文鳥問題.

《ペレット論−その批判的検討−

 自分でもうんざりするしつこさで、ペレット批判をする形になっていますが、もともと個人的には物珍しいだけで興味はありませんでした(数百年の伝統のある普通の雑穀飼育の系譜をひく配合エサを主食とする我家の文鳥に栄養失調は見られなかったので)。ところが安易に獣医さんが使用を薦めるのを身をもって経験してしまい、世間に同様の無批判なペレット推奨がまかり通っているとすれば、これは深刻な問題だと感じてしまったのです。なぜなら正直に言って、私はペレットの利点を認めつつも、その現状を考えると、文鳥の飼育において使用することに否定的な見解を持たざるを得ないからです。
 もちろん一つの方法論としてペレット飼育そのものに反対する気はありません。批判と非難は違います。しかし、一部の『専門家』(これが文鳥飼育全般のことをさすとしたら、そんな者は絶対に存在しません)や、たまたまかかり付けになった獣医さんが薦めているから確実だとか、人工の製品には間違いがないとか、値段が高いから安心なのだとかいった、はなはだ頼りない理由で使用するとしたら、感心できないのです。何事も、自分の頭でその利点と問題点を十分に理解した上で決めるべきだと思います。
 そこで、すでにペレットについては取り上げてきましたが、ここで改めて総括として、文鳥の一飼育者である私が、ペレットを検討した内容を参考までに具体的にまとめることにしました。当然私の見解に全面的に賛成する必要はありませんし(全面的に否定できる話でもないと思いますが・・・)、事実誤認があればご指摘していただきたいところです。また反論を具体的にしていただければ幸いです(ただし「○○先生が言われた」は無意味です)。
 なお、現在日本で一般的に流通しているペレットとして、ラウデブッシュ社の『メンテナンスタイプ』を考察対象としています。より文鳥に適したペレットが存在していても、2000年現在一般的に店頭で入手できないものは考察対象とはせずに、ペレット=この製品と仮定しています。その点御了承下さい。「本当のペレットは別の会社のものだ」といった話は、内容を十分に比較検討の上具体的にお願いします。


栄養面  コスト面  形状面  まとめ 


栄養面 ―使用の位置付けの考察―

メンテナンスタイプの表紙 現在のペレットの位置付けについては、不明瞭と言わざるを得ません。私は『食べ物の話』の中で、他の補助的飼料を必要とせずにすべての栄養素が補える利便性が最大の魅力としました。しかし、メーカー側では粒餌配合飼料で太ってしまう場合のダイエット食にもなり得ると考えているかのように、『ラウディブッシュ社』の『メンテナンスタイプ』には「ダイエット食」と明示されており、この用途で利用されている方も多いようです。

※ [diet]は本来「日常食」程度の意味で、この商品の裏書にある「メンテナンスダイエットフード」も「日常維持食」と解釈すべきなのですが、「ダイエット」=痩せる、という日本語感覚が広く存在するので誤解を生む記載だと考えています。ただ同商品が痩せるための食品と認識しているかのような表現があるとのご指摘を頂きましたので、訂正の上、注記致します。(00/11/30追記)

 ところが実際には7%の脂肪分を含んでおり、6%程度かそれ以下の配合飼料を食べている文鳥においては、脂肪分が10%をはるかに越える種子食のオウム類(例えばヒマワリの種の脂肪分は50%超)にこれを使用するのと同様のダイエット効果は望めないと思います(カロリーも低くないです)
 肥満の理由はさまざまでしょうが、運動不足の解消
(外で遊ぶ時間を長めにする、カゴを大きなものに変える)や、偏食なら原因種子を特定し、その配合比率を低くおさえたりするといった
選択肢がペレットの使用以前にあるはずです。肥満、即、ペレット使用というのは、あまりもステレオタイプの空疎な対応ではないでしょうか?主食を慣れないものに180度変更するのは、文鳥にも負担となり、そこまですぐに変える必然性はないもの思うのです。

※ 当のラウデブッシュ社の商品パンフレット(2000年1月記)にも「急な変化はデリケートな小鳥にとって大きなストレスを与えることもありますので日々様子を見てください」とあります。こう言った但し書きを見ると、安易な導入で困ったことになった事態が多々あったものと推測されます(00/9/26追記)。

 ただし、ペレットは栄養バランスがとれているはずなので、結果的にダイエットにもつながるかも知れません。しかし、運動不足や好物の食べ過ぎなどさまざまな原因で体調を崩した人に対して、「あなたは今後総合バランスフード(例えば『カロリーメイト』)だけしか食べてはいけない」と宣告するのはおかしいでしょう。まずは、あまり好物ばかりを食べないように注意を促すのが常識ではないでしょうか?
 どうして、文鳥だとそれが大雑把にあっさりと食事の全面的変更を迫るといった態度になってしまうのか、むしろ不思議な気がしてしまいます。エサの部分的な変更や運動不足の解消などを試みた果てに、ペレット使用を試みるのが順序というものでしょう。何で初めから激変させなければならないのか、安易に他人に推奨する方々には、しっかりと考えてもらいたいところです。
 とりあえず、文鳥の場合、単純にダイエット食として位置付けられないことだけは、明確に認識していただきたいと思います。

※ 実際の配合エサの脂肪分は4〜5%に過ぎず、さらにほぼ無脂肪の小松菜等を食べていれば、実際の摂取量の占める脂肪分の比率はさらに低くなるはずです。それを基準とすれば、絶対的に7%の脂肪分を摂取することになってしまうペレットは、むしろ文鳥には脂肪過多をまねく可能性を考えるべきでしょう。

 ペレットは総合栄養食として存在しており、犬のドックフードにあたる物とされています。したがって本来それだけですべての栄養をまかなえるように作られているものであり、他のものを付け加えて与える必要はないはずです。
 某動物病院のHPは、配合粒エサをご飯に例え、それだけでは
犬に汁かけご飯(ネコマンマ)だけを食べさせ続けるようなものだと、実にうまい表現をされています。しかしこれも配合エサを否定できる話ではありません。なぜなら、配合エサがご飯であるとの例えは的確としても、ペレットへの切り替えを考えるほど問題意識の高い飼い主は、普通それだけで飼育することはなく、青菜やボレー粉などの『おかず』を用意するに相違ないのです。また、もし配合エサのみですませていたとしたら、それはただ知らないというに過ぎないのですから、本来「おかずも必要です」とアドバイスするのが、有識者の常識と言うものだと思います。
 つまり配合エサの使用=栄養不足との
単純な主張は成り立たず、そのように認識するのは明らかに間違いです。配合エサはご飯にすぎないから、おかずとなる物も与えなければならず、その時間がなければペレットのほうが便利、というように話は進展していくべきものでしょう。おもむろにペレット使用を云々するのは、論理的にはきわめつけの暴論と認識すべきです。

 また、本来の主食であらねばならない生肉(タンパク質)を、人間の都合でご飯(炭水化物)にされてしまっていた犬にとってのドックフードの必然性と、本来の食性と変わらぬ穀類をペットとなっても主食とし続けてきた文鳥にとってのペレットの必要性とは、全く話が異なることにも留意すべきです。
 人間が米
(ご飯)か小麦(パン)を主食としてバランス良くおかずを食べているのに対して、健康のためには
「明日からは宇宙食(身近では『カロリーメイト』)と水だけだ」と言う人はいないでしょう。バランス良く食べて健康であれば、何ら問題ないはずなのです。

※ 現在宇宙食は栄養摂取のみを目的としたチューブ式のものから、食ベ応え(食感)を得られ、味覚も多様なものとなってきているのは周知のとおりです。また、昔の多くのSF小説家の描いた未来像に反し、人間社会の食の合理化はまるで進まず、むしろ多様化し飽食の一途をたどっているのが現実でしょう。そして、食事は栄養摂取面のみで考えるべきものではないことも、もはや常識となっており、『総合バランス食品』を食事の中心となるという幻想は消え、あくまでも時間のない時に携帯できる補助的な物と言う役割に制限されてしまっていることを想起すべきではないでしょうか。
※ ドックフードについても、その危険性は諸方面で強く指摘されており、獣医さんの中にもこれを主食とする事を完全に否定する見解もあります(むしろ健康を損ねるので、人の残飯からうまく工夫すべきだとの意見)。病気どころか奇形児の出現の要因となっている疑いもあるそうです(須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』1998年)。過信は禁物と言うことでしょうか。
 また、同書では脱脂大豆を原料とするドックフードによる甲状腺機能不全が指摘されています
(アメリカの『ドッグワールド』誌の調査という)。その因果関係は今一つわからないものの、非加熱大豆の毒性については周知の事実なので(トリプシンの活性を阻害して消化不良を起こすと云々)、ラウディブッシュの製品が原料に「大豆粉」「大豆油」を含んでいるのは、あまり感心出来ないところかもしれません。(
00/10/27追記

 次に、栄養面を具体的に見てみましょう。ラウディブッシュ社のペレット(メンテナンスタイプ)の包装紙にある成分構成表には、次のようにだけ記載されています(1kgあたりで表示されているものを、100gに換算しました)

エネルギー343kcal タンパク質11.0 脂肪分7.0 繊維質3.5 水分12.0
 カルシウム0.37
 ヒタミンD
80ICU ビタミンA787.5IU

メンテナンスタイプの裏表紙 とりあえずこの成分表によって、カルシウムとビタミンAが添加されているので、ボレー粉と青菜は必要ないことと、体内で形成するには紫外線が必要とされるというビタミンDを含むため、日光浴の心配もないことが看取されます。これは、実に薄暗いペットショップで利用して欲しい内容ですが、家庭でこれのみで良いのかとなると疑問です。
 一体、
このペレットのみ与えると言う人が、どうしてこの程度の成分表示で納得できるのでしょうか?カルシウムがこの値で十分なのかといった成分構成そのものの検討もさることながら、他のビタミン類はどうなっているのか、鉄分などのミネラル分については配慮されているのか、などなど、この表示のみでは疑問がつきなくなります。何しろ、数百年続いた雑穀による飼育に比べて、ペレットは実績が少なすぎるので(日本ではおそらく十年以下)、綿密な科学的根拠がなければ、とても安心できないと思うのです。ようするに実績が無いのです。
 
「そういった心配があれば、青菜やボレー粉を与え、ビタミン剤やヨードを飲水に混ぜたりすると良い」などと単純に考えたら、それは無茶苦茶と言うものです。そういった補助的なものを一切必要としないように、ペレットは作られているはずですし、それらを必要としない利便性にこそ価値があるはずなのです。これでは食膳に『カロリーメイト』とサラダを並べて、牛乳の中に各種ビタミン剤とヨード卵『光』をいれてシェイクしたものを飲んでいるようなものです。パン(配合エサ)を『カロリーメイト』(ペレット)にした意味がなくなってしまいます。

※ なおヨードについても触れておきます。ヨードは甲状腺ホルモンを形成する物質ですが、普通は海産物から摂取します。アメリカ人のように魚介類を余り摂取しない地方では、欠乏症を起こしがちなので、食塩に添加したりしますが、海洋国である日本ではほとんど問題視されません。文鳥の場合は、おそらく海産物であるカキがら(ボレー粉)から摂取されるものと思われます。私のお薦めはおやつに煮干(いりこ)ですが、ボレー粉を少しでも食べていれば問題は起きないと思います。なお、これがペレットに含まれているかは不明です。
 また、不足する点ばかりが強調されがちなようですが、ヨード(ヨウ素)は過剰摂取しても甲状腺腫を引き起こしてしまうので(『日本経済新聞』1999・10・25夕刊、北海道沿岸部の住民が昆布を大量に食べることにより甲状腺腫となった)、飲水にたくさん添加したりすると逆効果となりかねないようです。熱心な飼い主ほどむしろ過剰投与に気をつけるべきだと思います。(00/10/27追記

 飼い主はとかくペットを人間と同一視してしまうものなのに、なぜ食餌に関しては人間の事例に当てはめて考える事が出来ないのでしょう。食品の内容は違っても、組み合わせなどの概念に変わりはないはずです。したがって私はあえて次のように当てはめて考えることにしています。妙なところで人間と区別せずに、常識的な理屈として考えてみるとわかりやすいと思うのです。

配合エサ・・・ご飯、パン  青菜・・・サラダ
  ボレー粉・・・煮干、牛乳  ペレット・・・『カロリーメイト』

 なお、中には、さまざまな副食も与えつつ、あやしい輸入穀物からなる配合エサよりも、加工製品の方を主食として選びたいという人もいるかもしれません。しかしそのようなポリシーがあるのなら、ペレットに人間のコーンフレークのような手軽さ(栄養面も程ほどで低価格)のものが開発されるように働きかけるべきではないでしょうか。コーンフレークなら牛乳と混ぜて食べても当然なのです。つまり、現状のペレットの位置付けは、主食の代替品ではなく、あくまでも総合バランス食品であり、主食に置きかえるべきものではないのです。

※ なお、粒エサの中に不良品があるので、ペレットを推奨するような考えがあるとしたら、その意見も成り立ち得ないものだと思います。それは古古米(フルフルマイ)や産地や品種の虚偽が市販の精白米の一部にあるからといって、「ご飯を食べるな」というに等しい議論です。不良品は買わないように心がければすむことで、さらには飼料会社に改善を促すなり、問題製品をHPなどを使って指摘するなり、不買運動を起こすなり、公的に告発するなり方法はいくらでもあるはずです。

 また飼料会社が科学的な綿密な計算と、オカメインコによるという詳細なデータの裏づけで出した数値のはずなので、その成分構成はベストなはずですが、この点も考えておくべきかもしれません。この際、HP『飼鳥の医学』が『AVIAN MEDICINE(1994)』より引用されているオウム目・スズメ目の栄養摂取の目安(100gあたり)と比較してみましょう。

エネルギー300kcal タンパク質12.0 脂肪分4.0
 カルシウム500
mg ビタミンD
100IU ビタミンA500IU

 この値自体は対象生物が広すぎるので、文鳥についてどれほど正しいか不明瞭ですが、とりあえず目安程度としてみても(大型から小型まで含んでいるとすると、文鳥はこの値より低い程度に考えるべきでしょうか?)ビタミンAはすでに必要量以上のものが含まれているということになります。
 ビタミンの過剰摂取は問題とはならないのでしょうか。そこで少しインターネットで検索してみました。・・・・・すると、ビタミンAは水溶性
(ビタミンCやB、余剰分は排泄される)ではなく脂溶性のため
余剰分は体内に蓄積され、頭痛、吐き気、皮膚の硬化等の過剰症を人間の場合を引き起こすとの記事がありました。文鳥の場合は大丈夫なのでしょうか(ただし野菜に含まれるβカロチンには過剰摂取の問題はない)。少なくとも、すでに十二分な量が添加されていることは間違いありませんから、飲水に混ぜたりするビタミン薬との併用は注意すべきことは明らかでしょう。文鳥のためを思っていろいろと手を尽くしたつもりで、過剰摂取でかえって体調不良を起こしては何にもなりません。

※ なおビタミンDも脂溶性のため過剰摂取すると体内に蓄積されてしまい、人間の場合血管壁、肺、腎臓、胃へのカルシウム沈着といったビタミンAよりも問題のある症状を起こすというので(実際に某有名キャットフード中に含まれた標準摂取量の100倍のビタミンDによるカルシウム沈着によって、呼吸困難などの症状を起こし死亡した例もある。【『動物に何が起きているか』三一書房1996年】)、文鳥の場合もかなり心配な問題ですが、ラウディブッシュ社の包装紙にある『ICU』という単位がわからないので保留しました。しかし『基礎家畜飼養学』に「1ヒナ単位(ICU)」とあり、D3の効力としては、1IUと同じ事のようです。ニワトリのヒナに対する効力が、D2D3では異なるために用いる単位のようです。
 つまり、
D3の効力に限れば80ICU=80IUと考えて良いものと思います。そしてこの数値は『摂取目安』の100IUの80%であり、ラウディブッシュ社の商品パンフレット(2000年1月記)に「健康的で成長を保証する為に必要なビタミンD3だけを注意深く加えていっています」との認識のとおりに、十分に配慮された含有量と見なせると思います。(00/12/28改めて追記)


コスト面

 「少数飼いでは青菜代が高くつく」という意見があります。これは表面的にはもっともな話のように思います。そこで、少し具体的に考えてみました。

 まず、それぞれの買値(市販のからつきエサ『カスタムラックス文鳥専用』830g490円・ラウディブッシュ社のペレット『メンテナンスタイプ』750g1400円))から1日あたりの単価を出します。1日の厳密な消費量ははっきりしないので、便宜的に8.3gと7.5gと仮定します。0.8gの差があるわけですが、殻のある分粒エサの方が重量が必要なはずなので目安としては適当な相違かと思います。それを週単位に換算し、青菜を一般的な小松菜とし、粒エサの場合1束150円として一週間に2束買うことにします(1束の葉数約60枚、1羽2枚として週4日くらい)

@ 配合粒エサと週4回くらい青菜 1日8.3g=4.9円×7=34.3円
小松菜150円×2
合計334.3円
A ペレットと週1、2回青菜 日7.5g=14円×7=98円
小松菜150円
合計248円
B 完全にペレットのみ(Aの青菜抜き)   合計98円

 それぞれの飼育羽数による費用の試算を出すと次のようになります。

  10 11 12 13 14 15
@ 334 369 403 437 472 506 540 574 609 643 677 712 746 780 815
A 248 346 444 542 640 738 836 934 1032 1130 1228 1326 1424 1522 1620
B 98 196 294 392 490 588 686 784 882 980 1078 1176 1274 1372 1470

 数が増し小松菜の余剰がなくなるに従って(15羽まで)、ペレットのコスト高が強調されてしまうわけです。そのコスト比が逆転するのは3〜5羽ということになります。しかし、その差も10羽で一ヶ月にして約3000円と約5000円の違いで2倍まではありません。これをどう考えるかは人それぞれでしょう。
 この試算では1、2羽で飼う場合、ペレットは現状の値段でも決して高級なものではなく、
コストパフォーマンスにおいても優れていると評価できるのではないでしょうか。

 しかし、これは野菜を小松菜に限定し、さらにその野菜を文鳥だけが食べるものと仮定し、残ったものは捨てることを前提とした話です。実際の選択肢は小松菜だけではなく、また小松菜は人間も食べてもばちはあたらず(むしろおみおつけに入れるなりゴマ和えにして食べなさい!)、さらに言えば、少数で一束の圧倒的な部分を捨てるくらいなら、プランターで自分の家で栽培することも可能であり、究極的には行きつけの八百屋をつくってそこのオジさんに切れ端を2、3枚もらってしまうという方法だってあるわけです(ただし野菜はそこでしか買わない態度が必要…)
 つまり、実際には週に2回も15羽をまかなえるほどの量を購入し、大半を腐らせたりする必要はないはずです。人間のおかずの添え物をキャベツからサラダ菜にして文鳥にも1、2枚与えれば良いし、2、3羽なら小さなプランターで栽培した小松菜の葉で十分でしょう。また、トウミョウなどはプランターに植えてしまうなりして鳥カゴの横におけば、一ヶ月くらいもつかもしれないのです。そのトウミョウなど100円です。後は人間が食べる時に小松菜なりチンゲンサイなりを与えれば良いのではないでしょうか。
「鳥だけ」のために用意しようと考えるから大変なのではないかと思います。
 ようするに粒餌の場合は、少数でも工夫次第でコストは削減できる余地がありますから、ペレットよりも高くつくとは言えません。

 つまり、コスト面での優劣はそれほどではないものの、多数を飼うことになった場合、ペレットのコスト高がどうしても影響してしまい、そこに飼い主の工夫の余地はないとは言えるでしょう。従って、中々ペットショップや繁殖家は使用しないという結論となってしまわざるを得ないわけで、使用されていないのが現実です。
 しかし、そもそもの前提として、
あの値段は正当なものでしょうか。トウモロコシ粉や小麦粉といったおよそアメリカでは冗談のように安いはずの原料が主成分で、その他にもとりたてて高級そうなものを含んではいないように思います。一体アメリカではいくらで売られているものなのか気がかりとなります。
 そこで、英語は苦手なので気がめいるのですが、検索エンジンで「roudybush」をひいてみました。すると通販しているらしきそのアメリカのサイト(http://www.aboutbirds.com/)があり、メンテナンスタイプが「3lb」「9.7ドル」とあります。lbは重量の単位ポンドで、1ポンドは453.6gです。今1ドルが110円とすると、約1360gが1067円ということになります。さらに、わかりやすいように日本の小売サイズ750gで換算すると
約588円です。日本での1400円に比べれば半値以下ということになってしまいます。輸入コストがかかるとはいえ、倍以上になって良いものでしょうか。これがせめて25%程度安く1000円程度に下がれば、だいぶ使用しやすくなるのではないかと思います。

 ついでに同HPに1989年にTom Roudybushさんが書いたという宣伝文があったので引用しておきます。

 Roudybush Maintenance Pellets or Crumbles offer several advantages over the standard seed diet. All the vitamins and minerals known to be required by parrot-type birds are already included with protein, carbohydrates and fat at optimal levels for good health. You no longer need to offer supplements which are time consuming, messy and costly. You no longer need to worry if your bird is only eating the high fat "junk food" seeds (sunflower and peanuts) and shunning its healthier greens and oat groats. Pellets and Crumbles are completely edible, so you no longer pay for inedible hulls which you are constantly chasing around the house.

 英語の堪能な方頑張ってください…。とりあえず、この製品が「parrot-tipe」つまりオウム類のためのものであって、そのオウム飼育の上で、副食による「messy(面倒な)」と「costly(高価な)」の必要がないというセールスポイントを掲げているものと解釈できると思います。それが製造販売している側の認識なのでしょう。
 それでは日本ではどうでしょう。本来想定外の全く別種で大きさも大変異なるフィンチの同様の目的
(ダイエット)
適用してしまうという無理を犯し、さらにコスト面での魅力も失われているということになりはしないでしょうか。

 こうした事実を考慮すれば、日本における文鳥飼育の場合は、緊急性がなければ使用しないほうが良いという結論に達します。この結論に何の不思議があるでしょうか?


形状面 ―大きさ・質・クチバシ運動など―

 ラウディブッシュ社のものは加工も非常に荒く、形は不統一でごつごつしており、固く、かじればボロボロとこぼれてしまいます。さらに「フィンチ用」としながらも十姉妹や錦華鳥といった小型のものには明らかに大きすぎるなど、現状では大雑把といわれて仕方がないものいえそうです。いったい雑穀の何倍もの大きさにする必然性がどこにあるのでしょう。ご使用の方の多くは、そのままでは与えず、一々割って与えていると言う話を聞きます。これではペレットの利便性という魅力すら失ってしまうのではないでしょうか。
 オウム類のために開発したものとはいえ、文鳥で使用する人間がいる限り、製造元はそれを意識して改善するべきで、改善もしないような製品を無理して使用する必要はないと思います。文鳥の偏食問題などによってやむを得ず、他に選択の余地がないのでペレットを使用せざるを得ない特別な人が使用し、その後、それらの経験を踏まえ
文鳥向けに改良されてはじめて、健康上問題のない一般の飼育者に利便性をもって薦めることが出来るようになるのではないでしょうか?現状のままでは利便性においてすら評価できず、文鳥飼育一般に適用するのは無理と判断せざるを得ません。

※ 当のラウデブッシュ社の商品パンフレット(2000年1月記)にも「各サイズ有りますが、出来るだけ小さいサイズのフードをお選び下さい。その方がロスも少なく食べる効率も良い様です。」と有ります。食べにくさと言う問題を明確に認識しているわけです。文鳥以下の大きさの小鳥には「各サイズ」のもっとも小さいものでも尚大きすぎるわけです。より小さいものを用意してしかるべきではないでしょうか(00/9/26追記)。

 さらに、雑穀の殻をクチバシで取り除いてから食べるという自然の行為を、固形の加工食品に換えてしまうことで皆無としてしまう点は、健康上問題ないのでしょうか。食べ物の問題は、栄養面ばかりがクローズアップされますが、そういった側面での検討は十分に行われているのか、明確にしてもらいたいところです。
 また、鳥類では胃
(砂のう)の中に鉱物を貯め、消化の助けとするとされていますが、こうした側面をこのペレットは考慮した上で開発されたものなのなのかもわかりません。何とも、
一消費者には皆目見当がつかないことが多いのです。
 老鳥は栄養摂取が難しいとされ、また殻をむかずに食べられる総合食のペレットは、利点が多いはずです。しかし実際はどうでしょう。体の弱った文鳥に対して用いるものとしては、ラウディブッシュのものは固すぎるのではないでしょうか。そうした用途であれば、ドックフードの老犬用が普通のものより軟らかく吸収が良くなっているように、今後製品としてそれなりに工夫が必要ではないかと思います。つまり、現状では、他に代替品がないので仕方がなく使用するといった消極的な意味合いしかないように思います。
 また年をとってから必要となるかもしれないと言う理由から、健康な時からペレットを用いるべきとの議論があるとしたら本末転倒な話です。人間で考えてみましょう。年をとり病気になって流動食しか受け付けなくなるからと言って、
若い内に流動食にする者がいるでしょうか。それでは、かえって不健康となってしまうでしょう。取り越し苦労する意味はないと思います。


まとめ

 開発されて10年程度らしいペレットに疑問が多いのは、どうしようもない事実です。私にはフィンチ類への使用を前提に開発されていないものを、特別の理由もなく文鳥に使用するのは 、企業のモニターでもない限り、無鉄砲な印象を受けてしまいます。まして、これほど疑問点があるにも関わらず、安心確実な物として他人に薦めたりするのは、獣医さんであれ誰であれ軽率すぎる勘違いといわざるを得ないと思います。配合エサで不都合が起きていなければ、積極的にペレットを使用する必然性が文鳥にはまったく見当たらないのです。
 また使用する際にも、他人に薦められて何となくといったことではなく、その目的をはっきりさせるべきだと思います。そしてそれぞれの
使用目的に適合したペレットになるように働きかけていくべきでしょう。その点、これまで私はペレットには四つの利用価値があり、そして当然改善すべき点があると指摘してきたつもりです。最後に参考までに整理して総括と致します。

@ ダイエット目的の使用 ・・・・・文鳥に適したより低脂肪の物が望まれる。ペレットのみを食べさせることになるので、完全な栄養分表示も必要となる(塩分【ナトリウム】など)
A 主食としての使用 ・・・・・副食を与えるので多様な栄養を大量に添加する必要はない。より栄養面は簡略にし形状などは自然に近いものにすることが望まれる。
B 病気・老鳥での使用 ・・・・・固いものは負担となるので、より柔らかで消化吸収の良い物が望まれる。切り替え安いように、嗜好性の向上も望まれる。
C 利便性からの使用 ・・・・・いちいち飼主が砕かなければならないのはかえって面倒となるので形状の改善が強く望まれる。さらに安価になることも重要となる。

※ なお、@に関してはラウディブッシュ社から脂肪分を3.0%に押さえた『ローファット』と言うものが作られているそうですが、「脂肪太りの鳥や通風の治療時」に使用するようにパンフレットにあり、獣医さんの処方食で市販されていません。なぜ、インコのダイエット食の普通のペレットが市販され、文鳥のダイエット食になるべきものが獣医さんの手を煩わせないと手に入らないのか不思議な気もしますが、現状では一般的なものとは言えません。
 さらにこれはあくまでも脂肪過多の治療なので、例えばお腹などに出来る脂肪の塊を示すことなく(白っぽく浮き出ているので容易に確認できるらしい)安易に薦める獣医さんがいれば、それは怪しい態度と考えるべきだと思います。(00/9/26追記)

 以上の考察は繁殖をしないことを前提としています。もしペレットのみを使用しつつ繁殖をおこなおうと考えると、さらに難しいことになると思います。
 発情を促すには栄養が必要となり、産卵期のメスにはカルシウムが不可欠となります。そのため、ラウディブッシュ社のペレットには「ブリーダータイプ」「ハイエネルギーブリーダータイプ」が用意され、メンテナンスタイプの倍以上のカルシウムと、倍近くのタンパク質とビタミンDが添加されています。しかし、カルシウム
(ビタミンDも広義に含めておく)通常以上に必要とするのは産卵期のメスだけです。オスにはあまり必要がありません。通常の飼育では、
生理的な欲求からメスだけが大量のボレー粉を食べることになりますが、ペレットに人為的に添加されていたのでは、オスは過剰摂取を免れる事が出来ません。
 ラウディブッシュ社は
「タンパク質とミネラルの過剰摂取で腎臓障害をおこす」事があるとし(パンフレット)、普段はメンテナンスタイプの使用を薦めています。ということは、発情促進段階では不要なカルシウム等の過剰摂取には目をつぶり、産卵期のオスへの過剰摂取も目をつぶり、産卵終了とともにメンテナンスタイプに切り替え、孵化と同時にブリーダータイプにすることになります。飼い主が神経質なくらいに細心の注意をして徹底的に栄養の管理をする必要があり、それでも同居のオスの過剰摂取を避けられないわけです。
 これでは古典的に粟玉とボレー粉を使った方が全く楽だし、問題も少ない
(メス産卵時の粟玉によるオスの高栄養のみが問題)と言わざるをえません。それでは繁殖時だけはペレットをやめてよいものでしょうか。食習慣を変えるのは負担が大きくコロコロ変えられるものではないと思います。結局、
繁殖を考える場合のペレット使用は不適当と考えざるを得ません。(00/10/16追記)

 以上、客観的に検証してみたつもりですが、お気づきの点があれば、具体的な批判を頂きたく存じます。


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