頂いた事例と検討


7、♂シルバー(♂シルバー×♀ライトシルバー)×♀シルバー(♂シルバー×♀ライトシルバー)
 =♂シルバー、♀ライトシルバー
 2004・6by「すぎ」さん〕


 自家繁殖。両方シルバー文鳥だが、細かく見ると、オスは4羽ともシルバー、メスは2羽とも薄い色になった。この違いに何か意味があるのだろうか?

 いよいよ文鳥の羽色遺伝も複雑化してきたことを思い知らされる事例です。性別による羽色の相違ということは、最近「ダークシルバー」の出現で指摘されることもある伴性遺伝の可能性があります。
 伴性遺伝とは性染色体上にある因子が遺伝に関与することですが、鳥の場合、性染色体はZとWであらわされますが、そのZ染色体に遺伝因子が付随していると考えられます。なおZZがオス、ZWになるとメスになります(人間の場合【XY男/XX女】と逆 で、X染色体上に付随する因子により伴性遺伝が起きる)。
 事例の場合、Z染色体上に色を薄くする因子(仮に´)が存在すると仮定すると説明がつきます。
 母シルバーはZW、父シルバーは実は薄くする因子をもつZZ´とすれば、生まれる子どもは、ZZ、ZZ´、ZW、Z´Wとなります。このうち対抗する「Z」が存在すると薄い色はあらわれないとすると、オスに「ライトシルバー」は生まれず (ZとZ´が対になるとZの形質が優性)、メスの半分は「ライトシルバー」になる理屈となります。
 これは「ダークシルバー」にメスが多いらしいのと同じ理屈です。オスが濃くなったり薄くなったりするためには、Z´が対になるパターン、Z´Z´以外にはないので、メス側が「ライトシルバー」なり「ダークシルバー」で、オスも同じか、その因子を持っていないと出現しないことになります。
 実に面白い話です。

 シルバーの羽色の濃淡に、Z染色体上の因子が関与している可能性が持たれます。
 ただ、この因子は、桜や白との交雑が進むと、貴重なものになっていきそうです。品種としての固定は出来ないまま、消えていってしまうかもしれません。

 


6、シルバー×桜文鳥=桜文鳥 2003・2by「ちゅん&くう」さん〕


 自家繁殖。オスがシルバー文鳥、メスが桜文鳥〔ノーマル的〕。
 生まれたヒナ1羽は母似の桜文鳥だった。色彩遺伝表の120のとおりなら、ダークシルバーが生まれるはずだが・・・?

 最近では、シルバー文鳥と白文鳥のカップルから、桜と白の生み分けるケースも耳にします。これはおそらく、私が当初考えたのとは異なった遺伝タイプのシルバー文鳥が出現していることを示しているようです。
 シルバーの遺伝因子をgsは有色の因子gと結びつくと、色濃淡の相加遺伝を起こし中間種ダークシルバーとなると考えたのですが、このgsが普通の有色因子と同じ働きをする系統が出現しているようです。この新たな系統のシルバー文鳥は、他の色彩の文鳥と交配した場合、桜、もしくはノーマルと同じ遺伝特性をあらわすものと思われます。

 シルバー文鳥の個体数が増え、遺伝特性の異なる系統が生まれてきているようです。

 


 5、シナモン×白=ゴマ塩 2002・7by「かほっち」さん〕


 自家繁殖。オスが白文鳥、メスがシナモン文鳥〔赤目〕。
 生まれた9羽のうち8羽が完全なゴマ塩文鳥で、1羽が桜文鳥だった。色彩遺伝表の13〜15のとおりなら、ゴマ塩が生まれるはずはないが・・・?

 「桜文鳥」もヒナ段階ではクチバシにピンクの部分があったそうですから、外見はともかくゴマ塩の範ちゅうと見なせそうです。すべての子供がゴマ塩になったとすれば、これは2の事例と同じくシナモンがアルビノ的な劣性遺伝と考える限り、ありえない話です。
 100%ゴマ塩が生まれる親の組み合わせは、7白〔関東型〕と桜のみですから、事例2と同じく、この母シナモンは桜、もしくは原種と同質の色彩遺伝をしていると考える以外になさそうです。
 ただ、問題なのは「赤目」であることです。赤目=色素の欠乏=劣性遺伝によるもの、と単純に考えていたのですが、そうとばかりはいえないようです。シナモンの外見も精査して検討する必要があるのかもしれません。

 シナモンに劣性ホモによる系統以外(遺伝的には桜的)が存在するのは、明らかになったように思います。
 また、目の色での単純な区別は不可能といえるでしょう。

 


以下の説明でのパターンは『文鳥学講座第5回』の交配表の番号です。

4、シルバー×白=原種・ダークシルバー
                     ・白・ゴマ塩
 2001・1by「Yamamoto」さん〕


 自家繁殖。オスが白文鳥、メスがシルバー文鳥。
 生まれたのは6羽。原種2、ダークシルバー1、白2、ごま塩1であった。パターンでは当てはまるものがないようだが・・・?

 この事例は、おそらく説明不可能です。優性遺伝に固執する限り、このような多彩の産み分けは考えづらいのです(優性遺伝で考える場合、中間色をつくる要素と混色を作る要素を併せ持っているものと考えざるをえなくなり、複雑化する)。あるいは、相加的要素や伴性遺伝などを含めて考えなければいけない可能性も出てきます。
 しかし、あえて仮定パターンに当てはめれば、Jかも知れません。つまり、生まれたのは、遺伝子的にはダークシルバーと白文鳥なのですが、たまたま色が濃く出たために原種に見えたり、本来は白文鳥ながら、若干有色羽が多い個体であるために、ごま塩に見えている可能性は考えられるというわけです。
 ただ、このごま塩はシルバー色の尾羽をもち、頭が黒い斑紋になっていると説明されているので、有色部の多い白(換羽をするうちに純白に変わる)とは言えないようです。原種・白・シルバーの要素を同居させているというのは普通ありえないので、とりあえず遺伝的にはイレギュラーな存在と考えた方が良いかもしれません。

 3と同じ組み合わせながら、別の結果となっており、シルバーは確立してまだ日が浅いため血統は近いと考えれば、白文鳥の側に系統の違うものが存在することを証明する事例と言えます。その点優性遺伝の法則を基礎にした私的な仮説にも有利ですが、4種への産み分けが認められるとなると、文鳥の彩色はさらに複雑な要素から成り立っているものと言うことになります。
 ダークシルバーについては、桜とごま塩の区分が不明瞭なのと同様に、遺伝子型と表現形質が明確に一致せず分類が難しい場合が考えられ、やはり事例を積み上げていくしかないようです。

 


 3の事例で「絶対に薄い色のシルバーの子供は生まれないか」とのご質問がありました。アドレスの記載がありませんので、ここでお答えしておきます。
 絶対ないとは言えませんが、おそらくないと思います。それは、白に桜では中間の色合いにはならず、ゴマ塩という混色になる理屈と同じです。これは、おそらく白色の因子(仮にw)と有色の因子が、色彩面で中和しない性質を持ち、両方の形質が現われゴマ塩模様(「桜的」も含む)になる結果と考えられます。つまり、ものの混ぜ方は一種類ではないと言うことでしょう。白+黒=中間色グレーとはならず、=混色・まだら模様、つまり色彩が中和されないケースもあるわけです。
 一方有色の因子同士では色彩が中和する例があります。桜とシルバーの子供が中間の色合い(「ダークシルバー」)となったのです。これは、文鳥の色彩遺伝では、基本的に同一の因子間の色の濃淡は中和される傾向を示しているのかもしれません。とすれば、事例1で存在も考えられるとした白文鳥の変質としてのシナモンが実在すれば、それと白文鳥の間の子供はより薄い色(クリーム?)になる可能性もありそうです(普通の白文鳥になる可能性もある)。
 しかし、現在シルバーはシナモン以上に最近あらわれた稀少な存在です。おそらくその系統はヨーロッパで原種の色変わりを固定した系統に限られているものと思われます。それは
遺伝子的には原種や桜と同様と考えられるので、白との間でより淡い色彩を出すのは不可能に近く、突然変異を期待する以外にないと判断せざるを得ないのではないでしょうか。


3、シルバー×白=桜・白・ゴマ塩 2000・12by「理恵」さん〕


 自家繁殖。オスが白文鳥、メスがシルバー文鳥。
 生まれた6羽中は2羽ずつ、白、桜、ゴマ塩に分かれた。パターンに当てはめると桜は生まれないはずだが・・・?

 この事例はおそらくHのパターンで説明がつくものと思います。「桜」とされているのは有色部の多いゴマ塩と考えられます。そもそも桜もゴマ塩もすべて『パイド』と総括すべきだという主張がある程で、両者の見かけ上の境界は不明瞭です。見かけは「桜」でも遺伝子的にはゴマ塩と区分すべきこともありえる訳です。
 この事例で有色(ゴマ塩)となった文鳥は、遺伝子型が私的にはwg
sと表現しますが、同じもの同士なら、白とシルバーとゴマ塩に分かれ、桜との組み合わせではゴマ塩かダークシルバー(中間色)に、白とでは相手の形質により、さまざまな子供が生まれそうです。

 仮説でも説明がつくわけですが、孫世代を追っていくと、矛盾が明らかになる可能性があります。矛盾が出ないと、白文鳥の遺伝子に大文字(最優性)のWと小文字(より劣性)のwという性質の異なる2種類のものが存在するという仮説の証明にもなるかもしれません。ともあれ、こうした異色間の子供の、さらに子供世代にも興味あるところです。

 


※ 事例1、2から、シナモン文鳥の遺伝子型が単純ではないことが見えてきたように思います。白文鳥を祖先に持つ桜的なシナモン、原種や白からの色変わり種としてのシナモンといった存在の可能性です。
 便宜上の私的な記号で言えば、シナモン=ff(赤目)、w
(=遺伝子的には白、黒目)、g(=遺伝子的には原種、黒目)、そしてそれぞれに白文鳥が入ることによって部分的に白羽のある桜的なものが生じている、というものです。同じ純白でも、白文鳥(黒目)とアルビノ(赤目)が別ものであるように、同じシナモン色でも、全く遺伝的には異なる存在を考えた方が良さそうです。
 もし、この推測があたっていれば、同じシナモンでも、赤目と黒目の子供はシナモンにはならず、白か原種となってしまうことになります。本当でしょうか。事例の蓄積が必要に思います。


2、シナモン×白=ゴマ塩 2000・12by「taxfree」さん〕


 自家繁殖。オスが白文鳥、メスがシナモン文鳥。
 生まれた4羽はすべてゴマ塩文鳥だった。パターン7、8でゴマ塩が生まれるはずはないが・・・?

 不思議です。シナモンがアルビノ的な劣性遺伝と考える限り、ありえない話です。
 しかし最近シナモンと言っても、目が赤くないものや、白い差し毛の多いものが見かけられるようで、その系統の発色は劣性によるものではない可能性があるかもしれません。この辺は謎の部分が多く、さまざまに考えられそうです。
 事例1で表現型としてはシナモンでも、実は遺伝子的には白文鳥という系統の存在を考えてみましたが、必ずゴマ塩が生まれるとすると、これには当てはまりそうにありません。片親が白文鳥である限り、仮説パターンではDかIである必要があります。この場合シナモンはシルバーと同じで白の因子と有色の因子が対等である必要があるわけです。つまりこのシナモン色因子は劣性とは考えられない事になるわけです。赤い目をした劣性によるものではなく、シルバーのような原種の色変わりとして掌握すべきなのかも知れません。
 ようするに、シルバー(g
)が原種(g)の変色とすれば、このシナモンもgとでも表現すべき存在ということになるでしょうか。

 劣性遺伝によるシナモンは、色素欠乏による赤目ですが、変色種は普通の目の色(黒・茶)となるはずです。この点についての留意が必要となりそうです。

 


1、シナモン×シルバー=ゴマ塩 2000・9by「ぱるぱる」さん〕


 お店でシルバーとシナモンが巣引きしていた。
 後日生まれた子を見せてもらうと数羽のゴマ塩だった。
 ただし、体は全体的に青みがかったような灰色で全体に普通のゴマ塩とは色が微妙に違っていた。
 パターン18で原種配色になるはずだが・・・?

 何故そうなってしまうのでしょう?謎です。シルバーとシナモンから白い差し毛がどうしてほっぺた以外で出現してしまうのかが問題です。
 仮説の枠組みにこだわると、この白い差し毛は両親ともに先祖に白文鳥がいるためのものと考えられます。この場合、漠然と隔世遺伝と考える以外には、基本的にこのゴマ塩と言っても実は桜文鳥的な遺伝子型の持ち主(gs+f+)であったと理解するしかないようです。とりあえず両親に白い差し毛があったかどうかが確認したいところだと思います。桜的シナモン、桜的シルバーと言った存在があるのかが問題です。
 もう一つ考えられるのは、シナモンを原種から作ったものだけではないのかもしれないとの仮定です。つまり、この事例のシナモンは白文鳥から変質したもので、遺伝因子単体では白文鳥と同じ働きを示すと考えるわけです。この場合、新たなシナモンの系統の存在を示す事例ということになるかもしれません。

 とりあえず報告例が一つの段階では結論を留保するしかないようです。

 


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