域を経巡ったのだが、「これこそ!」と言えるメスの桜文鳥にはめぐり合えず、「これなら・・・」程度はいても、外見以外の理由で阻害要因が存在した(ペアで売っていたりオスかメスか分からなかったり)。
 結局買わずに、近所を継続的に繰り返し見に行くだけにとどめることにした。万一の場合は、ハルにカナを押し付け、デコにはシナモンかシルバーの綺麗な文鳥を迎えようと思っている。ただこれは、最悪の事態に限られる(結果的には全て丸く治まりそうな気はするが)。

 さて、9月3日にはペアのカゴではつぼ巣を箱巣に切り替え、繁殖シーズンの幕を開けた。その以前に「離れ」を改良し空きスペースを確保したが、ヒナを見てみたいペアは4組もある。テン・カエ、ポン・アイ、アト・メイ、キュー・シズ。さてどうしたものか悩ましいところだ。

2008・8

 新たに誕生したカップルのうち、ポンとアイは相思相愛だけに早々に産卵し抱卵するようになった。しかし、この両名は自主帰宅出来ないので、自由に往来しつつ適度に遊び適度に抱卵するといった生活は今のところ望めない。
 飼育数が上限を突き抜けており、真夏の孵化には何かと不都合もありそうなので(巣の中が蒸れてしまう)、とりあえず秋までは擬卵と取り替え、箱巣に切り替えた上で二世を考えることにする。
 それにしても、アイと言う嫁は大当たりであった。均整のとれた体格で安産、浮気もせず、順応性はすこぶる高い。現在は水浴びが趣味で、外掛け容器の水があらかた無くなるほど(お昼に一度交換しているのだが・・・)、繰り返し繰り返し繰り返し行っている。

 もう一方の嫁のカエは、換羽中で風采が上がらず、まともに羽ばたけない運動能力で飛び方を知らず、同居したテンには存在すら無視され、その状態は、換羽が終わり鑑賞に堪える外見になってからも続いた。少々かわいそうに思えたが、極端に虐待されない限りは同居を継続するべきだと信じるので、そのまま改善を待っていたのだった。
 この間、カエは特にめげることなく毎夜外に遊びに出て羽ばたきの自主トレを続け、8月になる頃にはかなり自由に室内を飛べるまでになった。そして、まさにそのことによってテンとカエの間も接近してきている。つまり、行動範囲の広くなったため、放鳥時間中にもテンとカエの接触する時間が増えたのだ。何しろ、テンは現在カナに付きまとい、その夫のデコと三角関係の修羅場を形成していたが、そこにカエの存在が一石を投ずるようになってきている。具体的には、カエ自身がつぼ巣をめぐってデコ・カナ夫婦と激しい抗争状態になり、その一羽で獅子奮迅する姿を、カナをめぐってデコにとび蹴りをされる立場のテンが、頼もしいものとして認識し始めたと見受けられる。
 敵ではなく味方になりそうな戦力なら、これは大事にすべきだろう。かくして、カゴの中でのテンとカエの様子は、徐々に良い方向に進みつつあるようだ。

 さて、アイやカエが我が家にやってきたそもそもの発端は、妻のカンに先立たれ息子の妻へ略奪愛を仕掛けたハルにあったが、彼は後妻として迎えたアイを虐待してポン(実の孫)の元に奔らせ、換羽になったカナには振られ、デコにはとび蹴りされ、仕方がないのでオッキにちょっかいを出したら、夫の巨漢ガブによる正面体当たり攻撃の餌食となり(プロレス技を調べたら「フライング・ボディーアタック」より「フライング・ボディーシザース・ドロップ」に近い印象かもしれない。いろいろ荒業が炸裂するので、プロレスファンも複数羽文鳥を飼うべきだと思った)、換羽中のカエにはまるで関心を示さず、結局飼い主と遊ぶことを選んだようだ。そして、現在彼の趣味は、放鳥部屋のブランコに乗り、飼い主に無茶苦茶に揺すられることにある。
 このままなら平和だが、問題は秋の繁殖期にどういった行動に出るかだろう。油断禁物、要注意だ。

2008・7

 17日朝、カンの容態に変化があり、昼には体調が悪い時独特の姿勢(羽を膨らまし丸くなって頭を背中の羽毛に入れてじっとしている)を示すようになった。
 2月にお腹の青黒い腫瘍を見て、胆のう腫と判断した時から覚悟は出来ていたので、特に慌てることはなく、なるべく放っておくことにした。そして、用事のついでにカン亡き後のハルの後妻を探すことも怠らなかったのだ。
 なぜそれ程慌てるのか奇異に思われるかもしれないが、妻のカンが亡くなれば、ハルは必ず他のメスに言い寄るだろうし、実はすでにその兆候はあった。ハルは実に感心な愛妻家ではあったが、病気で監視が行き届かないのを良いことに、特にカナ(息子デコの妻)にアプローチするようになっていたのだ。カンがいなくなれば、この行動の歯止めがなくなり、デコ・カナ夫婦を破綻させる恐れがある。従って、飼い主には、それを未然に防ぐ努力が求められるのであった。
 だが、ついでに立ち寄ったホームセンターには、カンに比するような桜文鳥のメスはいなかった。
 家に帰ると、カンはとにかくも存命であった。そこで、どのように考えても意味は無いのはわかっていたが、アルカリイオン水を点滴し、湯漬けエサを奨めてみた。点滴は気に食わなかったようだが、湯漬けエサは少しかじってくれた。
 夜の放鳥時間、下段の止まり木で丸くなっているカンを取り出し、どこで臨終を迎えるのを望んでいるのか考える。手の中か?しかし、しばらくすると首を伸ばして上を見る。そこで放鳥部屋上段のカンの定位置であるつぼ巣に入れる。・・・放鳥の終了時間、カンはつぼ巣で眠っていたが、そこで亡くなることはなかった。取り出して、カゴのつぼ巣の中に置く。結局、ここが望みなのだろう。
 夜間、様子を見に行く。ハルはブランコに乗り、カンはつぼ巣の中で右の頬を軽くつぼ巣にもたれるようにして眠っていた。もしかしたら、亡くなっているのではないかとも思えたが、見た目だけでは分からない。ここで、確認すれば夜中に騒動になるだけなので、そのままにしておく。
 翌早朝、昨夜の姿のまま冷たくなっているカンを取り出し、「文鳥墓苑」に埋葬した。

 ・・・それで、後妻を探さねばならない。それは、カンやカナと同じ桜文鳥でなくてはならない。
 ・・・そして、その日のうちに、昨年夏に愛知県から入荷したと店側が説明する桜文鳥のメスを購入してきたのだった(5200円)。愛知県生まれというからには、「アイ」と呼ぶしかない。
 我ながら何と素早い対応であろうか!と感心していたのだが、現実はさらに先を行った。誤算はカナだ。その日の夜の放鳥時、むしろ積極的にハルに浮気を持ちかけるではないか!こちらの計算では、ハルがカナに接近しても、最低4、5日は積極的には取り合わず平行線をたどるものと見ていた。しかし、両想いとなれば話は早すぎるほど早い。翌日の夜には、ハルとカナは夫婦気取りでカンの定位置であったつぼ巣を占拠し、夫のデコを含む他の文鳥たちを威嚇する情況を呈した。
 もう一つの誤算はデコだ。この文鳥はいつも眠たげな目付きをしていて、何か行動をすれば脚を滑らしたりずっこけたりせずにはいられない文鳥だが、それでも本来なら、妻の浮気相手を攻撃するはずだった(文鳥に浮気をする妻を攻撃するタイプと2種類ある)。そう、見た目ほど気の弱い文鳥ではないのだ。従って、いかに父のハルの方が体格で優っていても(彼は筋肉隆々の堅肥り)、簡単に妻を引き渡すはずはないのだが、実にこの文鳥らしい間の悪さで、初期換羽の倦怠感と重なってしまい、妻とその愛ジンに対しほとんど無抵抗の沈黙を守る醜態を演じることになった。
 まだ産卵するつもりらしいカナは、頼りない男を捨て、頼りがいのありそうな男に鞍替えしようと決意したに相違ない。カンを葬った翌々日には、カゴの中でも夫のデコを邪険に扱い、巣に近寄れば攻撃するまでになってしまったのである。
 離婚秒読み。この危機に飼い主は・・・、とりあえず、朝昼の短時間放鳥時に、ハルとカナがつぼ巣に入るのを阻止するため、そこに布巾を詰め、ハルを先に帰して、デコとカナだけの放鳥時間を設けるなど、実に細々しく涙ぐましい努力をし、22日を迎えた。

 この間「アイ」は、いちおうの様子見(軽い検疫)のため隔離飼育していたが、この日の朝からハルのカゴに移した。これで、めでたし、めでたし、になるほど世の中は甘くなかった。カナを想うハルは、アイを眼中に入れず、まるで仲良くしようとしない。
 しかし、効果は意外な形で明瞭に現れたのだ。夜、初放鳥で20羽超が飛び回り食べあさる世界に度肝を抜かれたアイは、いちおう半日同居したハルの近くに行こうとする。そのことで一気にカナの熱情が冷めたのだから不思議だ。女心はわからないが「私以外にも女がいたのね!」と言ったところだろうか。それまでテーブルの上にもほとんど降りずに、頭上のつぼ巣に固執していた態度が、嘘のように変化したのだった。
 しかも、ようやく換羽初期の倦怠感から脱したらしいデコが、まさにこの時から反撃に転じた。巣を離れ、人間の肩に憩うカナを迎えに来たハルを威嚇攻撃したのだ。もちろん、飼い主もこっそり助勢してハルを撃退、それを見ていたカナがデコを見直し・・・、元のさやに収まった。
 安心したのか、翌日からカナも換羽モードに切り替わり(恐ろしく切り替えが早い性格なのだろう)、ハルにもつぼ巣にもまるで興味を失った。
 これでハルがアイを認めれば大団円だが、もちろんそのような事にはならず、ハルはカナを追い続け、無視されれば今度はオッキに言い寄り、その巨漢の夫ゲンの猛烈なボディアタックを受けながらも、同居中のアイを無視、もしくは邪険に扱い続けた。
 
 捨てる神あれば拾う神ありで、アイに一目ぼれした文鳥が現れた。ようやくヒナ羽毛を脱ぎ、美しい姿に変貌を遂げたばかりのポンだ。夜の放鳥時につかず離れず行動し、一緒につぼ巣に入るまでに3日とかからなかった。
 一方、ハルは改心せず、むしろさらに攻撃的に接するようになってきたので、これを別居させた。それなら、ポンとアイを同居させれば良いのだが、そうなるとテンも1羽になってしまう。いちおうテンの嫁候補、もしくはハルの後妻候補として、もう1羽メス文鳥を迎え入れた方が波風は立ちにくいように思われた。
 そこで、飼育羽数の個人的上限(20羽)の問題と財布の中身の問題に苦悶しつつも、再びメスの桜文鳥を探しに行く事になった。アイの時同様に桜文鳥でなくてはならない。なぜなら、ハルにせよテンにせよ、白文鳥にはまったく興味を示さないからだ。
 迎え入れる準備を整え、以前から行ってみたかった平塚市まで遠征したが、唯一候補が売られていた地方百貨店の最上階のお店は、メスの価格がオスの2倍以上という恐るべき価格設定であった。換羽中で見栄えがしないこともあって買い求めず、カナに似ているのを探すなら買ったお店が一番だと考えを改め、平塚から大船下車してバスに乗り金沢八景に向かった(この転進を思いつくのはかなり異常だ)。
 そして、お店のおじいちゃんが「メス」と言い、クチバシがどうのと説明したヒナ換羽中の桜文鳥を購入してきたのだった(4500円)。とりあえず、六浦(ムツウラ)にあるお店(最寄の駅は京急金沢八景)の出身でおむつが取れていないような幼さなので、「ムツ」と呼んだその文鳥は、個人的には何となくオスに見えた。確信などないが、6対4でオスの確率が高く思えたのだ。もっとも、そもそも見た目で文鳥のオスメスが分かるとは信じていないし、自分の観察眼などまったく信じられない。とりあえず、見た目でも分かると思っているらしい年長けた店主はメスとしており、客観的には確率5割のはずだ。隔離飼育しながら様子を見ることにした。
 「ムツ」は、おそらくカナがそうであったように、手乗り崩れ(お店で餌づけされ売れ残った文鳥)と予想していたが、実際は神経質な荒鳥らしく(親鳥が育てた非手乗りの文鳥)、緊張し人間には打ち解けようとしなかった。やって来たのが28日、29日中は緊張してほとんど動かず青菜をかじる程度(ブランコには乗った)、30日になってアワ玉を食べ散らすようになり、7月1日になっていろいろ食べあさるまでにリラックスし、そして午後からさえずった。繰り返し、繰り返し。
 オスでは仕方がないので、翌日午前中にお店に電話をし、午後にそのオスの文鳥を連れてお店に行き、換羽中の成鳥と取り替えたのであった。白い脚輪のあるその桜文鳥は、それまでオスとペアで飼育されていたようで、今度は間違いなさそうだった。換羽が終わってもそれ程美鳥になるようにも見えなかったが、他に選択肢がなかったのだ(他のメスは白文鳥)。取替えでやって来たので、「カエ」と呼ぶことにした。

 どういった展開になるのか、楽しみ半分、恐れ半分といったところだ。

2008・6

 誠に有り難いことに、せっせと「文鳥墓苑」の手入れを続ける飼い主とは無関係に、ゴンもカンも特に悪化せずに過ごしている。
 ゴンはゆっくり換羽をしつつ、総じて見れば体調は良いようで、放鳥時間も気が向けば飛び降りてくる。なお、危険なので、念のため下にクッションを敷いているが、とにかく気まぐれな飛び出し及び落下なので、目撃した他の文鳥が騒然となってしまう。
 一方のカンは、ずいぶんとお腹が膨れてしまっているものの、食欲は衰えず色つやも悪くない。毎晩の放鳥を楽しみにしていて、飼い主に高みにあるつぼ巣へ送り迎えさせ、放鳥時間の半ばで湯漬けエサを要求する程度に、わがままで元気だ。
 両者ともに、このまま、何となく夏を乗り越えて欲しいところだ。

 今年はきわめてスムーズに換羽に移行している。つまり、一部をのぞいて一斉に換羽となり、クラ・シマ・オッキ・ハルの禿げも修復が進んでいる。
 願ってもない展開なのだが、ただ、最も換羽して欲しいミナの換羽への移行が鈍く、その点だけが気がかりだ。

 さて、一足早く換羽を終えた寡婦のメイ。換羽前は昔のペア相手であるシンと(ペアとしてお店で売られていた)、毎晩浮気を繰り返していたが、換羽を終えればまた浮気をしようと考えていたに相違ない。ところが、シンの方は換羽の真っ最中で、浮気に応じる状況ではなかった。
 しかし、お盛んなメイ、タイプの若いオスがいるのに気付いた。何しろその男の子は鈴マニアで、毎晩チリンチャリンとドングリ型の鈴を乱れ打ちにし、嫌でも耳目をひいていたのだ。けたたましい音に何事かと注目すれば、そこに自分好みの若いオスがいるのだから、積極的に接近するのは当たり前だろう。何しろ彼女は人間的つつしみの必要はない文鳥であり、そもそもメイというキャラクターは、夫の前でも平然と浮気するのだ。
 アト。生後6ヶ月のこの文鳥は、メイが知るわけはないものの、愛ジンのシンと、当初同性ながらメイと恋ビトのように仲が良くなっていたマルの息子だ。特に顔の大きな外見は、母のマルに似ており、マルに好意を寄せた文鳥なら、こちらに興味を持ない方が不思議と言えた。飼い主は、そこに気づくべきだったのだ・・・。
 確かに、飼い主から見れば「末っ子のひとりっ子」のアトに、浮気者の年上女房を押し付けるなど有ってはならないことだ。しかし、はなはだ遺憾なことに、鈴を鳴らす自分に至近から熱視線を送るメスに対し、我が息子が興味を持たないように仕向けるのは無理であった。もし、事前に警戒したとしても結果はおそらく同じだったが、何の心の準備もないままに、動かしがたい現実を突きつけられることになったのであった。当然のように、アトはメイと行動するようになり、飼い主にまとわり付くことは無くなってしまったのだ!この点、白文鳥には鼻も引っ掛けないキュー・デコ・ポン・テンなどと、彼は違っていたのだった(何しろ父親は白文鳥だ)。
 捨てられた飼い主として次に行うべきは、2羽を同居させることだ。感情としては釈然としないが、このまま放置して別居を続ければ、早晩にも、メス文鳥のオスを呼ぶ魂の叫びを聞かされることになるのは必定なのだ。概して文鳥の鳴き声は、「チヨ・チヨ(千代千代)」と表現されるように、優しい柔らかなものだが、あの叫びは別格に耳障りで、出来ることなら未然に防ぎたい。従って、黙って新居を用意し、2羽の同居を始めた。
 ・・・結果、腹立たしいくらいのスムーズさで、2羽はペアとして生活を始めたのであった。めでたし、めでたし・・・。

 弟分というか後輩のアトに、すべてにおいて遅れをとったポン・テンは、ようやくヒナ羽毛を脱ぎ、おとなの姿に変わろうとしている。 2羽とも頭が小さくスタイルの良い、ようするに「現代風」な文鳥になるに相違ない(頭の大きなアトは「時代劇風」だ。コノエジュウシロウとかミフネトシロウといった響きが似合う)。美男子たちの相手探しが今後の課題となるだろう。

 

2008・5

 ゴンもカンも、特に悪化せずに過ごしている。
 ゴンは外付け水浴び器で自主的に水浴びをしたり、一時換羽もあってだるそうにしていたりと、微妙に好不調の波があるものの、総じて見れば体調は良いのかもしれない。
 一方のカンも、お腹が引っ込むといった奇跡は起きないものの、毎晩放鳥時にはカゴの外に出ようとする積極性を示すようになっている。こちらも、暖かくなって幾分調子が良くなっているのかもしれない 。

 こういった話を、その生前にするのは不謹慎な事だと思われようが(すでに墓石の文鳥はゴンの写真なのだが・・・。早く入れというのではなく、逆説を狙った。ある程度成功しているといえる)、この2羽の最期が近いのは避けがたい事実と見ており、「文鳥墓苑」を手入れしつつ、そこの花が咲くのを見れば、今がそれこそ一番良い季節だと思えてしまう。
 そういった飼い主の一種の思惑を裏切って、元気でいてくれるのは、実に有難いことだ。
 花、墓苑の前方のサフィニアミニミニなる白い花は咲き始め、正面向かって右のテンノウメは地味ながら満開、左のシロナンテンは花芽が成長中だ。背後のプランター植えたナデシコやアレナリアモンタナ(黄色いのは「かぐや姫」)なども絶好調に満開となっている。

 他の文鳥たちはすこぶる元気だ。マルが軟卵を連続して産んで、飼い主の背筋に冷たいものが走ったが、マル自身はまるで平然としていた。他の文鳥とは基礎体力が違うのかもしれない。
 5月となり、いい加減に産卵をやめてもらい換羽に移行してもらうためもあり、箱巣をつぼ巣に切り替えた。これは例年通りだが、今年はいつも使用していた会社のつぼ巣が仕様変更になるは、メーカー欠品が何ヶ月も続くは、といった体たらくのため、いろいろなメーカーの製品になっている。マルカン製が5個、NPF製も4個、黒瀬製が3個、カワイの中古が1個だ。抵抗があるかと思ったが、放鳥時間に見慣れさせていたこともあってか、特に激しい拒否反応は無く、何となく換羽に移行してくれそうな気配になっている。
 順調に換羽を終えて、夏を迎えたいところだ。

 

2008・4

 カンはその後も変わりなく生活出来ている。多少お腹の膨らみが目立つ以外は、衰弱する様子はない。これもこの病気の特徴なのだと思うが、元気に食べられるというのは良いことだ。

 一方ゴンの老衰はゆっくりと進行中なのか、 もしくは落下の衝撃で脚をくじいたのか、歩行困難になりつつある。カゴを開けておいても出てこないので、閉めておけば良かったのだが、開けておくと他の文鳥たちが冷やかしに立ち寄るので(主にポン・テンとシマ)、それも老後の刺激になるし、やはりたまには遊びに出て来て欲しい。いろいろ悩みつつ結局放鳥時間は開けているのだった。
 しかしこの配慮が失敗の元になるのは明らかで、突拍子もなく出て来ようとすることが何度かあった。うち2,3回は近くにいたので慌てて手を出した。素直に乗り移る。1秒後にはテーブルの上に下ろせる。そして、ゴンは何の問題もなくゆったりエサを食べることも出来るはずだ。ところが、その1秒をどうしても待ってくれない。次の瞬間には飛び降りるというか、真っ逆さまに落下してしまうのだ。まったくの自殺行為だが、落下し仰向けになると、もがいてもなかなか起き上がれず、助けようとするとまるで被害者は自分だとばかりにギャーギャーと騒ぐ。この断末魔の叫びで、他の文鳥たちもパニックに陥るまいことか。大騒動になるのは言うまでもあるまい。
 とにかく、脚の不自由度が増しているようなので、カゴをバリアフリー化する。といっても大したことではなく、床面を底上げしてつぼ巣などに入りやすくし、エサ入れを床面からでも食べやすいものに取り替えるだけだ。ただ、今回は床面に新聞紙を敷くと、横転した際に立ち直れない危険がありそうなので、あえて底網ごと底上げすることにした。また、下段のつぼ巣の上を定位置としているゴンの習慣を考慮し、皿巣も設置した。覆いはいらないのかと思ったのだ。
 ゴンは飼い主の意図を理解したのか(理解するなら、ギャーギャー叫ばないような・・・)、日中は皿巣のヘリに止まって過ごし、夜間はつぼ巣の中で眠っている。おかげで、つぼ巣の上では汚れ放題だったお尻が、あまり汚れなくなった。つぼ巣の上面にこびりついたフンが、お尻や尾羽に接触して汚していたのだが、皿巣はへこんでいるので、フンが接触しづらいのだ。それだけでも、とりあえず今までよりも快適だと思える。ゴンナ女王陛下には、美しくあり続けて欲しいところだ。

 換羽の気配が徐々に強まってきているが、産卵も続いている。巣の外での産卵や、ゴム上の卵(殻がない軟卵)も見かけるようになってきた。これは、産卵期末期の現象と見なせるので、十分に栄養を摂らせ、スムーズに換羽に移行してもらおう。

2008・

 この間、カンは飛翔能力は落ちたものの、食欲はあり、通常の生活を続けている。自由自在に動き回れないので、カゴの外に出て来ないこともあるが、のぞきに来るポン・テンなどを威嚇して蹴散らす元気はある。
 夫のハルは、アゴと上クチバシの根元が見事にはげているが、これはカンの仕業ではないかと思われる。ハルは病気の妻に連れ添い、なかなか感心な夫なのだが、そのご褒美に、必要以上の毛づくろいしてもらうのだろう。

 ポン・テンは男同士だが、実に仲良く生活している。青菜と粟穂が大好きなのも一緒なら、ヒナ換羽が途中で止まっているのも一緒で、外見では後輩のアトに完全に抜き去られてしまった。何しろアトは完全におとなの姿になったのに、ポンはヒナ羽毛の方が多く「半ズボンの高校生」のままだ。
 この2羽には、将来的に嫁を迎えなければならないが、せっかくなので、1、2年同居してもらおうと思う。

 メスたちの産卵は続いており、年長のゴンはボロボロで引きこもっているが、最近の心配はヤッチにある。
 昨年の換羽以来文鳥が変わってしまったが、最近その神経衰弱が再燃しつつある気配なのだ。何しろ、帰えす際に腕にも乗らず(手には乗らなくなっている)、消灯し捕獲すると断末魔の悲鳴をあげるから始末に悪い。
 ・・・今年の換羽は軽いことを望みたい。願望としては、元の性格に戻ってくれることだが、これは難しそうだ。

 

2008・

 若い衆、ポン・テン・アトは何の遠慮も無く成長し、ヒナ換羽で変身中だ。テンとアトはすでに頭は真っ黒になり、どういった姿になるかわかってきている。テンは色の濃い桜文鳥。風切り羽に白いものが多いので、もっと白い差し毛が入るかと思ったが、そうはならなかった。アトの方は、お腹の白い桜文鳥。こちらは白い差し毛がところどころ出現したので、ごま塩化するかと期待していたが、頭は真っ黒になっている。年々白化するかもしれないが、まずはごま塩とは言いがたい姿になりそうだ。
 一方、最も早く生まれたポン。いわば兄貴の彼は、弟たちがおとなの姿に変わっていく中で、迷彩柄のままヒナ換羽を休止したようだ。これを我が家では「半ズボン高校生」と呼ぶ。当分そのままであって欲しいところだ。
 目論見としては、ポンとテンにアトが合流する形で、悪トリオが結成されることになっていた。しかし、大きな顔のアトは態度も大きく、兄貴分を立てる気など欠片もないため、2対1の抗争関係となっている。
 考えてみれば、まだアトがオスである確証は無いが(ぐぜりを目撃していない)、万一メスなら前代未聞の女傑だ。活動量としてはセーヤに遠く及ばないが(この文鳥はいつ寝ているのかわからないくらいであった)、「腕力」「気力」が尋常ではない。何しろ顔が大きいので迫力がある。歌麿の大首絵とまではいわないが、昔の時代劇スターのようだ。和服を着れば似合うだろう。この点、首が小さく端正な顔立ちでスマートなポンとテンはジャニーズ系であろうか。

 さて、若い文鳥たちの成長を楽しむと同時に、不安も募ってきていた。カンの調子が優れないのだ。飛び回るしエサもむさぼるように食べているが、水浴びをせず、ふくらみ加減の時が目立ち、何より目つきが散漫になってしまったのだった。
 兆候は1月の初めからで、卵づまりや卵材料停滞を疑ったもののお腹にそういったふくらみも感触も無かった。そこで、とりあえず市販薬を与えて様子を見ると、数日で元気を取り戻したので安堵したものの、その後もあれほど好きだった卓上水浴びをしないので、本調子とは見なせない状態が続いた。
 ペローシスで生まれた文鳥なので、加齢にともない体質の虚弱化が起きているのかもしれないと考えてみたが、病院には行かないことにした。慢性症状と見なせる時には、極力病院には行かない主義になっているのが前提となるが(ビタミン剤などもらっても意味が無い)、身体的にはペローシスでハ行しており、性格的には気が強く、さらに夫婦仲が大変に良い文鳥であれば、早く行けば助かると、あくまでも飼い主が素人判断した場合以外には、病院には行こうと思えないのだ。
 そのような状況で下旬となり、30日には未消化便を確認、再び市販薬を飲み水に混ぜ始めた。この期に及ぶと、素人なりに具体的な病名がわかるような気がした。産卵障害ではなく、活動的ではあり、食欲もあり、体重は落ちていないものの未消化便…、しかし、有難いことに診断を下す必要はない立場なので、春を待ちつつ回復を願うことにした。
 ところが2月3日になって、誤魔化しの利かないものを見ることになった。カンのお腹が膨れて見えたので、捕まえて確認すると、ふくらんだ箇所に内出血したような黒い塊がはっきりと存在していた。こうなったら、胆のう腫と認めないわけにはいかない(もちろん素人なので、見誤っている可能性がなかったらおかしい)。これは、不治の病、死の宣告そのものだ。原因も治療法もわからず、黒い塊が現れたら、余命1年以内とされている。塊を視認しなければ判断出来ず、判断したところで治療法はない。要するに、早期発見など出来ず、比較的に早期発見だと思ったところで意味がない病気と言える。
 カンの曾祖母のソウは、おそらくこの病で亡くなっている。最期まで活動的ではあった。飼い主は余計なことを考えず、カンにも活動的に過ごしてもらわねばなるまい。

2008・1

 1999年10月下旬の生まれ第5世代のゴンは、昨年の初めころから、運動障害や老化現象が目立ってきている。春に従順な年下の夫キタに先立たれ心配したが、夫を失ったことでの衝撃はそれほど強く現れず、換羽や夏を乗り越え、ゆるやかに老化を進行させつつ冬を過ごしている。
 隣カゴの曾孫キューに思いを寄せ、その妻センの急逝に色めきたち、また後妻にシズがやってくると、それを排除しようとする気迫も見せてくれた。その後、恋に破れたのを悟ったのか、幼い頃にクルクル回して遊んだ回転鏡に映る自分の姿に見入る日を続け、そして最近ではカゴの外に出てこなくなっている。飛べないので億劫なのだと思うが、指に乗せて出してやると、途中で自力で飛んでしまい墜落、混乱して逃げ惑うので、無理に出すのは止めにした。
 春になって、少しは身が軽くなってくれることを望む。

 一方、第10世代のヒナたちは、みな順調に成長し、オスかメスかで楽しませてくれた。そして、案の定というか、すべてオスという結論に達しようとしている。
 上旬には、ポンがキューの「付き鳥」になり、そのさえずりを熱心に聴くのでオスと推定していたが、中旬にはぐぜりが聞こえ始め、やがてその姿も確認された。ポンがオスなら、テンにはメスであって欲しい。幸いにも、ぐぜりの音が重なって聞こえることが無かったので、テンはメスではないかと期待していたのだった。ところが、年末になってぐぜっていたとの目撃情報があり、年が明けるとその姿を目撃したのであった。これで、テンがオスなのも決定。
 約1カ月遅生まれのアトは、まだぐぜり始めていないが、オスと推定させられている。例えば、ヒナの時に手の中で攻撃的になり、グルグルガルガル言う個体がオスでなかったという記憶が無いが(テンもそうだ)、甘えん坊のアトはこれが顕著なのだ。そもそも甘えん坊はオスに多い。また、メスなら後輩として先輩のオス2羽と、そこそこうまくやっていけそうなものだが、実際はまるで打ち解けず、お互いに完全にライバル視しており、敵対関係のみで推移している。
 よって、アトがメスである可能性は、すでに絶望的なレベルでしか残されていない。となれば、ヤッチ、ハル、キュー、デコ、ポン、テン、アトと7羽連続でオスになる卵を選んでいる飼い主は(テンは選択肢無し)、悪魔的天才と言うべきだろう。しかし、オスを選ぶ意図など微塵も無い以上、間の抜けた運命のイタズラに過ぎないと考えるのが自然かもしれない。この際、いつまでオスが続くのか楽しんでやろうではないか。

 3羽オスなら、いつかは嫁文鳥を迎えることを考えなければならない。いや、すでに1羽妙齢で独身のメスがいた。メイ、秋に夫のオマケに先立たれて以来、シンと不倫関係にある白文鳥だ。
 メイはシンとペアとして売られていたのだが、なぜかシンを嫌い、マルと一緒になって迫害した過去を持つが、現在そのようなことはすっかり忘れ、毎晩シンと浮気することを待ちわびている。ところが残念なことに、シンには家庭があり、妻のマルの教育もあって、抱卵のため自分でカゴに帰るようになってしまった。・・・1羽残される妾鳥、旦那の姿を追っても、彼はいそいそと箱巣にこもってしまうのであった。
 我が家のオスには、白文鳥を認めない風潮があり、妙齢で人の目から見て容姿がそこそこ整っているメイを誘惑するオスは少ない。いや、ほとんどいないと言って良い(シン以外はクラが少しちょっかいを出すだけ)。ここは一つ、3羽の小僧たちに幼い頃から慣れ親しんでもらい、ゆくゆくは同居してもらおうではないか。
 しかし、白文鳥を仲間とすら認めないらしいキューに師事するポン・テンは、この白文鳥に対する偏見まで学び取ったのか、まるで関心を示さない。最後の頼みのアトは、メイのほうが恋敵のマルに似た顔立ちを危険視しているのか、放鳥中気がつくと巣をめぐって言い争いをしている。
 今年も何かと前途多難だ。

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